小説集
2006年11月08日(水) :
26背負われた背の温かさ
アルフレッド・ミラー
「大丈夫か?」
誰だ…
体中が痛い。
「大丈夫か?」
ああ、父親の声か…
答えたくとも声が出なかった。必要以上に摂取したモルヒネのせいと、撃たれた傷でだろう。モルヒネが回っている体なのに痛むとは、そうとうやられたに違いない。
でも、そんな事で父親が自分を心配するなど考えてもいなかった。
「さぁ帰ろう。もう十分だ」
敵は駆逐されたのだろう。
俺の仕事は終わった。後は処理班に任せればいい。
ハインツはアルフレッドをふわりと抱き起こすと背に背負う。
「…汚れる」
「戦闘服だ。構わない。」
そういえば、珍しく父親までもが戦闘服姿だった。…ユリウスも。
それだけ大規模な作戦だったと言うのか。なのに、何故 吸血鬼でもない俺が借り出されたのだろう。考えても仕方がないか。
「……今回はお前には関わらせたくなかったんだよ。
だが、陛下の命令だった。すまない。」
ハインツが自分の事を考えてくれているとは正直驚きだった。
自分など いらない存在だと思っていた。だが、ハインツはそうは思っていないようだ。俺はいらないんだと固執していたのか…
ハインツは違うのか…
背負われた背は広く温かかった。
今日だけは素直に父親の温かさを受け入れられる。
温かい。