月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
昨日、私がPTAの集まりに出ていた頃、子どもたちは父さんにつれられて、父さんの大学時代の恩師M先生を囲む集まりに参加させていただいた。毎年恒例のこの集まりにはいつもM先生を慕う人たちが家族ぐるみでやってきて、美味しい中華料理を頂き、近況を報告しあう。子どもたちもみんな赤ちゃんの頃から参加しているので、久しぶりに親類に会う法事か何かのようなにぎやかさだ。
「かあさん、ぼく、M先生からものすごくいい話をきいたんや。」 とオニイ。 高校生になって将来の進路のこともそろそろ真剣に考え始めたオニイに、M先生は何かとてもいいお話をしてくださったらしい。 オニイとM先生がじっくり話し込んでいるのを見かけた父さんが、帰りの車中でオニイにどんな話をしていたのかと尋ねたのだけれど、「帰ってからかあさんと一緒の時に教えるよ」ともったいぶって教えてくれなかったのだという。きっとお話上手なM先生に、しっかり対座してお話を伺えたのがよほどうれしかったのだろう。
「あのな、『伝統』と『伝承』は似てるようでも違うんや。 伝統はスイッチをきったら真っ暗になって何も見えんようになるやろ。・・・ここ、「電燈」とかけてあるんやで・・・。 そんでな、・・・・いったん真っ暗になって何もなくなったように見えるけれど、明かりをつけたらまた何かが現れてくるやろ。 そこから何を作り出していくかという事がな・・・なんちゅうかな、大事っていうかな、むずかしいっていうかな・・・」 M先生の大らかな口ぶりを思い出しながら、なんとかその面白さを父や母に伝えようと言葉を捜すオニイ。その拙い説明からはM先生のお話の要旨は途切れ途切れにしか伝わってこない。 「なんていたらええんかな。・・・ここが面白いとこなんやけどな・・・」自分の受けた感銘をそのまま伝えられない歯がゆさで、何度も言葉に詰まる。 伝えるほうにも聞くほうにももどかしい想いが残りつつ、その一生懸命な話し振りから、オニイがM先生のお話に深く感化され、感動しているということだけが知れた。
「よかったなぁ、オニイM先生とお話が出来て・・・。そんな面白いお話をオニイだけで独り占めなんてもったいないよ。そのお話、またゆっくり整理してから聞かせてね。」 400字詰め原稿用紙5枚にまとめて提出せよ・・・と冗談を言って笑ったけれど、いわれなくてもオニイはきっと先生のお話を自分なりに咀嚼して頭の中にしまうだろう。 そういうお話の聞き方を「面白い」と感じられるようになったオニイの成長が親としてはちょっとうれしかったりもする。
M先生、ありがとうございました。
|