月の輪通信 日々の想い
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「やっぱりなぁ、今度はゲンかい!」 アユコのメール事件,オニイの過敏性腸炎に続いて、今度はこれまでキコンカイに過ごして来たゲンに問題発生。 担任のK先生からゲンの最近の振る舞いについて、呼び出しを食った。
ゲンが教室で二人の友達の名を書いて、「死」という手紙を書いて本人に見せたと言う。 「日頃その二人からちょっかいを出されたり,悪口を言われたりしていたから仕返しのつもりで書いた」と本人も書いたことを認めているという。 相方を呼んで事情を聞き,クラス全体にはかって「人のいやがる事をいったりしたりしてはいけない」と厳しく指導したのだそうだ。
実はゲンの「悪口お手紙事件」はこれがはじめてではない。 以前にも同じ相手に対して,小さく悪口を書いた紙飛行機を飛ばしていて見つかり,叱られた事がある。 自分の思いをストレートに言葉で訴える事が下手なゲンは、悔しい想いや「このやろう!」という気持ちをそういう屈折したやり方で吐き出す事がある。 この間の「雨傘バラバラ事件」の時には、相手に仕返しできない辛さを「物に当たる」ということで何とか解消しようとしたらしい。 相手に言っても聞きいれられない悔しい思いを、なんとか暴力の応酬や悪口を言い返すこと以外の方法で解消し、誰かに聞き届けてもらいたいというゲンなりの不器用な抗議の仕方だと私自身は理解していた。
一方、手紙の相手のTくん、Oくんは普段からまわりの子にちょっとした嫌がらせや悪口を言ったりするいわゆるやんちゃなタイプ。 ゲンやおとなしいUくん、Tさんという女の子など特定のターゲットに対してしつこく「いじめ」に近い悪戯を繰り返している。これまでにもたびたび、ゲンは悔し涙で歯を食いしばりながら、「またTくんにイヤな事をされた。」と訴えてきた事もある。 その「イヤなこと」というのが、大人の目から見ると「遊びの延長」なのか「いじめ」なのか微妙なラインでもあり、ゲンの説明にもあやふやな判りにくい部分もあったりして、「要観察」となんとなく心にとめてはいたのだった。
取りあえず事情の説明を・・・と駆けつけた私に、K先生は意外なゲンの最近の「非行」を次々にあげた。 音楽の時間にふざけが過ぎてひどく叱られた事、 農作業の時間に近くのTさんの苗の上に他から持ってきた雑草の山を積み上げた事、 そして、Tくん、Oくんに「T、O、死ね、スイッチ」と書いた手紙を渡したと言う事。 先日話しておいた「雨傘事件」も含めて、どうもゲンの言動が近頃おかしい。屈折した行動が見られる。要注意だと言う事らしい。
私はゲンから聞いたそれまでのTくんOくんの嫌がらせの事を説明し、「手紙」の事は誉められた事ではないが、ゲンなりの抗議の手段だった事をK先生に伝えた。 K先生も、TくんOくんの「ふざけが過ぎる」振る舞いについては認知しており、双方に指導はしているという。今回もお互いが非を認め、両方がごめんなさいという形で収めたと言う。
ここまで聞いて、なんとなく私はK先生の物言いに違和感を感じた。 確かにゲンのやったことは悪いには違いないが、もとはTくんやOくんの日頃の意地悪に端を発した事だ。それなのに、彼らの振る舞いについては深く触れようとしない。 「子どもの軽いトラブルの範疇」であるとか、 「最近は以前ほど(Tくん、Oくん)の意地悪の訴えはでていない」とか、 「(ゲンが)ちょっとしたふざけに過敏に反応しているだけ」とか、挙句には 「表現力の乏しい子どもの訴えは、ころころ変わるし、どうしても自己弁護が混じる」とまでといわれた。
確かにゲンの言葉での表現能力は拙い。 そして「T O 死 スイッチ」とゲンの文字で書かれた小さなメモ書きという動かぬ証拠もある。 音楽の時間のことや、Tさんへの意地悪など、それまでゲンからは聞いていなかった事実も聞かされた。 その場で、K先生に食い下がって反論し、ゲンの主張を代弁する事もできそうにないので、取りあえずうちに帰って再びゲンと話をするということで帰ってきた。
帰宅後、事件をさっさと「なかったこと」にしたがるゲンを捕まえ、こんこんと一問一答。 同じ事を何度か聞き方を替えてきいてみたり、 ぽつぽつと単語で語るゲンの話に、主語述語を補って聞きただしたり、 できるだけ正確な「ゲンから見た事実」を組み立ててみる。 何度も何度も話すうち、問題の在り所が明確になりつつある。
新たなる闘いの予感がする。 再び戦闘モードの母となるか。 全く次から次へ、難問は尽きない。 月の輪通信
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