月の輪通信 日々の想い
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オニイの下痢が続いている。 朝、ようやく学校へ出て行ったと思ったら、昼前に早退してきた。 食べたものが数時間もすると出てしまうので、元気がない。 精神的なストレスが原因の下痢なので、薬を飲んでもさして効き目がない。 食べ物も、おなかの調子を憚って、好物の油物や刺激物を自分で制限するので、それも辛いようだ。 ゲンが自分の目の前で、ポテトチップを食べていたりするのも癇に障る。 「お兄ちゃんがかわいそうだから、見えないところで食べてね。」といっていたが、何日も続くと、オニイのご機嫌ばかりを伺っているわけにもいかなくなる。 「イライラするのなら、あんたが二階へ行きなさい。」 かわいそうなようだが、あえてオニイを叱る。 調子の悪いオニイもかわいそうだが、オニイの不調と母の不機嫌に付き合わされるほかの子ども達もだんだん辛くなってくるのだ。
ストレスの原因が何なのか、本人にはよくわかっているのだという。 「お母さんに言ってもどうにもならないことなんだ。」 オニイはかたくなに口を閉ざす。 「話してくれなければ、お母さんには何にも出来ないよ。 毎食、あぶらっ気のない食事を作ることだけでいいの? とりあえず人に話しただけでも心が軽くなることもあるよ。 お母さんが聞いてあげることは本当にできないの?」 何度も何度も言葉を重ねた末に、ようやくオニイの悩みの種を聞きだした。
大人にとっては些細な事でも、現役中学生には中学生なりの、深い悩みがあるものだなぁとため息をつく。 一人で悩みを抱え込んで、いろいろ苦悩していたのだなぁ。 確かに、その内容は、母がしゃしゃり出ていってもどうにもならない問題のようだし、それ以前にまだ実際には起こってもいない「困った事態」をあれこれ考えすぎているような感もある。 「大丈夫だよ。そんなの取り越し苦労だよ。」 と励ますのは簡単なことだけれど、 オニイ自身、そのことはよく判っているのだけれど、 そういうストレスが心だけでなく、先に体の方に出てしまうということの不思議。 世に言う「不登校」とか「引きこもり」とか、 知識としては知っていたものの、実際の始まりはこんなことからなんだなぁと、改めて実感する。
でも大丈夫。 今ならまだ間に合うと直感している。 問題の在りどころがはっきり判ったし、きっとオニイのもつれた糸を解きほぐす手伝いが今ならまだ私にも出来ると思う。
「おおい、オニイ。今日は盛大に餃子を食べるよ。 まず食べられないストレスを解消しよう。 食べて調子が悪くなっても、どうせすぐ出ちゃうんだから一緒でしょ。 食べたいもの食べちゃって、元気出そうよ。」 悩みの源を打ち明けて、少し元気が出てきたオニイ、母のやけくその荒療治に乗ってきた。 「う〜ん、うまいなぁ。」 病人食からいきなり脂っこい餃子をたらふく食べて、ついでにアイスまでぺろりと食べてしまったオニイ。 案の定、すぐにトイレに駆け込み、食べたばかりのものを夜中出していたみたいだけれど、なんだか表情に明るさが見える。 なんとなく糸口が見つかりつつあるのかな。
ところで、本当は息子の異変にかまってられないくらい、私自身も身に合わぬ大役のプレッシャーに負けそうになっている。 周りからは「大丈夫、きっとやれるよ。」「いいこともきっとあるよ」と励ましの声も頂くけれど、そんなことはわかっている。 判っているけど重いんだ。 オニイに、「大丈夫、起こってもいないことを先に心配してもしょうがないよ」といいながら、同じ言葉が私の胸には、なかなかストンと落ちてくれない。 「がんばれ、オニイ、強くなれ」 祈る言葉は自分自身を叱咤する声。 フレーフレー! 強くなれ、私。
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