もう、死んでしまいたいと思い、手にカミソリを持ち、ぼんやりとその鈍い光を見つめていた。
電話が鳴った。
あの人からだった。
あたしは泣き崩れ、手にしていたカミソリを落とした。
次の日、憂鬱な気持ちを抱えたまま仕事に向かうとそこにはあの人がいた。
あたしは夕べ死のうと思っていたことは話していなかった。だけど、電話で様子がおかしかったから、と心配して様子を見にきてくれたのだ。
あたしは救われた、と思った。
この人は命の恩人だと思った。
藁をもすがる思いでしがみついた。
それから10年が過ぎた。
しがみついた藁はやはり藁だ、と思い知らされることも多々あった。
そんな話をしたら、
「すがられて踏ん張ったんだから頼もしいじゃないですか」
と言われた。
あまり認めたくないし、公言することでもないが、あたしは精神的にとても不安定だ。
負の感情に支配されると、頭を壁に打ち付けたり、自分で自分を噛んだり、病んでいる、と言ってもいいくらいの状態に陥ることがある。
そんな風に、ただひたすら頭を打ち付ける様を見ても怖がらずに逃げずに、うろたえながらもそばにいてくれた。
つまづいたらもう一度最初に戻ってみればいい。
時が過ぎれば環境も変わり、人も変わる。
大切なのは変化を恐れずに受け入れていくことなのだろう。
あたしのマイは非通知です。