月の輪通信 日々の想い
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中間試験初日のアユコ。 昨日も遅くまで勉強していたらしい。 朝、他の兄弟たちが起きてきて、朝食の食卓につく時間になってもアユコだけがなかなか降りてこない。何度呼んでも「う〜ん」とあいまいな返事が返ってくるだけ。 兄弟の中でもアユコはことさら朝に弱い。 そうでなくても思春期の女の子ってのは、何故だかとっても眠いものだ。 試験勉強で睡眠不足が続けば、朝の寝起きがこじれるのは当たり前のこと。
寝坊したアユコは、とっても機嫌が悪い。 誰に怒っているわけでもない。 ちゃんとやれない自分、「あと5分だけ・・・」とうじうじ布団にしがみついていた自分に腹を立てているだけ。そのことは自分でも良く分かっているくせに、なんだかツンケンしてふくれっつらでご飯を食べる。 のんびり味噌汁の椀をつついているアプコが気に障る。 朝から駄洒落を飛ばすゲンの無神経に腹が立つ。 「はよ、起きろよ」と意見するオニイにむかつく。 こんな日に限ってうまく結うことの出来ないヘアスタイルに苛立つ。 しまいには、どんより曇った空模様にイラつく。 自転車置き場に置かれた邪魔になる移植ゴテを蹴飛ばしたくなる。
そういえばアタシにもこんな時期ってあったよなぁ。 本を読んだり物書きをしたり、夜遅くまで起きて何かごそごそやっているくせに、朝がなかなか起きられなくて、イライラツンツンしていたことが・・・。 大人になってから実家の母に、 「この子はこんなにいぎたなく寝てばかりで、ちゃんと主婦業や母親業が務まるのかしらと心配していた。」とまでいわれたことがある。そんなにしょっちゅう寝坊していたのかなぁ。 「いぎたない」という言葉、「あさましい」とか「ひどい」とか言う意味だと思い込んでいたけれど、さっき調べてみると「寝穢い」という字をあてて、寝ること限定の形容詞だったのらしい。 そういう意味ではまさしく、ある時期私は「いぎたない青春」を生きていたのだろうなぁと思ったりもする。 でも大丈夫。 夜中の授乳もちゃんとできたし、朝の弁当つくりだってちゃんと起きられる大人になったよ。 安心してね、おかあさん。
「いってきます」も言わないで、玄関のドアにぶつかるように走って出て行ったアユコ。 今日は雨降りだから自転車に乗れない。 唇をへの字にまげて、ぽろぽろ零れ落ちる涙をぬぐいもせずに、鬼のような勢いで、バリバリ坂道を下っていったのだろう。 いってらっしゃい、アユコ。 お友達に会う前には、ハンカチで涙を拭いてね。 明日はあと五分、早く起きようね。
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