月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
知らぬ間に近所の桜はすっかり散ってしまい、葉桜の季節になっていた。 4年生に進級して、少し下校時間が遅くなったアプコを迎えに、坂道を歩いて下る。
アユコの中学卒業、入試、高校入学。 子どもたちの進級。 相次ぐ父さんの地方個展。 その留守中に、義父の転倒、入院。 慌しく怒涛のごとく過ぎていく春。 工房仕事の合間に見上げる空は日に日に明るく、高くなっていく。
遠くから私の姿を見つけて、カタカタとランドセルを鳴らしながら駆けてくるアプコ。 短いスカートからにゅっと出た足はすんなりと伸びて、若い小鹿のように跳ねてくる。ぺたぺたと音のする幼児の足取りをすっかり卒業して、タッタッと軽い足音が近づいてくる。 いつまでもちびっ子と思っていたのに、知らぬ間に少女に成長していく末っ子姫。。 慌しく見逃してしまった桜のように、いつの間にか失われていくアプコの幼さを惜しむ。
「おじいちゃんが入院したら、おばあちゃんは一人でさびしいよね。」 しょっちゅうおじいちゃんおばあちゃんに甘えて育ったアプコは、ひいばあちゃん亡き後なんとなくさびしくなった祖父母宅の老いを気遣う。 いつのまにか、その口ぶりは世話好きなアユコの物言いに似てきた。 いつまでも祖父母に甘える甘えん坊姫の仮面の下に、老いを労わる優しい心根が育ちつつあるのだろう。 有難いことだなぁと改めて思う。
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