TOI,TOI,TOI!


2001年06月19日(火) 入試ドラマ。

13日の実技の試験日からきのうまでの6日間のことは、長い人生でも、忘れることはないだろうなあ。

13日は5時半起床。電車が20分も遅れて冷や汗かいたけど、9時半に無事ゼクレタリアートへ。中国人の男の子と知り合った。第一印象は「絶壁」。
私が弾くのは12:20と告げられたので、それまで学校でさらったのだが、これがものすごい部屋取り合戦・・・ 部屋を探して歩き続けてたら、なれないパンプスのせいで足を痛めてしまった。

1時間ほど探し続けて、偶然にも部屋が取れた!これは運がよかった今考えても。しかしのどが渇いた!水持ってくるのを忘れてしまった。足はじんじん、のどはカラカラ、でもこの日は不思議と気持ちが前に向いていた。

楽器を拭いていたら、なんとE線が枕のところで溝から外側に2ミリぐらい、はずれている!
E線をかえたのは2,3日前のことだが、そんなに「心ここにあらず」になってたのね・・・と、ちょっとひとりでおかしくなった。そんな風に思えるほどこの日は冷静。なおしたら鳴るようになった!気分もよくなった。

今日は外人を集めた試験日のようだ。私の2人前は、愛想のいい中国人の女の子。弾く直前なのにすっごい笑顔。弾き終って出てきたときも更に笑顔。私の前は朝の男子。私は最後から3番目で、あとは韓国人の女子とスペイン人の男子。


私の前の男の子が片手を高々と突き上げて、出てきた。勝った!ってところか?

そのあと先生たちが出たり入ったりし始めた。そこへフォーヒャルトも出てきて、私に気づくと、肩をポンポン!とやってくれた。一瞬の出来事だったが、アジア人連中が一斉にこっちを向いた。

あとから分かったのだが、彼らは事前に先生とのコンタクトを取っていなくて、しかもいくつもの学校を併願している。
私は、コンタクトを取っているけど、一本釣り・・・。
コンタクトと言っても、とってくれるとは一度も言ってもらってない。むしろ、併願するべきだ、と、先生から直接言われていたのだ、。
ココだけだと言うと、韓国人は眉毛をつり上げて驚いてた。

とにかく今か今かという状態でけっこう待たされた。いつも本番直前は、出る瞬間に合わせてテンションを高めていく私にとっては、つらかった。こちらの試験というのは、弾き終わるとすぐにその人の合否を出す。つまり一人終わるごとに会議しているのだ。


フォーヒャルトが呼びに来てくれて、・・・中へ。


Kの言葉を借りると「ほがらかな」男の先生が、いきなりGuten Tag!(笑顔!)私もグーテンタークと、面食らいつつ返す。そのあと朗らか先生が、何か言ったけど聞き取れず。最初に何を弾きたいか聞かれるはずだと思って構えていたので「バッハ」と答えてしまった。今考えると聞き直せばよかったなあと思うけど、なんか、「バッハ」 と、出てしまった。

課題は、全部で5曲。バッハのあとモーツァルトと、バルトークを指定された。チャイコフスキーを弾けなかったのはかなり悲しかった。あともう1曲はカプリスなので悲しくはない。
最後に初見。初見は桐朋で先輩たちに鍛えられたおかげで割と得意分野。

終わると、朗らか先生が、Danke schoen!(笑顔) フォーヒャルトも笑顔。私もダンケシェ−ンと言って、なんかそういう雰囲気じゃなかったんだけど一応日本式?におじぎをした。
初見でバルトークを達者に弾いてくれた伴奏者にもダンヶシェ−ンと言って出て行こうとすると、朗らか先生が、首を伸ばしてこっちを見て「Auf Wiedersehen!」と手を振ってた。中国女子が笑顔で出てきたのは、これか?と思いながら、私もかろうじてアォフビーダ−ゼ〜ンと言って出てきた・・・・。

終わった。

韓国女子と結果が出るまで一緒にいた。まだ19だそうだ。8ヶ月ケルンにいるそうで、わたしより断然ドイツ語は上手い。韓国人だということで、「チョンミョンフン、好き」と言ってみたり、なんかいろいろドイツ語で話した。あんまり内容は覚えてない。弾く前より何倍も緊張していたから。

結果が出た!と「絶壁」が知らせに来て、みんなで学長室へ行く。一人ずつ入って聞く。
「笑顔」中国女子は、落ちた。
「絶壁」男子はまた片手を突き上げて、出てきた。受かったのだ、コンタクトなしで。
韓国女子も落ちた。スペイン男子も落ちた。みんなに先を越された控えめな日本人は最後に中へ。



震えながら自分の名前を告げると、・・・・彼は肩をすくめて、
ゆっくり首を、横に振った・・・・・。




それからはなにも考えられなかった。
帰りに買い物してかえろうと思って袋持ってきたけど、その気力さえ無い。見るもの全てがいつもと違って見える。
部屋に戻って一人になると、もっとつらくなった。Kにまず報告。Nにも電話。これからどうするかという話にどうしてもいってしまうけど、本当に、考える気力が無いという状態だった。こんな状態にまでなったことって今まであっただろうか?
することがないので、化粧を落として、布団に入った。でも頭の中をこれからの事ではなく、今日なぜこうなったかという事ばかりがぐるぐる回っている。寝れるわけない。Kさんに言われたとおり先生だけが全て分かっているんだから、先生と話すのが最初だ。布団の中でどんどん想像してしまう。でも、それは意味の無いこと。本当はどうなのか知りたい!

布団から飛び起きて、先生に電話した。・・・・留守電。何度もかけなおすが、ずっと留守。もうバンベルクの家に帰ってしまったのかも?先生と奥さんの家はバンベルクにある。電話してみる。
奥さんが出た。「明日の昼に帰ってくる」そうだ。

再び布団へ。時々、さざ波のように悲しみがおそって来る。つらい夜だった。

翌日は昼までむりやり布団の中にいた。眠っていたかった。眠っていればあの波におそわれないから。目が覚めてしまったことが悲しかった。

12時ぴったりに電話した。奥さんに13時に電話してと言われた。12時はミッタ−クじゃないのか・・・?
13時に電話。「Forchert」 あの声だ。
ノブコ。と言うと、
「電話で話すのはよくない、明日学校に3時くらいに来なさい。レッスン室の前で。いい?じゃ、ザヨナラ(日本語)」
と言われた。
先生はそんなにいつもと変わらなかったが、私は先生のザヨナラに、反応する余裕すらない。

とにかく、今か今かと私からの連絡を待ってるに違いない人にだけ、言葉少なにメールで報告。それを見た、Tから国際電話。あ、伸の声久しぶり・・・と言われてすこしうれしかった。だいぶ気が晴れた。
夜、Aからも電話。元気が少し出てきた。

ビザのことも考え始めた。語学学校に通うということで経済的にどれだけ大変になるのか計算すると、また悲しくなった。

Nがミュンヘンフィルの「オーケスターアカデミー」のオーディションがあるけど、どう?と、メールで教えてくれた。でも10日後。もちろん受かるわけないのだが、一度そういうところで弾いとくのも悪くないと思って、やることにした。課題はモーツァルト。午前中さらってみた。モーツァルト特有の明るさにちょびっと元気が出た。 

午後学校へ。最初に、先生は「分かってる?」と聞いた・・・。

伸「???」
 
先生「君は合格した」 

伸「?!?!?!」 先生の顔を穴のあくほど見つめる私。 

先生「合格」
伸「でも不合格と言われました」 
先生「君は1年ここで勉強できる」 伸「?」 
先生は、1年ここで勉強できると、私のノートに書いてくれた。
先生「なんちゃらかんちゃらコンツェルトエグザーメンがどうのこうの」伸「?」 
先生「OK. 誰か日本人に通訳してもらおう。今探しに行こう。Komm!」 
そう言って先生はロビーに出て、アジア人に片っぱしから声をかけてくれた。私も日本語で「日本人の方いませんか?」とやったけど、ロビーには日本人はいなかった。
先生は今度は守衛さんにきいてくれた。守衛さんが教えてくれた部屋にいくと、日本人のピアノのやさしそうな人が伴奏合わせ中だった。
先生は、彼女を通してこう言ってくれた。

「今年から学校がシステムを変えて、すでに大学を卒業したという資格をもってる人にはKAの受験資格がなくなった。そのため事務的に私はKEの試験を受けたことにされていた。KEには点数が足りなくて落ちてしまった。でもKAに合格する点数は取れていた。システムのことを知らせないで受験させたのは学校側の落ち度なので、KAの最終学年のところに入れることにした。それでどうか?」  
 KA ; 2年で卒業するコースがあり、ほかの大学を出てからでも入れるというコース。(だった。)
 KE ; ソリストのためのコース。ここに入るのは国際コンクール級に難しいと聞いてたので、もちろん私が受けるコースではない

どうか?と聞かれているので「喜んで」と、通訳してもらった。
彼女は親切に、1年で試験(卒試)を受けなくてはいけないのかと聞いてくれた。けど先生は知らないらしい。

彼女と合わせ中だったバスの人にお礼を言って、部屋から出た。その瞬間、ぐっとこみ上げてきて、・・・・声が出なくなった。きっと先生が私をとるつもりでやってくれたことなのだろう。併願しろと言われたこともあるのに・・・。
ダンケと言った瞬間に、我慢しきれず、涙が・・・。先生は、私を抱きしめてくれた・・・。

展開が早くて、実感わくひまがない。でも帰り道、いつもの光景も、見る物全てが違って見えた。一度帰って夜ピアノをさらいに再び学校へ。

土日はひたすらテオリ−の勉強。16日の朝、日本から、Tが到着した。Hbfで会い、受かった。と、報告。1時間だけマックでお茶した。朝マックおごってくれた。ティ〜は胸がいっぱいでお腹すいてないと言ってた。私も来た日のことをちょっと思い出した。ずいぶん前のことのような気がする。



18日月曜。24歳になった。
7時半に学長室に行って、確認すると、またあなたは不合格ですよと言われた。拙いドイツ語で必死に説明したが、いまいち分かってもらえない。でも先生がノートに書いてくれたのを見せたら、ころっと態度を変えて、じゃあ今日の試験を受けなさい。と、言われた。もう〜心臓に悪い。この人はなかなかくせものだな。あとでまた今日の試験の合否を聞きにここに来るのだ。想像するだけでいや〜な気持ち。

口笛ピーピーならして、大きな帽子をかぶった男の人が、試験の部屋に出入りしていた。この人が一人でテオリ−、聴音、ピアノの試験を全部やる先生だと分かったのは、試験が始まってからだった。

テオリ−は問題数は少なかったが、勉強したところが出ていたので、ヨカッタ。聴音は、屁?ていうレベル。日本の学校の聴音は相当なレベルだという事がわかった。
それらが終わって、ひとりずつテオリ−口頭と、ピアノの試験。いくつかの問題で、問題の意味を取り違えたが、間違った答えを言うと、説明をしなおしてくれるというやさしい先生だった。初見(うた)もあったが、これは聴音と同じくカンタンだった。
日本ではやったことないなと思ったのが、先生があるメロディを弾いて、つづきを即興で創って歌うというもの。思いつくままに歌ってたら最初の調に戻らずに終わってしまった。これは多分点取れてない。即興の能力じゃなく楽式論の問題だったことに気づいたのは終わったあと。
あと、先生が4小節のリズムをたたく、それを即座に繰り返すというもの。これもやったことなくて、最初意味が分からなかった。

ピアノはなんとKAWAIだった。さらった甲斐あってまあまあ。緊張も全くしなかった。先生がやさしい人で、ゴッツァイダンク。

それにしても、こっちってほんとにどんなときでも挨拶することを忘れない。試験であろうと。
日本のあの張り詰めた空気を思うと、挨拶ひとつでこっちの気はずいぶん楽になるんだなあ・・・と思う。

なぜか次の人たちが誰も来ない。韓国女子3人まとめてだ。おかげで私たちの合否判定もでない。絶壁男子と待っていたが、この待つ時間というのがどうも嫌!じっとしてるといろいろ考えちゃうんだもん。なので、どっかでピアノさらってるかも?と思って、探しにいくことにした。
ドイツ男子(18)と、絶壁男子が一緒にいたので一緒に探してくれないかな?と思ったけど無理だった。
探すといってものぞき窓がないので、ノック→開ける→謝るという繰り返し。学校中のすべての練習室を見たけどいなかった。

12時になって、事務が閉まると、ドイツ男子は帰ってしまった。また3時ごろ見に来る!と言って。

絶壁男子に誘われ、メンザに食事をしに行くことにした。学生料金は安い!!(もちろん私たちはまだ) 日替わりランチで4DM(二百円強)。あまりおいしくないけど、安いということはよくわかった。そこに偶然現れたのは、U氏。「なんか残念だったそうで・・」と、言われてしまった。事情を説明・・・。その間絶壁男子ほったらかし。

食べ終わって、絶壁男子に誘われるまま行くと、着いたとこはホール。(学校内。)そういえばYukiちゃんが今日はオケだと言ってた。演目はフィガロ。しかも衣装も化粧もしてる。お客さんも少しいる。公開リハーサルといったところか?
学生オケと、学生シンガーでも、モーツァルト満開だ。日本人は大の大人が集まってもなかなかこれが自然に出せないのだ。表面的に(音の長さとか)真似するんだけど、何かが違う。血というものか・・・。

さっきの場所に戻り、再び待ちの時間。また緊張してきた。1時半になると事務が開くので、覚悟を決めて学長のところへ。あのときの思いがいやでもよみがえる。いよいよ本当のクライマックス・・・!!怖い!

おびえながら入り口のところで名前を言うと、「そんなオドオドしないで、堂々と入って来い!!」と言われてしまった。真似までされて・・・。
くせものの彼は、合格とはいわず「1年」としか言わない。今日の試験パスしたんですか?と、こっちから聞くと、軽く
「JA」

やった!とうとう!ついに!!!!!!

電車の中でもバスの中でもニヤニヤしてしまう。Kに報告したい!のに彼女は今音楽祭に参加していて、Frankfurtにいない。


学校の掲示板からZimmer Frei!315DMというのを見つけたので、家から電話かけたら、「今日の夜8時に来て。」と言われたので行くことに。これこそ「勢い」だな、と思いつつ。
電話で聞いたとおりにいくと、なんか見覚えがある光景が・・・なんとKんちのすぐ近く!!すごい偶然。

ほかに3人いるみたいだけど、その時いたのはひとりで、電話に出たのとは違う人。そのアパート自体がセンスよくて、中も、すっごいいい感じだった。新しくて、色は青系で、きれいだし。部屋は狭かった。とても。それ以外は完璧。
彼女はバス科のフランクフルトの学生だって!つまり練習していいってこと!立派なキッチンもあるし、とにかくセンスがいい。でも、あしたもうひとり部屋を見に来る人がいるので、話し合いをしてどっちかを選ぶと言われた。


  
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