てらさき雄介の日記
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2005年11月29日(火) 司馬遼太郎「幕末」

その名も「幕末」という本を読みました。

司馬遼太郎の本は、大概読んだつもりでしたが、この著は存在を知りませんでした。

読んでみると面白く、幕末に起きたいくつかの事件を、12本の短編としてまとめたものです。

共通のテーマは、‘暗殺’です。

司馬史観では、‘暗殺’が時代を好転させることはなく、唯一の例外が桜田門外の変とのこと。

その桜田門外の変も、唯一参加した薩摩藩士を主人公として、しっかり収めされてます。

一番印象的だったのは、最後に書かれている「最後の攘夷志士」です。

三枝蓊(しげる)という、天誅組の生き残りを主人公としています。

時代としての「幕末」はペリー来航から始まります。倒幕に至る一連の流れのなかで、その原動力となったのは“攘夷”という思想です。

夷人を攘ち払うという、鎖国政策から生まれた短絡的かつ純粋な思考が、多くの藩と志士を動かしました。

しかし王政復古の大号令が下ったその日、外事方なる役所を新政府は設け、外国と付き合うことを公式に明言します。

倒幕に至った“攘夷”のエネルギーは、大政奉還その日まで継続し、開国止む無しと考えていたのは、一部の薩長幹部のみであったとのこと。

薩長は幕府を打倒するために、最後の最後まで表向きは“攘夷”を訴え、志士たちの純粋な心を利用したとも言っています。

主人公の三枝氏は、攘夷を行なわない新政府であるならば、何のために幕府を打倒したのかと怒り、そしてイギリス行使の行列に切り込みをかけます。

その後捕縛され、斬首になります。

事件はこれだけですが、歴史と政治という観点から一抹の寂しさを感じます。

私の敬愛する高杉晋作や、初代総理の伊藤博文なども、以前は外国大使館焼き討ちなどをしたことがあります。

しかし彼らは元勲として名を残しています。かの靖国神社にもしっかり祀られています。

靖国には、2480人の幕末志士が祀られています。昭和8年に宮内省がまとめ、神社に合祀したことによります。

しかし倒幕後も一貫して攘夷を貫いた主人公三枝蓊は、新政府に楯突いたとして犯罪者として名が残り、ましてや参拝の対象にはなっていません。

司馬遼太郎は「かくて三枝氏は、永遠の犯罪者になった」という厳しい言葉で結んでいます。

倒幕に関わった人ですら、選別されているわけですから、幕府側で戦った愛国の士は、当然に祀る対象になりません。

靖国はそういう存在だと割り切るならば、それこそ内閣総理大臣はじめ政治が関与してはいけません。

また一部が言うように、国家護持の守護神であるとするならば、百年以上の前の政治的背景によって、合祀対象を選別すべきでないでしょう。

A級戦犯の合祀が、寛容性に基づいていないことは、この事件を見てもあきらかです。

などなど考えた本でした。



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