月の輪通信 日々の想い
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まだ4月だけれど、5月晴れってこんな朝のことかなぁ。 青い青い空。 急に盛り上がるように茂り始めた山の木々の緑がまぶしい。 オニイの体調は相変わらず、父さんも東京出張を前に仕事が山積み状態だけれど、とりあえず今日はこいのぼりを上げる。
我が家のこいのぼりは、オニイが生まれた年、加古川のおじいちゃんおばあちゃんから贈られたもの。 うちの中だけで飾って場所をとる五月人形ではなく、工房の庭に揚々と泳ぐこいのぼりがいいと注文して買っていただいた。 家業を代々家族で受け継いでいく家に、初めて生まれた男の内孫。 「どうだ」とばかり、色鮮やかな鯉を空に放つ誇らしげなおじいちゃんおばあちゃん。まだ、それを眺めてまだ喜ぶわけでもない赤ん坊に、何度も「鯉のぼりよ」と指差してはあやす。 この家ではこれほどまでに鯉を揚げる日が待たれていたのだなぁと、かすかなプレッシャーも感じつつ、ありがたく見上げたものだった。
あの日から、十数年。 オニイをベビーカーに寝かせ、家中の大人が総出で組み立てて立ち上げた鯉のぼりのポールを、今日は子ども達とともに組上げる。 まだおなかが頼りないオニイも加わり、金属ポールのねじを締め、みんなで「せーの」でポールを立てる。 裏山の斜面にするするとよじ登り、支えのロープを縛るゲン。 ゲンの頼りない紐結びを見かねて、助け舟を出す器用なアユコ。 無邪気に手を叩き、喜んで駆け回るアプコ。 あの日と同じ、おじいちゃんが結わえてくれた真鯉緋鯉をするすると揚げる。 山の木々がせり出すように成長し、我が家の鯉はちょっと泳ぐと枝にからまり、揚々と泳ぐというわけには行かなくなった。 きらきら輝いていた矢ぐるまもすっかりさびて、ゆがんでいる。 それでもやはり、鯉のぼり。 「我が家の子等は元気だぞ」と誇らしい思いで空を見上げる。
「小さい頃、このポールをずーっと登ってみたいと思ってたよ。」 天を見上げたオニイが言った。運動おんちで棒のぼりなんか大の苦手だったオニイなのに。 青葉の木々を突き抜け、天を突き刺す鯉のぼりの爽快さ。 空の青と、日差しのまぶしさが、体調不良でへこむオニイに力を与える。 そして、珍しく落ち込んで、よわよわの母にも・・・。 「登っていきなよ、今なら出来るよ。」 高く、高く、登っていこう。 今日も、明日も。
「・・・で、お母さんの肩こりはどうなの?治った?」 「同病相哀れむ」か、オニイが聞いてくれた。 「あったりまえよ。 お母さんにはここぞというときには自分で治しちゃう特殊能力があるんだぞ。」 ホントにホントに、昨日の肩こりも頭痛も、今朝はうそのように消えている。なんだか、やっていけそうな気がしている。
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