月の輪通信 日々の想い
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2004年06月28日(月) 天真爛漫

近頃、ふと気がつくとゲンの姿が見えない。
「アイス食べるー?」とか、「でかけるよー!」とか、大きな声で呼ぶと、
いつも真っ先になになに?と飛んでくるゲンが、なかなか現われない。
「また、山へでも行ってるんじゃないの?」半ば呆れ顔で、オニイやアユコが笑う。
虫取り、沢蟹取り、川遊び。
野生児ゲンの本領発揮の季節がやってきた。
帰ってきてランドセルを投げ出すと、たちまちゲンは忙しい。

おじいちゃんちのお茶室の縁の下から連れてきたアリジゴクは、ベランダ下の物置の乾いた砂地にいる。
勉強机の大きな引出しの中には、私が道で拾ってきたこの夏はじめてのノコギリクワガタ(♀)の飼育ケースが、でんとおさまっている。
昨日は、お向かいのMさんが庭仕事の仕事先で捕まえたニホンザリガニを持ってきてくださった。水槽に水を張り、割れた植木鉢をいれて、アリジゴクの近くに飼育コーナーを拵えて住まわせる。
ひと夏限りのにわかペットたちの顔を見て回るだけでも忙しい。
その他にも、近所の山のめぼしいクヌギの木のうろに、昆虫を集める蜜を塗りつけ、日に何度も獲物がいないか巡回してまわる。
「おかーさぁん!ザリガニにするめをやったらね、ナイフとフォークみたいに両方のはさみを使ってバリバリ食べるんやでぇ!」
その嬉々とした表情はまさに「野生児」
いいやつだなぁとおもう。

先日からのゲンのクラスのいじめ疑惑。
先週末から、他の"いじめられっこ"達のお母さん達から、TくんOくんの最近の行状や担任の先生の対応の仕方などについて情報収集をすすめてみた。
どうやらTくんOくん達によるいじめは前の学年のときから今も続いていて、「学校へいきたくない」とか「イヤな事された」という訴えは時々出ているようだ。
それに対する家族の対応も様々。
「我慢できなくても、絶対暴力でやり返しちゃダメだよ。」と諭し、子どもが悔し紛れにモノを壊したりするのをやむなく許しているというおかあさん。
「本当に我慢ができなくなったら、学校へは行けなくてもいいよ。『不登校』という選択肢もあっていいから・・・」というお父さん。
「今日はいじめられなかった?」と毎日の様に聞くのだけれど、学校での事をあまり話したがらなくなってきたと言うお母さん。
「お宅が先生に訴えるのなら、うちも一緒に行かせて欲しい」とおっしゃるうちもある。
「やられたときにおこってやり返そうとするから、余計やられるんだよ。ボクはやられてもすぐに泣くから、それ以上はやられないんだ。」と悟りきった"いじめられっこ"の達人もいるのだそうだ。
先生なり、いじめっ子なりに直接、正面対決する以外の対処方法というのもいろいろあるのだなぁ。
「それって、ただの逃げじゃないの?」と思われることもあるけれど、
これ以上傷つけられたくない、今以上に子どもを戦わせたくないという親心も痛いほどわかる。
「腹たつわー!母が行って闘ってきてやるー!」
と、近頃とみに闘争心をめらめら燃やす私自身を、心を冷まして省みてみる。

学校での友達関係の悩みは、できることなら子ども自身の力で、学校の中で解決していくのが望ましいと思う。
私達が子どもの頃にもいじめっ子もいれば、のけ者にされてしょちゅうべそを掻いてるいじめられっ子もいた。
今よりもっともっとシビアな形で、障害を持った子や勉強の遅れがちな子、家庭環境に躓きのある子は、はじかれたり、悪口を言われたりした。
「ああ、今日もあいつの顔は見たくない」と憂鬱な想いをねじ伏せて、何とかかんとか登校していた日々のある。
だからと言って、いちいち訴え出ていく親というのは子どもの目から見るとあんまりありがたくなかったよなぁ。
「子どものけんかに親が出る」
というのはおろかな親の振るまいとして、軽い軽蔑の対象ともなった。

今はあの頃と違って、ちょっとした言葉の行き違いや諍いでカッターナイフを持ち出したり、高い建物から突き落としたりという思いがけない事件が耳に入る。
「不登校」ということが珍しい事ではなく、クラスに何人も「学校へ行けなくなる」ほどの心の葛藤を経験していたりする。
「自分ちの子どもは、親が守ってやらなくては・・・」という事を、学校の教師までが口にする現代。
大きな声で訴える親でないと、「毎朝、元気に登校していく」という子どもの最低限の日常が保証してやれないのはしんどい事だ。
子どもが自分自身の力で解決していく力を黙って見守る余地は本当になくなってしまったのだろうか。

「おか〜さ〜ん!!見て見て!」
ゲンの弾んだ声が飛びこんでくる。
"巡回"の最中に、大きなカブトムシのメスを見つけたという。
仮性近視で視力検査のたびに赤紙をもらってくるくせに、高い木の幹の昆虫や道端に落ちてもがいている昆虫を見つける視力だけは、野人なみ。
面白い奴だなぁ。
友達に悪口の手紙を送ったり、いじめられた腹いせにモノを壊したり。
なんとなく陰気なゲンの行状を聞かされて、ゲンのうちに秘めた怒りや悲しみのエネルギーの大きさに少なからぬ衝撃を受けた。
でも、それも確かにゲンだけれど、それをカラリと振りきっていそいそと虫取りに興じるキコンカイな明るさもまたゲン。
私は親として、ゲンのスコーンと突き抜けた明るさを信じて見守ってやってもいいかとも思う。
「ボクよりもな、しょっちゅうイヤな事を言われたり、いじめられたりするUくんやTさんの方が心配なんや。」
と仲間を心配する事のできるゲンは、まだまだ一人で闘える。
母の出番は、取りあえず新しい飼育ケースと底の破れた運動靴の買い替えくらいか。
野生児ゲンの明日は明るい。

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