ある大学院生の日記

2002年04月03日(水) 限界税率

跡田直澄・橋本恭之・前川聡子・吉田有里 [1999] 「日本の所得課税を振り返る」大蔵省財政金融研究所『フィナンシャル・レビュー』50, 29-92 とか,田近栄治・古谷泉生 [2000] 「日本の所得税−現状と理論−」大蔵省財政金融研究所『フィナンシャル・レビュー』53, 129-161(リンクが切れてる,と文句を言ったら,すぐ直してくれた.やるなあ財務省.ぱちぱちぱち.文句を言うページがわかりにくいのは大いに修正してほしいけど.宣伝だけじゃなくて,意見を取り入れるという観点が欠落してるんじゃないか?) とかを読みつつ,推計した限界税率の動きと税制の変動について考えをめぐらす.どうみても,個人レベルでの限界税率の動きと,今回推計された限界税率の動きは一致しない.推計方法が怪しいのはまあしょうがないにしても,これにはきっと理由があるに違いない.やっぱり集計の問題だとおもうんだけどなあ…….


まあどっちにしても日本語は読みやすい.あたりまえなんだけど.


税制といえば,税調と諮問会議が対立してるんだかなんだかなんだそうだ.審議会みたいなものは選んだひとや事務局の意向がおおきく影響するといわれているから,違う意見を持った会議があるていどパブリックなところで意見を戦わせるというのはそれはそれで健全でいいことだとおもう.「むかしからあるから」とかいうのを前面に出すのはそういう点でいかがか? で,配偶者控除・配偶者特別控除がなくなるんだか,縮小されるんだか,なんだそうだ.これらの制度は,かつては100万円の(103万円の,ともいう)壁をつくり,限界税率を高めることにより既婚女性の労働供給の阻害要因となっていた,といわれることがあり,経済の活力を高める観点から望ましくない,というのがその理由だそうだ.経済の活力はともかく,中立性を阻害しているのは間違いないようだ.っていっても,税制なんて人頭税を除けばほとんど必ず歪みをもたらすんだから,ここだけとりあげて中立性が…ということもないとおもうんだけど.ま,一般には,税制のために労働供給がゆがむことはそれほどないとおもわれる(定時,という概念はまだ根強い)のだが,既婚女性,いわゆる主婦の労働供給,つまりパートに出るかどうか,はそれよりは強く影響を受けるとされている.でまあ,そりゃまあそうでしょう,慶応の樋口先生なんかも実証している通りですし,ぼくも検証したこともある.また,人的控除の縮小により課税ベースを広げ,税制の景気自動安定化機能を強化する,というのも正しいとおもう.そりゃまあそうです.


でも,やっぱりなんとなく「他にやることがあるだろ」とおもう.


配偶者控除が女性の労働供給を妨げる,というけど,これは専業主婦のパートの話でしかない.もちろん,介護や保育への労働需要が高まることと,それに適した労働力の供給という点から見れば,これはこれで重要な論点だろうとおもう.が.


女性の労働ということを言うなら,むしろ,子供を生むためにキャリアパスを捨てざるを得ない女性が多い現状,あるいは,キャリアパスを優先するために子供をつくれず少子化が進行している現状のほうを重視し,保育所や幼稚園の充実をはかるほうがより大きく議論されるべきではないだろうか(とまた受け売りする).


べつに財務省の方を持つわけじゃないけども,「この景気が悪いのに財政再建なんぞいいやがって」という財務省への反発が,むだに税制への風当たりを強くしているような気がしてならない.税制の影響はそんなに大きなものなのか?


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