月の輪通信 日々の想い
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昨日に続いてアプコのお話。
父さんのコーヒー用のシュガーポットのグラニュー糖が残り少なくなったので、代わりに小粒の角砂糖をポットいっぱいに詰めてテーブルの上に置いておいた。 「あ、コーヒーの砂糖、角砂糖になったんやね。」 と帰ってきたアユコが目ざとく見つけた。 「うん、かわったんよ」 と答えるのを、傍らでアプコがフムフムと聞いている。その生真面目な様子がおかしかったので、ちょっとからかってやろうと思って 「昨日、新しいお砂糖を入れてね、蓋を閉めるのを忘れたら、一晩で固まって角砂糖になっちゃったのよ。」 といってみた。 アプコ、一瞬目をまん丸にして、ぐっと一息飲み込んでから、 「そ〜ぉ?」 と、のどかなお答え。 決して母のほら話を頭から信じたわけではない。 かといって「うそ!」と直ちに切り返すわけでもない。
近頃、「そ〜ぉ?」はアプコの口癖。 一昔前のおっとりした良家の奥さんのような、のんびりと間延びした響きがなんともかわいくて、母はひそかに気に入っている。
「今日は長袖の上着着ていったほうがいいよ」 「そ〜ぉ?」(アタシは半袖で行きたいんだけど・・・。)
「菓子パン食べる?おなかすいてるでしょ?」 「そ〜ぉ?」(別にそうでもないけど、一応もらっといてあげる)
「アプコの絵、上手ねぇ」 「そ〜ぉ?」(それほどでもないんだけどね、照れちゃうわ。)
言われたことに納得しての返事でもない。 だからといって、「いや!」とむげに拒絶するわけでもない。 「別にいいけどね。」とか「そういう手もあるわね。」とか、ゆるゆると擦り寄るような鷹揚な返事が、おっとりマイペースのアプコらしい。
「角砂糖って、ほんとにサラサラのお砂糖を置いといたら勝手に出来るの?」 しばらく間をおいてから、アプコがおずおずと尋ねてきた。 「まさか、そんなこと」とは思いながら、母のほら話に「もしかして、ほんとに?」というひとかけらの疑念がアプコのなかに残っていたらしい。 「さぁね、どうだかね。」 意地悪い母は、最後までほらの種明かしをしない。
間延びしたアプコの「そ〜ぉ?」をもう一回聞きたくて。
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