ある朝、廊下に面した窓を拭いたら 2年分のホコリがタオルを真っ黒にした。 そんなことやってると誰かが階段をあがってくる気配がして、 それはオトナリさんカップルだった。
オトナリさんはふたりで住んでいる。 小さい彼女が…彼女は見るからに気が強そうでヤンキー風なんだけど、階下にあるアイス自販機のセブンティアイスを食べながらあがってきて、そんな彼女をかわいいと思っている彼氏が後ろをついてきていた。彼氏は背が高くて細め?の普通の30後半オジサン風。
おはようございます と言うと、 ふたり揃って「おはようございます」と返してくれた。
彼女は週末深夜1時ごろヒールの音を響かせながら帰ってくる。 そして ときどき階段の踊り場でつまずく。
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今日はダーと軽井沢へ行って、充実して帰ってきて、 ダーは明日もお休みなので飲みに出かけて、 私は明日仕事なのでそれを楽しむことを考えて早く寝た。
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ちょっと!起きてよ〜! 何回電話したと思ってるの?? 途中、車停めたりして大変だったんだからね!? わかってるの??
…という彼女の声が深夜を裂き、私は目が覚めた。 彼女は同じことを何度もなんども言い、 電話に出なかった彼氏をなじり、 早く起きるよううながした。
私の横腹で寝ていたターリンも目をさまして耳を立てている。 私はターリンの背中を撫でた。 ターリンを安心させるつもりだったけど ターリンの柔らかさが私を安心させてくれた。
途中から、同じ言葉をくり返す彼女のセリフに
大変だったんだよ!わかってるの? …もう離婚だからね!
が加わった。
「わかってるよ!」という彼氏の声がして、 そのあと間があって。
どすん、とひどくおおきな音がして、 がしゃん、と網戸の揺らぐ音がした。
彼女の声は泣き声になり、
離婚だリコンだ、さわんないでよ!
をくり返した。
私は暗闇で閉じたままの瞳を手で覆った。 だけど夜がこれ以上深くなることはなくて、 ただ 手の温度が私のまぶたを包んでいた。
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彼女は負けてなくて、 そのあとも彼氏を非難しつづけた。 窓が閉まる音がして、カーテンが閉まる音がして、 何も聞こえなくなった。 ときどき 声が高くなった言葉のキレハシとか、 がたん、とすん、とか聞こえた。
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オトナリさんの彼女は 体は小さいけど、 激しくてばかでかいパワーがあるひとなんだと思う。
彼氏は彼女のそういうところが好きで一緒にいるんだろうけど、 暴力に出た彼氏は 自分に負けてしまって、悲しいことだと思った。
おとことおんなって、 持っている力のバランスがだいじだ。と思った。
彼氏は2時すぎに何処かへ出勤していった。 しずかなよるが帰ってきて、 この暗闇で彼女は何を思っているのだろう、なんて思った。
ありがとう、とか、 ごめんね、とか、 ちょっとしたやさしいきもちとか、
そういう雨が降ればいいなあと思った。
おやすみなさい。
父長崎人+母福岡人=純血の九州オンナ、福岡に産まれ、
関東→京都→佐賀→京都→横浜→群馬と流れてます‥
レイ
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