月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
始業式の朝。 アプコは初ランドセル登校。ぴかぴかの一年生というヤツだ。 登校班の班長に昇格したゲンが、あれこれ小言を言いながらアプコの手を引く。 いつもと違う朝の道中が気恥ずかしいアプコはゲンの手を振り切って走っていこうとする。 「大丈夫かねぇ、あの二人・・・」と見送っていたら、 「あたしも一緒に行ってくる。」と、今日はまだ徒歩通学のアユコが二人の後を追って走っていった。 なぁんだ。いつもの通学メンバーからアタシが抜けただけじゃないか。 園バスの送りで何年も続いた朝のお散歩がなくなった母は、気抜けしてバイバイと小さく手を振る。 その後ろから、微妙にアユコと登校時間をずらしてぐずぐずしていたオニイが自転車でビューンと出て行く。 久しぶりに子ども達があちこちに散らばっていく春の朝。 タンポポの綿毛みたいだなぁ。 ふわふわと飛んでいく子ども達を見送った母は、ぽつんと芯だけになったタンポポの気持ちになって空を見上げた。
小学生組のアプコとゲン。 4人兄弟のなかで、この二人が組になる事はきわめて少ない。 アプコはいつもアユ姉の後を尻尾のようにくっついて回るし、一番年の近いゲンのことをお兄ちゃんというよりは唯一対等なケンカ相手ぐらいに思っている。 ゲンのほうでも、ほんとは4つも年下のアプコに時には兄貴風をふかせて偉そうにしてみたいのに、いつもオニイやしっかり者のアユコにお株を奪われて、妹にナメラレているのが面白くない。 この二人が、いつものお世話役のアユコのいないところで、これからどんな風に「兄=妹」の関係を拵えていくのかが今後の見所でもある。
中学生組のアユコとオニイ。 こちらはもう少し複雑である。 仲良しさんと同じクラスになって、やたらハイテンションで新しい学校生活に目を輝かせるアユコを、この春から晴れて受験生のオニイがちょっと浮かない顔で遠目で見ている。 これまで自分だけの世界であった中学校へ、何かと口うるさい、しっかり者の妹が入ってくる。もしかしたら、教科の成績も生活態度も妹の方がいいかもしれない。日頃家ではあまり口にしない学校での出来事やトラブルも全部アユコを通して父母に筒抜けになるに違いない。 「やりにくくなるなぁ」というのがオニイの本音なのだろう。 先日、何かの話の折に、「アユコには負けたくないからな。」とオニイの口からポロリと漏れた。親の方としては格別アユコとオニイを比較したり競わせたりしているつもりはさらさらないのだけれど、プライドの高い長男坊のオニイには出来のいい(ように見える)アユコの存在は頼もしくもあり、鬱陶しくもあるのらしい。 実際には生意気な口をききながらも、どこかでオニイを頼りにして甘えたがっているアユコの複雑な心境にオニイはいつの日か気づくのだろうか。
兄弟が多いと、それぞれの子ども同士のつながりの糸の数も増える。 アユコ、オニイの弟でありながら、アプコの兄でもあるゲン。 ゲン、アプコの姉でありながら、オニイの妹でもあるアユコ。 特に中間子であるゲンとアユコの立場はいつも複雑である。 アプコとアユコの入学で、新たに生まれた我が家の「ツーペア」 その行く手を見守る母の楽しみは尽きない。
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