日々雑感
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渋谷にてテオ・アンゲロプロスの特集上映が行われていたことに、終了二日前に気がついた。木曜日、ずっと映画館のスクリーンで見たかった「永遠と一日」に何とか間に合った。最終日である金曜日には「旅芸人の記録」を見る。渋谷の片隅でひっそりと地味に行われている(と思っていた)上映で、さらに平日昼間であるにもかかわらず、館内は満員。みんなどこで知ってやって来るのだろうと、自分のことを棚に上げて不思議に思う。
「永遠と一日」。不治の病を抱えた老詩人が、偶然出会った少年とともに乗り込む<魂のバス>。車窓を流れる夜の港の明かり、白っぽいバスの車内、そこにいろいろな人が乗り込んできては、また降りてゆく(まるで銀河鉄道のように)。曇天のギリシャ、冬の海の灰色、「旅芸人の記録」にて、古典劇を上映しつつギリシャ各地をまわる旅芸人一座が、踊りながら歌う、そのときの掛け声、「ヤクセンボーレ!」
映画を観ていたというよりは、そこに流れている時間を自分も生々しく体験したかのようで、帰り道は、うわ言のように、まいった、まいったと繰り返すばかりだった。
そのせいもあったかもしれない。嵐の音を聞きながら、今朝、バスの夢を見た。夜道を行くバスに自分は乗っている。運転手の後ろの席だ。反対側の窓辺には友人の姿がある。しんとした商店街。波打ち際のバス停。知らない人、なつかしい人、たくさんの相客がいたけれども、ひとり、またひとりと降りてゆき、やがて友人とふたりきりになる。
すべてのものが、まだ息をひそめてじっとしている長い夜明け前の暗がりを抜けて、目的地に近づいた頃、夜が明けた。よく知っているような、はじめて来るような、判然としないけれども確かに「なつかしい」その街は、朝陽に照らされて、なんてきれいだったろう。光る水路のまぶしさが忘れられない。これをよい夢といわずして、何という。
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