僕の、場所。
今日の僕は誰だろう。
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それは、きっと勇気を出しての行動だっただろう。
隣へ腕を伸ばすと、さらさらの髪に触れる。
「会えて良かった」
微笑みと共に返ってくる言葉。
「それはあたしの台詞だよ」
電車の中での別れなど、時間が足りなさ過ぎる。 人目を気にしてしまうのは仕方がない事だろうか。
触れられる事に恐怖はないようだから。 満員電車を言い訳に、ギリギリまで君に近づく。 それでも足りなくて、肩に腕を回して凭れ掛けさせる。
駅が近づいてくる。カーブと停車で、速度が緩む。 しかしそれは別れが近づいている事に他ならない。
「気を付けて帰ってな」 「そっちもね。じゃ」
本当に離れてしまう、そう思っていた矢先。
最後の言葉に被るように、首筋に君の唇と体温が触れた。
何事かを理解するまでに時間は必要なかったけれど、 ホームに降り立ってにこやかに手を振る君に呆然とする。
座ったままの僕の膝に何かが触れて意識をこちらに取り戻す。 杖をついた老婆に席を譲り、数歩の移動をした。
あれ、と気付いた時には
もう電車は動き出し、既に君の姿はみえなかった。
君は僕を見ていただろうか、それとも歩き出していただろうか。 それすらも知りえない自分に呆れかえった。
最後の最後まで君を見ていたかった…なんて信じてもらえるだろうか。
ひとり、路線図を頭に描いて帰路を考える。
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