日々雑感
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喫茶店の2階。窓際の席に座る。大きな通りに面していて、人や車がひっきりなしに行き交っているのが見える。
午後の喫茶店はけっこう混んでいて、いろんな会話の断片が耳に入ってくる。隣りに座った女の子二人は、同じ居酒屋でアルバイトをしている仲間らしい。先日あるお客に食い逃げされたことについて、ひとりが延々としゃべっている。なかなかの語り手。悪いなあと思いつつ、顛末が気になってつい耳をそばだててしまう。食い逃げのお客は、ひとしきり食べ、飲んだあと、わざと騒ぎを起こして店から逃げ出したらしく、そのやり口を聞く限りではなかなかのつわもの。
他にも、店長がいかに嫌なやつであるか、同僚の男の子がいかにいいやつであるか、二人して熱心に語り合ったあと、ひとりがぽつんと言った。「私、はやくおばちゃんになりたい。おせんべい食べながらワイドショーとか見て、芸能人の話とかばっかりしたい」。
『ニッポン居酒屋放浪記 立志篇』太田和彦(新潮文庫)を読む。全国各地の居酒屋をめぐって書かれた文章。もう、すばらしい。読みながら、しばし幸福な気分に浸る。紹介される料理やお酒もおいしそうなのだが、何より、居酒屋で飲むことをしみじみと楽しんでいる、その風情がいい。
「客の男たちは盆休みに家に居るのも所在なくここに来たのか、ちぢみのシャツにサンダルばきでテレビの高校野球に見入っている。地方都市の夕間暮れ、ひなびた商店街の居酒屋でビールを飲みながらぼんやりと高校野球をみているのはいい気持ちだ。」
この感じである。お酒を飲んだときの、リラックスした空気が伝わってくる。
房総のなめろう、「薄い油揚げに浅葱ネギの青いところを刻んでたっぷり入れ軽くあぶった」葱揚げ、粗塩をかけて焼いた生タコ焼き、花かつおがたっぷりかかった焼きナス、鯛のきずし、「焼おにぎりとあぶった魚に熱々のダシ汁をたっぷりかけ、三つ葉を山盛りにした焼おにぎり茶漬」。
読みながら、居酒屋に行きたい欲が高まる。こじんまりとした居酒屋でひっそりと飲みたい。食い逃げ、飲み逃げしたりしないから。
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