日々雑感
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2004年09月26日(日) バスの中にて

夜行バスにて上京。運転手ふたりは秋田の人である。「あえどふでけし」「おなごだばみなんだもんだって」「めのさくっついでぐが。しぇばねででもいげるねが」「んだなそえだばいな」。とにかくよくしゃべる。運転手の真後ろの席で気持ちよく秋田なまりを聞いていたけれども、地元客以外には難しかったかもしれない。

どこの国の人だろうか。大きなリュックを背負った外国人の青年が乗っていた。一生懸命指で「四、四」と示しながら彼の座席を教えた運転手のひとりは、何かある度に、彼は大丈夫かと気にしている様子がわかる。ふだんは東京と行き来する地元客がほとんどの路線に異国の人が紛れ込んできたら、それは気にもなるだろう。

夏、ブルガリアのプロブディフという街からミュンヘンまでバスで移動した。車中泊、30時間近くもかけて移動するこの路線に乗っていたのは、やはり地元の人ばかりだった。直前にいたトルコのように、興味津津でこちらへ話し掛けてくる人は多くないけれども、車中にて皆こちらを気にしているのがわかる。大丈夫か、のどは渇いてないかと、せっせと飲み物を運んでくれた運転手さん。何か食べるたびに、必ずこちらへ半分おすそわけしてくれた、となりの席のおばあさん。ミュンヘンに留学中だという女の子とその妹は、これはあなたにといって、誰が作ったのだろうか、丁寧に薄紙で包まれたサンドイッチをひとつ手渡してくれた。

車内のテレビにて流された古いブルガリア映画はどうやらコメディらしく、皆大笑いしている。そこここに話の輪ができ、誰かが持ってきた新聞が回し読みされる。ときに何時間も待たされる国境審査(このときは四度もあった)、深夜だというのに何人かの果物売りが店を広げている休憩所、ラジオから流れる民謡、長い時間を共に過ごして、バスの中にだんだんと連帯感のようなものがうまれる。ひととき、道行きを共にする人たち。自分たちが意識せずしてその場所にいられた「母国」から、異国へと向かってゆくのだとすれば、その気持ちもなおさらかもしれない。バスがミュンヘンに到着したときには運転手に対して拍手がおき、皆、握手し、抱き合って挨拶しながら、それぞれに下車していった。

秋田から東京へ。8時間足らずの道程だったけれども、乗車していた彼の目には何が映ったか。朝の新宿は雨だった。もう一度リュックを背負って降りていった彼の手には、日本語学習のテキストがあった。


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