小説集
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2005年10月05日(水) : 5 帰りたかったな
 

「終わりだな…」
紫煙を吐き出しながら、アンジェル軍VHSOFs FORTH10のエンブレムをつけた、薄汚れた戦闘服を着た男が呟く。
傍らにいた、ヴィルト・イルバン皇国のロイヤルガードの制服に身を包んだ青年が 男の言葉に顔を上げた。
「終わったんですね ようやく…」
すい終わったタバコを地面へと落とすとブーツの先でもみ消し懐からまた新しいタバコを取り出し銜える。

長い沈黙が辺りを包んだ。
聞こえるのは、いまだ抵抗を続ける敵を駆逐する砲撃の音だけ。
その音も、はるか遠くに だった。

「 …帰りたかったな」
「え?」
男の呟きに、青年は声を上げてしまった。
この男が、そんな呟きなどするとは思っていなかったのだ。
「いや、いいんだ。もう二度と仲間の元へは帰れないんだ。
 でもな、俺を受け入れてくれる唯一の場所だったんだ… … 」
男の苦悩が、青年も味わったことがあった。
そして、今でも「帰りたかった」と思うこともあるのだ。

二度と帰れない あの場所へ





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