2007年03月21日(水) |
3/21の坂本弘道ライブの感想 |
昨夜も今朝も、あれほど注意深く掃除をしたのに、ランチタイムのあと、踏まれて砕けた真っ赤な小豆を一粒、床の上に見つけた。切なくなった。
夕刻に、ああ、今日は亀山の「月の庭」で、また坂本さんはチェロを弾いているんだ、格闘するように。と思って、行きたいなあ行けないなあと遠くを見つめてしまった。
昨日は坂本さんの音楽と、坂本さんにまみれた1日。
リハの時、TAKEDAと顔を見合わせた。 「すごいね、これは!」 私たちはシカラムータと大友+さがゆきのバンドでしか、ライブの坂本さんを知らなかった。ソロCD「零式」には惚れこんだ。でも数年前に発表されたこのアルバムと現在のライブは随分と違うのだろうと思っていた。 しかし、生のライブはこの大好きなアルバム以上のものになりそうだ、と予感した。 リハが終わり、1枚ずつバラバラになった暦を、いかにもランダムな感じを装いながら、その実、丁寧に床に置いた。そして開演までの時が待たれた。
私が少しだけ知っている坂本さん。それは映画や芝居が好きで、話が面白くて、でもその話は少しだけ視点がネガティブで、ご本人は真剣なのにそれがなにやらマヌケな感じで、どこか隙だらけに見える素の坂本さんだった。 ところが、リハ、そしてライブの坂本さんの張りつめ方はどうだろう。顔が、え、そんなバカなと思うほど、とにかくむちゃ美男子になっている。 ああ、そしてもう、音楽は壮絶だよ。美しくて。 もうバカみたいだ、こうやって言葉で表すことが。今日もいろんな人に昨日のライブを話してみたけど、ダメだ、あんな音楽は私の言葉で説明できない。
坂本さんの音楽は、ドリルも、グラインダーも、暦の使い方も、チェロの上に降り注ぐ小豆の音、そしてチェロの中で転がる小豆の音も、それはある種、演劇的な発想であるけれども、その総てが坂本さんの音楽を成立させていくものになっていくのが凄いです。 あの、圧巻の。床でうねる電動マッサージ機の音。激しくなっていく、弓や、鉛筆や、グラインダーやドリルで奏でるチェロの音色。坂本さんの体から滲み出る凄まじい音楽のオーラ。もうすごくてすごくて、むちゃくちゃ心に揺さぶりかけられて、その壮絶さに震えが来て泣きそうだった。私が純粋な客だったら、間違いなく泣いていたかもしれん。
ライブのあと、楽器とセックスするタイプの人間と、楽器と格闘するタイプの人間がいて、自分は後者だろう、と坂本さんは言った。格闘。壮絶な、愛ゆえの闘い。何と闘っているのだろう。「楽器と」という言い方をしてたけど、違うな、「楽器」じゃないな、相手は。何か、坂本さんにしか見えない愛しい化け物と、だろうか。 自分にとって演奏は引きこもりのような状態で、世界と自分を繋ぐのは今、出している音だけのように思え、そして自分は時にネガティブな気持ちになり、とても孤独だ、とも言う。それを聞いてすごく納得した。シカラムータでも大友さんのバンドでも感じたんだ。坂本さんだけ時折、バンドの中にいてすごく異質な立ち位置にいるように感じる瞬間が何度もあったのだ。その雰囲気がとても印象的で、その時は「何だろ、この人は。何か怖いな」と思ったのだった。しかし、そういうことだったのか。 観客は目の前にいて、それは本当はちゃんと頭の一部で意識しているのだろうけど、しかしからだの真正面から向かい合っているのは客ではなく、自分とその音楽なのだというような演奏だった。 それぞれの人に様々な音楽との向き合い方、楽器との向き合い方があるが、この胸をわしづかみにするような壮絶さは、この坂本さんの音楽に対する姿勢から生まれてくるのだと、そう思った。
さて、ライブが終わり、その後いろんな話をして、片付けもして、残ってくれた人や手伝ってくれた人もみんな帰り、私とTAKEDAと坂本さんだけになった。坂本さんから握手を求められ、私たちは順番に握手をしたんだ。ぎゅっとね、手を握って。そして、「じゃ、おやすみなさい!」と言って帰る坂本さんの後姿がさ、なんだか急にぴょこぴょこしてさ、軽やかでさ、むっちゃ可愛いの! やだやだ、何?この突然の可愛さは!! この日一日、それまでずっと坂本さん、可愛さなんて出してなかったのよ。 これとおんなじ感じを前に味わったわ。 竹内直さんだ。 直さんも、おわかれする時に、いっきなり可愛くなっちゃって、私は胸がきゅうんとしたんだよ。 この2人の共通点はさ。まず2人ともストイックで求道的だと思うんだよ。 それから、本人の話が面白いってのとは別の次元で、この人たちはコミュニケーションを取るのが苦手だと思っているのだよ、きっと。でもすべてが終わって一人に戻ったとき、ようやくその日の自分の音楽がよかったなとか、そういった幸福感が湧き出して、それを一人で体いっぱいに受け止めて、そういった感じがなんだか溢れんばかりの可愛さとなって表出しちゃうんじゃないだろうか? 演奏中の美男子だった坂本さんとはまったく別の顔になって、どこか弾むような足取りで帰った坂本さんに、また一層惚れてしまったのだった。
|