小説集
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2004年08月30日(月) :
 

ランズマリー基地へヘリで戻り、地上へ降り立つ隊員に抱えられたデイブの髪は茶色に戻りぐったりとしている。しかし傷は治っており、身体が動かないのは阿片で酔いの状態にされているからだった。人間の状態に戻ったとしても吸血鬼の能力はある。普段は吸血鬼の本能は押し止めているだけであって、何かの弾みでその本能が剥き出しになってしまえば、気が済むまで…たらふく血を飲むまで修まることはない。今、デイブが素面の状態でいたとしたら 気が済むまで人間を殺し続けるだろう。
デイブの身体がビクリと引き攣る。 目線の先には、VHSOFs総司令 統合僚本部長ウォルフ・ガードナーが医師を連れて立っていた。その周りには、サブマシンガンを構え デイブに銃口を向けたフリークスラボの警備兵10人が立っている。デイブがおかしな行動をとった時の為、待機しているのだ。暴れる程力を残していないデイブの体の上を赤い線が走る。
デイブが弱々しく首を振る。彼の気持ちが痛い程判っているアルフレットとマーティンは医者達にデイブを渡すのを拒もうとしたが、兵達に銃を突き付けられ、しぶしぶと引き渡すしかなかった。
医師達は、受け取ったデイブを物でも扱うかの様に荒々しく地面に倒すと、口と鼻の穴だけを残し 呪布で全身を縛り上げ身動き出来ない様にする。強力な呪布だったらしく、デイブは小さく悲鳴をあげた。それを見たアルフレットが足を一歩踏み出すと一斉に銃口が向けられる。
「くっ」
誰も何も出来ないままデイブが連れていかれ、FORTH 10の隊員達だけが残った。憤りを感じながらも、宿舎へと戻る。
「ミハ-隊長-!」部屋へ入ろうとしていたミハエルにアルフレットは声をかけた。
「どうした?」
 「 …デイブに俺の呪布が効かなくなってきてる…」
アルフレットは口を閉ざしたが、ミハエルは辛抱強く待った。
「これ以上、咒の強いヤツじゃデイブが駄目になっちまう…デイブを出さないようにしてほしい…」
「ああ、それは考えてたんだ」
「だってのにあいつらは、下手すりゃデイブが死んじまう様な呪布を使ってやがった。デイブの身体は死なない様になっているかもしれないが、あいつにだって痛みは感じるし、傷だってつく 血も流れるってのに、ウォルフ総司令はデイブさえ 生きて利用出来りゃぁいいんだ…」
ミハエルはアルフレットの肩を叩く。
「わかってる…」
わかっていても、どうすることも出来ない事もあるのだ。
ミハエルを見送りながらアルフレットは何にも出来ないもどかしさに壁を殴った。















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Photo : Festina lente
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