DEAD OR BASEBALL!

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Vol.182 外国人選手に見る弱肉強食の構図
2004年04月18日(日)

 今年のプロ野球選手名鑑を読んでいて、少し気になることがあった。日本の球団経由で移籍を果たしている外国人選手がやけに目につくのである。以下に挙げてみよう。

 フェルナンデス(ロッテ→西武)、ミンチー(広島→ロッテ)、ムーア(阪神→オリックス)、アリアス(オリックス→阪神)、ドミンゴ(横浜→中日)、バルデス(阪神→中日)、シコースキー(ロッテ→巨人)、ランデル(ダイエー→米独立フォートアース→巨人)、ペタジーニ(ヤクルト→巨人)、ローズ(近鉄→巨人)、ギャラード(中日→横浜)、以上の11人は日本球界内で移籍している現役外国人選手である。

 異常な数のように思う。過去にも国内で移籍を果たしている外国人選手がいなかった訳ではないが、これだけの数が1年間に揃ったことはちょっと記憶にない。

 過去10数年に遡って、同じような例の外国人選手を探し、球団別にまとめてみた。前述の現在在籍している選手は除いている。思いつくままに挙げているので洩れがあるかもしれないが、一つの目安としてご覧になってほしい。実績は前球団での主なものだけ付記しておく。

・ダイエー
 ブーマー(オリックス→92年)84年三冠王、87・89年打点王
 ロペス(広島→98年)96・97年打点王

・西武
 ブロス(ヤクルト→98年)95年14勝・最優秀防御率
 エバンス(阪神→02年)
 
・近鉄
 ブライアント(中日→88年)
 レイノルズ(大洋→93年)91年ベストナイン・最多連続打数安打11
 ウィルソン(日本ハム→02年)97年本塁打王、98年本塁打王・打点王

・ロッテ
 ローズ(横浜→03年、3年ぶりの復帰)93年打点王、99年首位打者・打点王

・日本ハム
 セギノール(オリックス→AAA→04年)02年1シーズン2度の1試合左右両打席本塁打

・オリックス
 ドネルス(近鉄→97年、近鉄時代の登録名はC・D)

・阪神
 パリッシュ(ヤクルト→90年)89年本塁打王
 パチョレック(横浜→92年)90年首位打者
 コールズ(中日→AAA→97年)96年打率.302・29本塁打
 パウエル(中日→98年)94〜96年3年連続首位打者
 フランクリン(日本ハム→00年)99年30本塁打

・中日
 ホール(ロッテ→95年)93年30本塁打
 クルーズ(阪神→AAA→03年)

・巨人
 ハウエル(ヤクルト→95年)92年首位打者・本塁打王
 ヒルマン(ロッテ→97年)95・96年2年連続2ケタ勝利・防御率2点台
 マルティネス(西武→99年)97・98年2年連続30本塁打以上
 メイ(阪神→00年)99年奪三振率9.00超
 ペドラザ(ダイエー→03年)00・01年2年連続最優秀救援投手

・ヤクルト
 オマリー(阪神→95年)93年首位打者、92〜95年4年連続最高出塁率

・広島
 バークレオ(西武→91年)
 ロペス(ダイエー→ウィンターリーグ→00年復帰)
 ラドウィック(日本ハム→00年)
 シュールストロム(日本ハム→01年)
 ニューマン(ヤクルト→03年)

・横浜
 なし

 ここ数年、こういった形で移籍している外国人選手の数が爆発的に増加していることがわかる。現役でも12球団最多の4人を抱えている巨人が、かつてヤクルトの主砲だったハウエルを獲得した辺りの頃から、この傾向は確実に右肩上がりの曲線を描いている。

 87年にバリバリの現役メジャーリーガーとしてヤクルトに入団したホーナーは、そのシーズンオフに退団する際、『地球の裏側にはもう1つのベースボールがあった』との迷言を残した。日本球界に対する蔑視的な意味合いが込められた発言ではあったが、大物と言われたディアー(→94年阪神)、グリーンウェル(→97年阪神)の低迷を見ても分かるように、メジャーの実績そのままに日本で活躍する外国人選手は極めて少ない。「野球とベースボールは別物」と言われる一つの由縁ではある。

 プロ野球における外国人選手獲得とは、その意味においては馬券を買うようなリスクを抱えている。実力云々より先に、日本の野球に対する適応力が求められるからだ。三冠王のバースはアメリカではAAAとメジャーを行き来する選手だった。ペタジーニも同様に、97マイルのムービングボールは打てないが日本の145kmストレートは的確に打ち返し、変化球はきっちり見極められる選手だった。

 日本で成功する外国人選手は、共通して日本の野球に対してうまくアジャストした選手たちだった。ただ、その部分には「やってみないとわからない」というリスクが多分に付きまとう。その見極めをするのが、外国人スカウトの腕の見せ所ということになる。

 そのリスクを極力回避する手段として最も手っ取り早いことは、最初から外国人選手を獲得しないことである。ただ、チーム事情においては即効性の戦力注入がどうしても求められるケースがある。

 そこで、既に日本野球に対する対応力も含めた実力がある程度表に出された外国人選手、つまり日本国内での外国人選手獲得という結論になる。もうこれだけ日本で活躍しているのだから……という理屈である。こういった理屈で外国人選手を獲得している球団は、資金力に余裕がある球団である。主にダイエー、西武、阪神、中日、巨人で、この中でも特に依存度が高いのが阪神と巨人。

 阪神、巨人共に、日本球界でビッグネームにのし上がった外国人選手をことごとく獲得している。特に巨人の獲得した外国人選手は、現役のペタジーニ、ローズまで含めれば相当なメンツである。

 その間、巨人が独自ルートで獲得した外国人選手を振り返ってみると、95年のマック、96〜00年のガルベスが戦力になったぐらいで、まさしく死屍累々の惨状。こういう自力獲得外国人選手の成功率の低さが、日本で実績を残している外国人選手の乱獲に向かわせている要因であることは間違いないが、それならフロントはいらないというのが個人的な本音。フロントの仕事はチーム編成も含めた目利きであって、目利きを他所任せにしているならフロントの仕事はないからである。

 レロン・リー(77〜87年)、レオン・リー(78〜86年)、郭源治(81〜96年)、荘勝雄(85〜95年、91年日本に帰化)、郭泰源(85〜97年)、ブライアント(88〜95年)のような息の長い選手の例もあるが、基本的に日本で活躍する外国人選手の耐用年数は数年単位である。これを言い換えれば、90%近くの外国人選手は日本での選手寿命が短いということになる。

 短い選手寿命の中で成功するということは、その中で活躍する選手としてのピークは、前に所属していた球団でほぼ消化しているということである。前球団での実績で堂々と移籍を果たし、途端に活躍の曲線が下を向いた選手を挙げれば、その依存度が高い阪神と巨人では他球団よりも明らかに露骨な数字。

 バースやペタジーニの例のように、日本で大きく飛躍する選手の発掘から放棄し、目利きは他所に任せて大金にものを言わせてその選手を獲得する。その構図は、かすめ獲りと揶揄する前に中古品を新品と信じて買い漁るような浅はかさを感じる。

 少ない投資金で大物を釣る、という発想はそこには全く感じられない。有望な若手をエサという犠牲にして、やせ細って売り物にならない鯛を釣り、「やった、大物だ」と喜ぶ。実績と高年俸で体裁を取り繕い、これだけの選手を引っ張ってきましたと編成が自慢すれば、フロントが一緒になって喜んで編成を褒める。そして選手が余る。この構図は何かイビツなものを感じる。

 ここ数年の広島は実績に乏しい外国人を低年俸で獲得し再生に食指を伸ばすが、ドミニカカープアカデミーの停滞もあってことごとく頓挫している状態。それと裏腹に、数千万円というある程度の年俸を払って獲得したメジャー経験の外国人は、96年のロペスを筆頭に、98年ミンチー、99年ディアズ、03年シーツ、ブロック、デイビーと、ある程度の結果どころか大化けして主力選手になっている。外国人選手獲得にはある程度の金額があれば後は目利き、ということを対極的に表している事例だ。

 ただ、アカデミー出身のチェコが年俸で揉めて退団して以来、広島は外国人選手とよく年俸で揉める。数千万円で獲得した外国人選手が活躍し、実績を盾に大幅な年俸増を要求するが、それだけの年俸を払い続ける体力が広島にはない。結果、それだけの年俸を払える球団を求めて球団を飛び出す。この悪循環を断ち切れないどころか、ならば日本人選手でやっていくしかないという覚悟が広島のフロントには見えない。だから低迷を脱せない。

 異常な数の国内移籍外国人の数を調べていると、球団の基本的な体力(=親会社も含めた資金力)の差が浮き出てくる。体力の弱い球団が目利きと努力で獲得した外国人選手を、体力のある球団がことごとく食らい尽くしていくという弱肉強食の構図。共存共栄の発想は、いまだどこを見渡してもプロ野球からは見えてこない。

 「捨てたものを拾ってどこが悪い」という理屈は通じない。近年ではペタジーニもローズも、まだヤクルトや近鉄に所属している段階から球団との確執、そして他球団移籍ということがスポーツ紙等で囁かれていた。噂話のレベルではなく、かなり確実性の高い話だったように思う。そして事実、物事はその噂話と同じように進んでいった。

 選手獲得に関する情報は、本来は球団にとってトップシークレットの機密情報である。それが漏れてくるということは、タンパリングの疑いが出ない方がおかしい。どこか確信犯的な匂いを感じて仕方ないのだ。

 物事がこういう方向に収束していくと、いずれ必ず「1リーグ制10球団」という話に辿り着く。首謀者は見当がついている。悪い予感が当たるなら、たかが外国人選手という問題では済まなくなる。この問題は、あまり蒸し返したくはないのだが、小久保裕紀の謎の無償トレードという問題にも繋がっていく。

 犯行予告も何もなく、油断していなくてもいきなり寝首をかかれるような不気味さと怖さを感じる。現在の日本球界では、アメリカのイラク戦争よろしく「殺られる前に殺れ」という自衛意識が、何よりも前面に立ちつつある。そういうことが、20年前にはほとんどなかった外国人選手事情によって、うっすら見えてきてしまう。

 自分たちを武装するのに資本投下するのは当然の話である。これはスポーツ界にも当てはまる。だが、その投下の仕方が何か危うくなっている。杞憂であればいいが、これはかなり現実的な話だ。それが恐ろしく思えて仕方がない。



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