年末のある日、待ち合わせのため新宿西口に立った。救世軍の社会鍋、初ゆめ宝くじの売店、靴磨きのおじさん。西口は変わらない。長距離バスの発着場があるせいか、なんだか石川啄木の歌を思い出させる雰囲気がある。帰るべき特定の田舎を持たない僕も、少しばかり郷愁のおこぼれにあずかる気分だ。
そんななかで一人の男性に目がとまった。首から小さなプラカードを提げて、足早に通り過ぎる人たちに向かい何やら大きな声をかけている。手に持っているのは雑誌のようだ。すぐにピンときた。
ホームレスの人たちによる販売で話題の、『ビッグイシュー日本版』である。新聞などの報道で聞き知ってはいたが、実際に目にしたのは初めて。いったいどのくらいの人が買っていくものなんだろうかという純粋な興味から、やや離れたところに立ってしばらく様子を見守った。
するとどうだろう。たかだか五分ほどの間に四組もの人が立ち止まり、二言三言話をしてはその雑誌を買っていった。売れ行きは好調のようである。
僕も一冊買い求めた。ハチマキ姿のその男性、「商品」の説明もしてくれる。イギリスで始まったホームレスの自立を支援する事業であること、世界の二十数カ国で行われていること、アジアでは日本が初めてであること、一冊200円のうち110円が彼ら販売員の実入りになること。加えて彼はいう。
「皆さん、『ほどこし』の意味で買ってくださいます。でもこの雑誌自体が読み応えのあるものになっていかないとダメなんです。だから雑誌の内容についてどんどん意見を言ってください」
立派な営業マンの言葉である。
その場所を後にするとき、彼は僕に深くお辞儀をした。僕は仕事もせず屋根の下の暖かいふとんで安眠をむさぼっているようなヤツなのに。これは大いに問題(ビッグイシュー)である。
2004年01月01日(木)
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