月の輪通信 日々の想い
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結婚十年を過ぎると、電化製品が次々壊れ始めると言う。 家電の耐用年数がそのくらいに設定されているのか、本当に十年目当たりから電化製品が次々に昇天していく。 数年前の洗濯機に始まり、掃除機、冷蔵庫、コーヒーメーカー・・・・と来て、遂に最終段階。 オーブンレンジの番が来たようだ。
まず、庫内のライトがつかなくなり、生もの解凍ボタンが効かなくなり、オーブン機能が使えなくなり、ついには軽いお皿だとレンジも使えなくなり、うやうやしく2重にお皿を重ねてチンするようになっていた。 冷やご飯の温め、アプコのお弁当の冷凍食品、夕食の下ごしらえ、夜中に飲むホットミルクと、朝から晩までかなりの頻度で利用する電子レンジ。 我が家最古参の家電として、ぎりぎりまで頑張ってくれたけれど、作動中に庫内の隅っこにちらちら火花らしい物が見え始めるようになり、涙の引退と言うことになった。
新しいレンジが届いて、さっそく扉を開ける。 何と、ターンテーブルがない。 長方形の大きなグラタン皿も温め直しに使えるわと選んで買った物だけど、 な〜んだか物足りない。 つるっとした庫内が素っ気なくて、「ここにお皿置いてもいいの?」とちょっととまどう。 スイッチを押しても、当然、お皿はでんと居座ったままで、回らない。 「レンジで、チンして・・・」と言うのもすでに死語になって久しいが、「レンジ、まわして・・・」とも言えなくなってしまったのだなぁ。
「新しいオーブンレンジ、御祝いに何、作る?」 アユコは数日前から新しいレンジの到着を楽しみに待っていた。 「うちはオーブンが壊れてるからね。」 とケーキやクッキー、パンなどのお菓子作りを敬遠してきた我が家。 お料理好きのアユコは、きっと新しいオーブンレンジの使い方に夢中になるだろう。 「とりあえず、大判のピザを買ってきたよ。」 これまでは小さなトースターで焼いていた市販のピザ。 今度は切らずにまるまる一枚焼ける筈。 ついでにピザカッターも買っちゃおうかな。
ところで、おニューのレンジのかわりに引き取っていただいた我が家のレンジ。 結婚前、父さんと二人、わざわざ遠くの家電店まで出かけて買いそろえてきた花嫁道具の最後の一点になる。 子ども達の離乳食やら、夜遅く帰ってくる父さんの夕食の温め直しとか、家族の歴史をいつも温めてきてくれた愛着の家電。 新しいレンジが入ってきた箱に無造作に入れられて、運ばれていくのを見送りながら、ほんの少し感傷的になった。
結婚十年目からの家電総入れ替え。 新婚家庭に子ども達が生まれ、家族の形が大きく変化する10年の年月。 炊飯器は一升炊きに変わり、冷蔵庫、洗濯機の容量はぐんと大型に買い換えた。 子ども達が夜食やおやつを自分で温めるようになり、母は家事の手抜きの技を極め始めた。 家電製品の更新に伴い、主婦の家事のやり方や家族の役割分担が大きく変化していく区切りの時期に重なっているのかもしれない。
そういえば「家族の関係が壊れ始めると、家電製品がつぎつぎダメになる。」という話も聞いたことがある。 我が家では幸い家族崩壊の危機はないとは思うけれど、それでも家中のあちこちで、立て続けに電球が切れる事がある。 トイレの電球、お風呂の電球、玄関の外灯、台所の蛍光灯。 ありゃりゃ、大変!と父さんが慌てて替えてくれるけれど、何故だか、一つ切れると数日後には別の場所で電球が切れる。 家族の誰かが体調を崩している時、重たい懸案事項がどよ〜んと心の隅に引っかかっている時、決まってどこかの電球が切れる。 なんでかなぁ。 家族の誰かから、強い強い負ののエネルギーが放出されているのかもしれないなぁといつも思う。 クルクルと新しい電球を装着し「あ、明るい。」と見上げるとき、「元気だそ・・・」と誰かがささやく。 家電の寿命には、そんな不思議なタイミングがある。
「さて、新しいレンジで何作ろう。」 久しぶりにお料理の本を眺めて、新しいメニューを探す。 いつもの家事にほんの少し新鮮な風が通る。 なんだか嬉しくて、あったかい。
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