月の輪通信 日々の想い
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夕飯は餃子。 材料は前日に買い込んでおいて、子どもたちに包んでもらおうと思っていたら、あらら、主要戦力として見込んでおいたアユコとゲンは笛のクリスマス会で夕方から外出するという。 「どうする?」と父さんが心配顔で言うので、「大丈夫よ、アプコがいるから。アプコ、手伝ってくれるよねぇ。」と答えたら、傍らで聞いていたアプコの得意の鼻がピクピク動いた。 「うん、大丈夫。」 さっそく腕まくりをして、餃子包み臨戦態勢。 なかなか頼もしい。 我が家では餃子は大量に拵えてホットプレートでいっせいに焼くイベントメニュー。いつもバット2杯分の餃子を準備する。 市販の餃子の皮に具材を乗せてやると、アプコはいつもより格段に真剣な顔つきで包みはじめた。いつもならオネエのそばで「お団子餃子」や「せんべい餃子」を作って遊んでいるのに、今日は責任重大。遊んでなんかいられない。 私自身も次々に餃子を包みながら、合間合間にアプコのお皿に具材を載せた皮を用意してやるのだけれど、アプコもそのペースに負けないように片意地のように忙しく手を動かす。しまいには、おしゃべりの一つもしなくなって、二人して「餃子包みマシーン」と化す。 「ねえ、シューマイ餃子、作ってもいい?」 一杯目のバットが一杯になった頃、ようやくアプコがいつものお遊び餃子をつくりたがった。ずいぶん、熱心に手伝ってくれたので「いいよ」と答えたら、こんどは楽しそうに「これはシューマイ餃子、これは春巻き餃子、これはショーロンポー」といろんなアレンジ餃子を作り始める。 結局、残り半分はノーマルな餃子よりアプコのオリジナル餃子のほうが多くなってしまい、参ったなと思いつつ準備を終えた。
「今日の餃子はアプコの特製餃子だよ。」 ホットプレートにずらりと並んだ餃子を得意そうに見せるアプコ。 「ショーロンポーも作ったよ!」と苦心のアイデア餃子をオニイやオネェに説明する。 2階から降りてきたオニイは 「ふ〜ん、アプコもやるね。」と一応は感心して見せたが、そのあと「でもなぁ、ノーマルな餃子よりアレンジ餃子のほうが多いのはちょっとなぁ。」といらぬ批評を加えた。 そこへ、台所にいたアユコがアプコの反応も見ずに、「アプコもそろそろ、普通の餃子の包み方を覚えなくちゃね。」と追い討ちをかける。 せっかくとはりきっていたアプコ、オニイとオネエに文句を言われて、みるみるへこんでわぁわぁと泣き出した。
「あ〜あ〜、せっかくアプコが頑張って作ってくれたのに・・・。」 外から帰って、食べるだけの人が寄ってたかって文句を言うことはないじゃないの。 しまったと気づいたオニイとアユコが、あわててアプコのご機嫌をとるけれど、今度は横で聞いていた私のほうがご機嫌が悪くなる。。 オニイもオネェも決して悪気があっての言動ではないけれど、一人で一生懸命餃子係を務めたアプコの嬉しい気持ちをもっときちんと見つけてやってほしかったなぁ。
「お、うまそうな餃子やな。なんか、変わった包み方のもあるね。」 仕事場から帰った父さんは、ホットプレートの上でジュージュー焼ける餃子を見つけて嬉しそうに席に着いた。にわかにご機嫌の直ったアプコが、父さんに自分の作った餃子を一つ一つ嬉しそうに説明する。 ああよかった。 さすが父さん。 女の子を嬉しがらせるツボを心得ている。 オニイ、よく見ておきなさいよ。
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