小説集
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2005年10月10日(月) : 1まだ温かい
 

「……生きてるよ、まだ助かる」
グチャグチャになり、意識すらないデイビッド・ボーマンの身体を抱え フランク・ミラーは涙で汚れた顔を、煙草をくゆらすアルフレッド・ミラーへと向けた。
「早く 基地に戻ろう…」
 フィルターぎりぎりになった煙草を地面へと落とすと、汚れ傷ついたブーツでもみ消し 立て寄りかかっていたMG34を抱えなおしたアルフレッドが「何を馬鹿なことを」という表情を見せる。
「再構築しねぇってことは、デイブ自身は生きたいと思ってねぇんだよ
 デイヴですらもな」
「そんな事なんかない!早く…」
「いいかげんにしろよ、「後は灰になるのみ」 だ。我侭にも程がある。お前はデイブの事だと見境がなくなる
 少しは冷静になれ!」
 いくらアルフレッドが怒鳴っても、フランクはデイブを放さず さらにぎゅっと抱きしめ、服が血に汚れる事など気にすらしていない。
 ふるふると首を振ってデイブの血の気のない顔に自分の顔を摺り寄せる。
「まだ温かいよ…… それに、死んでるのならすぐに灰になるよ」
「すぐにそうなるさ」
「なんなんだよ
 なんでそう そうやってすぐに決め付けるんだよ!
 生きてるんだよ 基地に戻ればどうにか出来るんだよ
 それなのに なんで」
「生きてる?それがか?
 俺もデイブも元から生きてやしないんだよ
 人間 いや、化物ですらない 生きてやいないんだよ
 誰も どうにも…」
「ふざけるな!
 デイブだって アルだって 喋って考えて痛みを感じて それが行きてるだよ!!生きてるんだよ
 どうだろうと構わないよ
 まだ温かいんだよ?生きてるんだよ!
 アル… お願いだから  ……俺は アルがそうじゃないって思ったことなんかないよ アルだって、人間だよ
 お願い」
 舌打ちしたアルフレッドは、MG34の確認をする。
 言われたくない事、考えてくもない事、「自分が生きているのか 人間なのか」、そんな事 議論したくもなかった
 俺は 生命体ですらないのだから…
「お前が勝手につれて帰れ
 俺は哨戒しかしない
 俺が撃ちもらした敵は勝手に始末しろ
 途中でくたばろうが、俺には関係ねぇから勝手に帰るぞ」

(終)




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