水野の図書室
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2001年11月24日(土) 乙一著『優子』

『優子』は、『夏と花火と私の死体』(集英社文庫)に収録されている
書き下ろしの短編です。

戦争が終わって、まだ間もない頃。鳥越家に住み込みで働くようになった
清音(きよね)。鳥越家の住人は、物書きの鳥越政義と妻、優子のふたりだけ
でした。優子は政義の部屋で寝たきりに近い生活をしているからと、
政義は清音に優子を会わせることなく、優子も清音に顔も見せない・・

清音はふたり分の食事を政義の部屋の前まで運ぶうちに、襖の向こうに
本当に優子という妻がいるのか、疑うようになっていきます。
政義が外出したあと、清音はとうとう襖を開け、入ってはいけないと
言われていた部屋の電灯を・・そこで清音が見たものは・・

『優子』、これは不思議な世界です。
ラストはどんでん返し。この結末はまったく予想外でした。
途中も二転三転で。

読み始めたときは、なんで?と、こっちにも疑問が。
「あの部屋は掃除をしなくて本当にいいのでしょうか」と聞く清音に
「ええ、あの部屋だけは優子が掃除をしてくれますからね」と答える政義。
ところが、次のページでは、
「奥様はお元気なのでしょうか?」と聞く清音に
「かんばしくありませんね」と政義は答えるわけで、オイオイ、ちょっ〜と、
と、ツッコミたくなるんです。

≪旦那さまー 病気の妻に掃除させないでよぉ〜≫ なんで?

清音は優子の白い寝間着を時たま洗濯しながら、着せられていたもの
なのだろうかと疑うほどきれいなのを、寝たままなのだから汚れないと
考えることにしていた。・・・って、

≪着たか着てないかくらい、わかるでしょ〜≫ なんで?

そして、読み終えたとき、そんな疑問はどうでもよくなっていました。
もの哀しさが漂うラスト9行。
清音は政義に特別な感情をもっていたのだと思います。
短編『優子』は68ページ。現実と幻覚を彷徨う20分。
けなげな清音に胸がつまりました。











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