月の輪通信 日々の想い
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2006年04月21日(金) つかの間

このところかかりきりだったDMの印刷の仕事が手待ちになったので、久しぶりに工房の手伝いに行く。
とりあえずCMC(ふ糊)の補充をと工房のドアを開けたら、珍しく仕事場にひいばあちゃんの姿があった。
あら、珍しいと父さんが声をかけたら、「こないだから頼まれてて気になってた仕事があるから・・・」と、お仕事をなさるつもりらしい。
父さんは急いで新しい土を用意して、傍らによけてあった道具をそろえ、ロクロをきれいにぬぐってひいばあちゃんの仕事の準備をした。
ここ数ヶ月、ひいばあちゃんが仕事場に降りてこられることはめっきり少なくなって、自分の部屋で休んだり居間でTVを見ながらうつらうつらしておられる時間が多くなっていた。時間の感覚も少しおかしくなってきて、昼夜の区別があいまいになっていたりする。
97歳という年齢を考えればそれも当然のこと。
目も耳も手も衰えて、本当はもう、ひいばあちゃんがこしらえたものの多くはそのままでは使えない。作りかけのまま濡れタオルで囲って長いことそのままになっている作品もいくつか溜まっている。

最近ひいばあちゃんの仕事場は、私が白絵がけの作業に使わせてもらっていた。長年ひいばあちゃんが担当してきた釉薬がけの仕事を私が習うようになり、ひいばあちゃんが何十年も仕事をしてきた作業台に居心地悪く間借りして、ひいばあちゃんと同じように背中を丸めて白絵掛けの仕事をする。
ブーンとうなる乾燥庫の前の席で一人で仕事をしていると、何だか自分がこの席で仕事をしながら、ひいばあちゃんの年齢にまで年老いていくような錯覚に陥ってはっとすることがある。
それは決して嫌な感じのする予感ではなくて、どちらかというと暖かいほっとするような充実した予感。ひいばあちゃんのようにこつこつと、父さんや息子たちの下で職人仕事をこなしながらゆっくりと年齢を重ねていく。そういう老いの日へのかすかな憧れ。

ひいばあちゃんの仕事の邪魔をしないように、CMCの準備だけを済ませて間借りの新米職人は早々に退散することにした。ひいばあちゃんは長いブランクなどまるでなかったかのように、何十年と変わらぬスタイルで作業いすに腰を下ろし、新しい土くれをひねり始める。その堂々たる姿が何だか触れ難く、でも何となくうれしくて不覚にも涙がこぼれそうになる。
この感覚はどこから来るものなのだろう。


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