過去の輝きも色彩も全て
明瞭に再現され
堕ちてゆくこの瞬間、再び
なだらかな稜線に雲が少しかかり
僕らの間を吹きぬける風は爽やかな香り
砂利道を歩く足音みっつ
しかし誰も話はせずに蝉の声
一番うしろで僕はのんびりと
君たちはそれぞれどこかを見ながら歩いており
「何を考えてたの?」
「…今朝のキスの事」
ああ、お熱いねぇ…などと腑抜けた思考、ひとり
目を細め懐かしそうに
そっと手をやった指にリングは既に無く
慣れていた指の重さを脳は忘れ
意識を戻せば自部屋で
季節はすでに巡り巡り
もうあの時は戻ってこない
記憶の接触はすべて悲しみへと連結され
もう二度と
もう二度と起こりえぬ
あの奇跡に涙する