ユタカ君が配属されて半年以上になる。
最初は不慣れなためなのだろう、どうにも段取りが悪くて、作業がはかどらないのも、そのために残業続きなのもある意味仕方のないことなのだろうと、大目に見ていた。
だがしかし。
1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎ、季節は夏になり、冬になっても、彼の段取りの悪さ、要領の悪さは何ら改善されることなく、そのくせ言うことだけはいっちょ前なものだから、こちらが段々と苛つくことが多くなった。
「うららさん、今日の仕事の予定は?」
あたしの仕事の予定を聞いてあなたに何の関係が?
確認をするものの、それに関して何らかのフォローなどがあるわけでもなく、何を知りたかったのだ?と首を傾げたくなる。
当然彼は社員なのだから、やるべきことやらなければならないことはあたし達パートの比ではない。
にも関わらず、やるべきことが出来ていない、何をやってるかわからないけど、とにかく無駄な動きが多い、と言ったことからK嬢が切れ始める。
「あの能天気な顔見てるだけで腹が立ってくる。あいつのせいで仕事辞めたくなってきた」
とまで。
彼女がユタカ君から受けるストレスは相当なものらしく、そのストレスを発散するべく向けられる矛先は同じ担当のパートのYさん。
Yさんは売り場最年長だが、それなりに頑張って仕事に取り組んでいると思うのだが、そこは人間ミスを連発してしまったり、最近ちょっと不調気味だ。
自信喪失しているところに追い討ちをかけるようにK嬢から執拗に作業状況について責められ、ますますやる気をそがれ、ついにはやめたいと言い始めた。
「いいわね、うららさんはKさんからきつく言われることなんてないでしょ?」
そこにはちょっぴり恨みがましいニュアンスが感じられる。
そんなところに、相当能天気なユタカ君は
「なんであんなにKさん、機嫌悪いんでしょうね?全くまいりますよ」
って、おまえのせいなんだよッ!とのどもとまででかかるのをぐっと飲み込んで、苦笑いする。
「うららさんの顔見るとほっとする。あのバカや、他のパートさんたちのだらしなさを見てるとほんとイライラしてしょうがない」
などとK嬢に言われても、それら全員の愚痴を聞かされるあたしはたまったものではない。
Yさんが、
「今日はマネージャーに辞めるって言おうと思ってきたのよ。もうKさんとは一緒に仕事したくないから」
と言うのを何とか引き止め、Yさんが帰った後、マネージャーに
「Yさん相当に思いつめていたようなんですけど、何か言ってましたか?」
と打診する。
「特に何も言ってなかったけど、どんな感じなの?」
と逆に聞かれ、事情を軽く説明する。
「まあね、冷静に見たときに、片方はきついし、片方は言われるようなことをしてるって言うのはあるわけよ。1年、2年、3年と年数が経つに連れ、いろいろ経験していく中で、自分から考え、自分から行動を起こす、そして段々とステップアップしていく、と言う中で彼女は今、停滞してしまっているんだよね。その理由はなんなのか分からないのだけど。僕はね、人って言うのはみんな、同じだけ能力を持っていると思うんだよね。ただ、それをやるかやらないかだけの差だと思うんですよ。例えば、あの靴。ちょっと曲がっておいてあるな、じゃあ直そうか、と動く人は動く。ただ、ぼんやりと見てるだけの人もいるわけですよ。そこは気がついて、実際に行動に移すか移さないかの差だけであって、もともとのもっている能力に差はないと思うんですよね。先に進めないと言うのであれば、それはその人自身のものごとに対する心構えみたいなものひとつだと思うんですよ」
あたしの仕事に対するスタンスは「テキトーでいい加減」だ。
テキトー=適してあっている。
いい加減=ちょうどいい加減。
と言うのがその意味だ。
今のマネージャーが来る前にいっしょに働いていたマ○野氏にその言葉の意味を話した直後に今のマネージャーが赴任してきて、
「うららさん、うららさんすごいですよ!マネージャーが言ってましたよ。仕事なんてモノはテキトーでいい加減にやるべきだって。うららさんに聞いたばかりだからびっくりしましたよ」
と言われ、同じ考え方の人がいたんだ、とちょっと嬉しいような、だけど驚かされたことを思い出した。
そして今回、マネージャーが言った物事に気がついてやるかやらないかで差が出てくるというのも常々思っていることだ。
仕事に対するスタンスが同じということは、あたしが感じている現状はそのままマネージャーも感じているということになるのだろうが、この先、長くてあと1年でいなくなるであろう間に、売り場の雰囲気をなんとかしてもらいたいと切実に思った。
あたしのマイは非通知です。