2005年01月09日(日) |
「この世の外へ クラブ進駐軍」 豪華な若手俳優陣、わかりやすいメッセージ。不器用な作品だけど、優しく力強い。 |
「この世の外へ クラブ進駐軍」2003年・日本
監督・脚本: 阪本順治 撮影:笠松則通 編集:深野俊英 音楽監督:立川直樹
俳優:萩原聖人(テナーサックス、広岡健太郎) オダギリジョー(ドラム、池島昌三) 松岡俊介(ベース、ジョーさん) MITCH(トランペット、浅川広行) 村上淳(ピアノ、大野明) ピーター・ミュラン(EMクラブのマネージャー、ジム) シェー・ウィガム(ジムの部下ラッセル) 哀川翔(ニセ日系人)
終戦を南の島の奥地で、戦友の死体に囲まれて迎えた青年、広岡。 飛行機から大音量のジャズが流れ、敗戦を知らせるビラが雪のように舞い落ちてくる・・・。
やがて、信じられない気持ちをかかえたまま、ボロボロの軍服で故郷の東京に戻ってきた広岡。彼は楽器店の1人息子で、店は、GHQの方針により教育機関にオルガンが普及しはじめたことで、そこそこ繁盛しているのだった。
目にしたものは、かつて陸軍の軍楽隊だった連中が、パリっとした西洋風のかっこをして、ちょっと前まで命の取りあいをしていたアメリカ進駐軍の慰安のために、聞いたこともないような曲を演奏する姿だった。 ミニスカートで踊るかつての大和撫子たち、コーラ・・・・。 びっくりである。
とにかく、戦争は終わった。 食わねばならない。
楽器を片手に、進駐軍の慰安のためのEMクラブで演奏させてもらい 日銭を稼ごうと集まってきた青年たちと、タバコにちなんで “ラッキーストライカーズ”というジャズバンドを結成することに。
みな、それぞれに、いろいろ抱えている連中だった。 長崎で被爆して孤児になっている幼い弟を捜すピアニスト。ヒロポン中毒のトランペッター。反政府のアングラ活動をしている元教師の兄に居候させてもらいながら、押し入れの中でジャズレコードを聴くベーシスト。スティックをバチという、音楽のおの字も知らないドラマー。 そして、人生に何の意味も見いだせず何も信じられない投げ遣りに生きるサックス奏者・・・。
進駐軍のアメリカ人の想いもそれぞれ・・・。 事故という形で息子を亡くした軍曹。 日本兵にレイテ戦で弟を殺され、毎夜、日本兵を殺す悪夢に うなされる兵士、ラッセル。 洗っても、洗っても、手に染みついた血が落ちないような気がして ラッセルは苦しんでいる。
まるきりやる気なく、音楽への熱意が感じられない日本人のジャズバンドに、ラッセルのいらだちは一層募る。
ラッセル自身も、凄腕のサックス奏者だった。 世が世ならば、銃ではなく、一生、サックスを武器に男を誇れたのに・・・。
その悔しさは、はじめは怒りとして爆発し、次第に、 ライバルと認めた広岡との奇妙な友情の中で、ジャズへの愛を 分かち合おうとする姿勢に変わってゆく・・・。
さまざまな人間模様が交錯するなかで、散り散りになってゆく バンドメンバー。
だが、悲しい事件が再び彼らを集結させる・・・。
スタッフに誰一人、戦後の東京の焼け野原を知る者がいない状態で、丹念に丹念に調査して、画面に映らない小道具まで、心血注いで造り上げたという。
ラッキーストライク。 日の丸をやっつけろ!そんないわれがあの煙草のパッケージの模様にはある。
闇市。ヒロポン。占領軍によるレイプ。やがてヤクザになる浮浪児。思春期に終戦を東京で迎えた昭和ヒトケタの母に、何度も 聞いたっけ。
武器より楽器だ! この映画のメッセージはすごくシンプルで、あまりにストレートで、そして、時代の犠牲者たちへのレクイエムなのに、 ユーモアを失わない。
名優ミュランが、映画全体の空気を落ち着かせている。
マクベス夫人のように、夜中、手を洗えど洗えど落ちない 返り血に苦悶するラッセル。
日本兵を憎みならがも、本当に憎んでいるのは、我が身に染みついた血であり、もっと復讐のために血を吸いたがっている自分の手であり、そして、そんなことを自分に強要する、戦争だ・・・。
いまひとつ、生活のために必死で音楽をやる風でもなく、 音楽を愛してやまない風でもない、まるきりやる気のない 前半に苛々する。 だが、それが後半、物語が花開くための踏み台だった。
米軍の事情も、白人よりもまず黒人が最前線に送られる、などが 描かれてはいるが、この映画では、米軍はこうだ、日本人はこうだ、というふうには描いていない。
立場は違えど、愛する者や仲間が死ねば涙を流し、生きるためには 理想論なんぞぶってないで今可能なことで食わねばならない。 そして、誰も死にたくなんてないし、殺したくもない。
「バンド・オブ・ブラザーズ」の最後のほうにそのくだりが出てくるが、 米軍はポイント制であり、一定ポイントを満たさないと帰国できない。映画にでできた進駐軍の米兵たちは、ヨーロッパ戦線で毎日 地獄をみて、やっとヒトラーが死んで終戦だと思ったら、日本に 駐留せよと命令を受け、家族の元になかなか帰れないものたちだ。
そして、そのまま今度は朝鮮戦争が始まる。 広岡「死ぬなよ。」 ラッセル「逆だよ。殺しに行くんだ。」
暗澹とした気持ちになる。 時代が違えば、いや、戦争がなければ、ラッセルは機関銃を握ることなく、サックスを握り、砲弾を浴びることなく、賞賛の拍手を浴びていたのだと思うと。
もうちょっと、前半をタイトにまとめてエピソードを流れよく まとめてくれると、もっとよかったかなとは思うが、 若い監督らしい軽さとアツさのある、いい作品だったと思う。
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