水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
『優子』は、『夏と花火と私の死体』(集英社文庫)に収録されている 書き下ろしの短編です。
戦争が終わって、まだ間もない頃。鳥越家に住み込みで働くようになった 清音(きよね)。鳥越家の住人は、物書きの鳥越政義と妻、優子のふたりだけ でした。優子は政義の部屋で寝たきりに近い生活をしているからと、 政義は清音に優子を会わせることなく、優子も清音に顔も見せない・・
清音はふたり分の食事を政義の部屋の前まで運ぶうちに、襖の向こうに 本当に優子という妻がいるのか、疑うようになっていきます。 政義が外出したあと、清音はとうとう襖を開け、入ってはいけないと 言われていた部屋の電灯を・・そこで清音が見たものは・・
『優子』、これは不思議な世界です。 ラストはどんでん返し。この結末はまったく予想外でした。 途中も二転三転で。
読み始めたときは、なんで?と、こっちにも疑問が。 「あの部屋は掃除をしなくて本当にいいのでしょうか」と聞く清音に 「ええ、あの部屋だけは優子が掃除をしてくれますからね」と答える政義。 ところが、次のページでは、 「奥様はお元気なのでしょうか?」と聞く清音に 「かんばしくありませんね」と政義は答えるわけで、オイオイ、ちょっ〜と、 と、ツッコミたくなるんです。
≪旦那さまー 病気の妻に掃除させないでよぉ〜≫ なんで?
清音は優子の白い寝間着を時たま洗濯しながら、着せられていたもの なのだろうかと疑うほどきれいなのを、寝たままなのだから汚れないと 考えることにしていた。・・・って、
≪着たか着てないかくらい、わかるでしょ〜≫ なんで?
そして、読み終えたとき、そんな疑問はどうでもよくなっていました。 もの哀しさが漂うラスト9行。 清音は政義に特別な感情をもっていたのだと思います。 短編『優子』は68ページ。現実と幻覚を彷徨う20分。 けなげな清音に胸がつまりました。
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