2月下旬1本の映画を観た。タイトルは『バッファロー'66』。物語はこうして始まった。主人公ビリー・ブラウンは、5年の刑期を終え、故郷ニューヨーク州バッファローに戻る途中、自分に全く関心のない両親に「政府の仕事で遠くに行っていた、これから女房を連れて帰る」と嘘をつき、通りすがりの女レイラを拉致、彼女に妻を演じることを強要する。
いいか、本当にオレを立てろよ 両親の前でオレを馬鹿にしてみろ、その場で殺してやる オレの顔を潰したら二度と口をきかないぞ そのかわり、うまく演じたら親友になってやる 一番の親友だ 約束だぞ
様々な手法を駆使して作られたこの作品は1人の男によって監督、主演、脚本、音楽のすべてが手がけられていた。物語る力と演じる力の魅力。ベン・ギャザラ、クリスティーナ・リッチ、アンジェリカ・ヒューストン、ロザンナ・アークエットら脇を固める俳優の熱演によって、一つひとつのシーンが丁寧に作り込まれ仕上げられていた。
観る度に新しい発見があった。音楽の使い方はもとより、リバーサル・フィルムを活かした映像の深さがその効果を充分に上げていた。そして何よりも登場人物達。世間から少しだけ外れた彼らの突飛でおかしな言動や仕種に笑い、寓話のような優しさと孤独に共感した。すべては哀しみの中に息づき、人々は何かに欠けていた。その何かを見つけたいと願った。1時間53分のストーリーがもたらしたもの、それは、少年時代のリアルな思い出が重なるある種の痛みだった。彼に会って話を聞きたいと思った。彼の名は、ヴィンセント・ギャロ。
『SWITCH』JULY 1999/横井里香
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