月の輪通信 日々の想い
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久しぶりに、本当に久しぶりに、豚まんを作ってみた。
結婚前には、パンの教室に通ったりして、結構家でもパンやお菓子も作ったものだけれど、子 ども達が次々に生まれ、3度の食事以外のお料理とは縁遠くなってしまった今日この頃。
別にこの忙しいさなかに、こんな面倒なおやつを作らなくても・・・と思いつつ、朝からいそいそと イーストや豚ミンチを買いに走る。
久しぶりにスーパーでイーストの箱を探すと以前よく使っていた頃とはパッケージのデザインが 替わっていた。
随分長い事ご無沙汰してたものなぁ。
いつもなら子ども達と一緒に調理を始めるところだけれど、今日は子供らがビデオに夢中にな っている間にそそくさと粉を測り、材料を混ぜる。
バタンバタンとパン種をテーブルに打ち付ける頃になってようやくアユコが
「何つくってるのぉ?」
と飛びついてきたけれど、
「さあね。」
と知らん顔。
その気になれば、冷蔵庫にレシピが貼ってあるのですぐに判っちゃう筈なんだけど、意地悪な 母は教えない。
「私もやらせて」
「だぁめ。」
今日は、一人で料理したい気分なんだ。
子ども達と一緒にわいわい調理。
いつもの我が家の定番スタイル。にぎやかにみんなでやるのも楽しいけれど、一人でこそこ そ、おいしい物をこしらえるのも私は好き。
自分の段取りで、コツコツと目の前の食材の調理だけに没頭する。
子供らに細かな指示を与えたり、順繰りに少しづつ面白い作業を分けてやったりする手間もな く、暖かい生地の感触を楽しみ、ワクワクと蒸籠を温める。
これはこれで、立派なストレス解消法だなぁと思う。
肉まんの事を「豚まん」と呼ぶのは関西限定だと言うことを最近まで知らなかった。
大阪にお嫁に来て、「豚まん」と言えば「551の蓬莱」が常識になってしまったけれど、
神戸以西にある実家では、豚まんは神戸での買い物帰りに、決まった何軒かの中華料理屋さ んのテイクアウトで買って帰るのが当たり前だった。
生地が甘めでどっしり重く、一個食べたらお腹いっぱい。
紙箱にぎゅうぎゅう詰め込まれた豚まんを持って帰りの電車に乗ると、暖かい豚まんの匂いが 車中にふんわり広がって、ちょっと恥ずかしかったのを思い出す。
自分で豚まんを作るときにも、あの大好きな「太平閣」の豚まんを目指して、生地の甘みを少し 増やしたり、具材の種類をかえてみたりしたものだった。
神戸と言えば、我が家の中華蒸籠。
嫁入り前、母にねだって神戸で買ってもらった本格的な蒸籠は、数少ない我が家の家宝。
蒸しものをすると、湿気を含んだ蒸籠からふわりと竹の香りがして、何とも暖かい心みたされる 思いがする。
後始末が面倒なので、ついつい最近はだすのが億劫になっていたのだけれど、今日は本来の お役目で大活躍。
フタをあけると、湯気のむこうに白い柔らかな豚まんの生地。匂いに誘われて子ども達がそろ そろと寄ってくる。
なんか幸せだなぁ。
独身の頃の豚まんづくりのときには、味わえなかった別の幸せが、ここには確かにある。
「あっちっち!」と、豚まんを受け取る子ども達の手。
ほふほふと頬張る子ども達の笑顔。
ちょっと心豊かになれたのは、蒸籠の湯気の魔術だったのかしら。
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