予め断っておけば、私はMLBには全く詳しくないし、そう多くの選手を知っている訳ではない。だからこれから書くことには随分と無理が出てくると思う。ただ、夢想を繰り広げるにはそれなりに面白い材料だとも思うので、敢えてその夢想を拡大する為に書いてみる。 ヤンキースのロジャー・クレメンスが、来年行われるアテネ五輪に、野球の米国代表として参加する意欲があることを表明したという。クレメンスと言えば今シーズンに通算300勝と通算4000奪三振を達成し、41歳になる今年も“ロケット”の異名に違わぬ豪腕振りを発揮する90年代最高の投手。 今年限りの引退を表明していることは惜しまれるが、野球人生最後の花道をアテネで飾るという気なのだろうか。五輪には3Aから選手を選んで派遣してくるアメリカの事情を考えれば、実現の可能性は未知数に近い。 夢のある話ではある。MLBが主導権を握って動かしていたスーパーワールドカップ構想が宙に浮いている中、これまでMLBは野球の国際舞台には目もくれず、MLBこそが世界最強を決める舞台としてその維持に努めてきたフシがある。そこに今期限りの引退を表明しているとは言え、いまでもメジャーの一線で充分に活躍しているクレメンスが来るというなら、これは間違いなく見所の一つにはなるだろう。 これを機にアメリカが野球の国際舞台に本気になる、とまでは流石に思わないが、国際舞台で一線級を揃えたオールアメリカも見てみたいし、戦い振りに唸ってみたいという欲求もある。ただ、MLBの事情を考えれば、本気というのがどこまで本気なのか、それもまたかなり天井が低くなる。 そこにクレメンスが表明したアテネ参加への意欲である。大リーグ機構のバド・セリグコミッショナーは今年3月、メジャー登録25人枠に含まれる選手の五輪出場を認めない決定を下した。引退を表明したメジャーを代表するクラスの投手の意欲を、MLBはどのように受け止めるのだろうか。少なくとも引退を表明しているクレメンスに、この障壁は存在しない。 MLBとしては、これまで3Aクラスでメダルを獲ってきている五輪にメジャークラスの選手を派遣することに、正直旨味は感じていない筈だ。だが、それはあくまでもMLBという組織の論理。MLBの功労者の一人と言ってもいいクレメンスの意欲、これはMLBとしてももしかしたら頭痛のタネになっているかもしれない。これまでアメリカでこのようなケースは聞いたことがないし、少なくとも日本でニュースにはならなかった。 そこでふと思い立ったのが、クレメンスのように既に引退を表明している選手や40歳以上の選手で構成された、MLBの代表チームが組めないものか、ということ。 日本に比べ、30代後半〜40代でも一線で活躍している選手が多い印象のあるMLB。選手層の違いによる絶対数の差、と言えばそれまでだろうが、41歳になる今年になってもなお95マイル近い速球を投げ込むクレメンスの姿を見ると、肉体の作り方や構造が違うということはできるかもしれない。いずれにしても、日本では超ベテランと呼ばれる年代の選手でチームを構成しても、国際舞台で一線級のチームが作れるのではないか、そんな疑問がふと頭をよぎった。 40歳になるランディ・ジョンソンは今年故障者リスト入りで本来の力を発揮していないが、それでも100マイルを投げる“ビッグ・ユニット”の勢いは衰えをまったく感じさせない。同じく40歳のエドガー・マルティネスはマリナーズの主砲を変わらず務め、同僚のジェイミー・モイヤーは41歳になった今年も淡々とローテーションを守り抜いている。今年ドジャースに移籍した40歳のフレッド・マグリフは、昨年カブスで30本塁打103打点を記録した強打の一塁手だ。 何と言っても驚きは、44歳になる今年、独立リーグから7月にドジャース入りしメジャー復帰した“世界の盗塁王”リッキー・ヘンダーソン。 昨シーズンオフはどことも契約することができなかったが、引退の2文字を億尾にも出さず独立リーグに移籍し現役続行、打率.339という成績を引っ提げ出場した独立リーグのオールスターゲームではMVPにも輝いている。深刻な打撃不振に喘ぐドジャースが7月に緊急獲得したが、復帰後4試合で2本塁打を放つ活躍を見せ、ドジャースファンの間では救世主的存在になったようだ。 46歳の今年、ヤンキースに移籍してきた左殺しの職人ジェシー・オロスコが現役最年長と聞く。38歳まで水準を下げれば、かつてはロッキーズの超強力クリーンナップの一翼を担った強打は尚健在の39歳エリス・バークス(インディアンス)や、2種類のナックルを投げ分ける現役トップクラスのナックルボーラーである38歳スティーブ・スパークス(タイガース)もいる。ジャイアンツを支える女房役のベニート・サンティアゴも38歳、何より忘れちゃならないのが、あの説明不要のバリー・ボンズも39歳だ。 この辺りの選手が出てくる可能性は、コミッショナー通達があることを考えればいまのところゼロと言ってもいいだろう。だが、41歳のクレメンスが五輪参加の意欲を表明しただけで、これだけの夢想を繰り広げられるのがMLBの懐の深さであることは間違いない。 クレメンスやボンズやジョンソンが同じユニフォームを着てグラウンドを席巻する姿を想像すれば、これは垂涎ものの光景になる。年齢で選手を測るのはバカげたことかもしれないが、それだけに年齢の壁を感じさせない、違った意味でのドリームチームになる可能性はある。 このオーバー40'sが実現しなくても、クレメンスが五輪の舞台に立つ姿は、是が非でも見てみたい。 最大の問題は、こんなとんでもないチームがもし五輪に来た日には、日本にとってとんでもなく強大な壁になることだ。しかし、そういう勝負が見れたのなら、一介の野球好きとしてはまさしく夢のような話ではある。 日本の勝利を願ってはいるが、強大な相手とのドリームマッチも見てみたい。このパラドックスは、見ているこちらの頭が痛い問題だ。
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