2001年11月22日(木) |
「エヴァ」を経て。安倍晴明人気の秘密は「ココロのカベ」。 |
今日のは、ずっと考えたくて仕方がなかったネタだから嬉しい。
大人気。陰陽師安倍晴明ブームの秘密についてだ。
まあ。秘密ていったって、桜木の勝手な憶測に過ぎないんだけどナ。
で。安倍晴明人気、ていっても。岡野玲子の漫画の方なんだけどナ。
夢枕獏の方しか認めないって人。 悪かった。
あくまでも史実に残ってる晴明像のみリスペクトて人。 申し訳ない。
だって桜木は、岡野玲子の安倍晴明が好きなんだ。 だから今日は。
岡野版安倍晴明が、どうしてここまで現代人のココロを掴んだか、てことについて自習する。
二十世紀末。「エヴァ」って流行ったよナ。 とてもとても人気があった。
社会現象とまで言われたナ。
まあ単純にキャラが好き、萌え〜、て人も多かったかもしれないが。 あのストーリーの中の核の部分、つうのかな。
人との距離の取り方がわからないヤツら。ココロのカベ。ココロの守り方。
ていうのが大きなファクターだったんじゃないかと、桜木は思っている。
主人公のシンジは、人との距離の取り方、接し方がうまくない。不器用なヤツだった。 そうしてそれはそのまんま、人間関係のストレスにもがく現代人の姿でもあった。
自分に自信が持てない。好きな子がいる。だけど笑いかけて気持ち悪いと言われたらドウシヨウ。
主に「おたく層」にウケたのもそういった事情があったろう。 自信は。あるはずだ。プライドなら人一倍あるはずだ。
しかし。どうやったら愛されるのかわからない。どうやったら他人とココロを共有できるのか。
そしてどうやったら。 このガラスのハートを世間の攻撃から守ることができるのか。
で。結局のところシンジは、その問いかけへの回答はくれなかったのだが。
そこに現れたのが。
安倍晴明だったわけだ。
コミックス版の安倍晴明は、とにかく強い男だ。
式を操り。大地との絆を結ぶ。空とも呼応する。その魂は地球の核までも貫き通す。
そして何より。他人のどんな心的干渉にも耐えて自分自身の尊厳を守り抜く。
ここが強い。
晴明には敵が多いのだ。多すぎる。 しかし彼は勝つ。ココロの勝負において決して負けることがない。
ある意味、敵だらけと言っても良い京の町で。晴明は立っている。 友人の博雅とツマの(と書いてしまおう)真葛だけがココロ許せる相手だ。
それなのに晴明は飄々と立っている。
彼のココロにも深い傷があり。 けれどもそれを語ることもない。
ただ立っている。 その。大人の男の。強さ。
寸暇を惜しんで学び。かと思えば風雅を愛でる。酒を飲む。月を仰ぐ。
唯一無二ひとりの女を愛するが。 言葉多くはない。
そして魂の核には誰にも触れさせぬ深淵さを持っている。 けれども、そのハートはただ冷たく凍り付いているわけではない。
晴明の持つ強さ。モロさ。茶目っけ。寂しさ。そして大きさ。
それはこれまでに「見たこともないような」ものなのだ。
だから惹かれる。
彼が今ブームとなり人気を博している理由のひとつは。 とにかく彼が「新しいヒーロー」だからだ。
大昔からヒーローというものは強いココロのカベを持っていたが。 そのカベのあり様が「描かれる」ということは少なかった。
ヒーローは何の理由もなく何の努力もなく「強かった」。
何の葛藤もなく何の理由もなくただ、「戦っていた」。
しかし岡野版晴明には、「強さ」の理由がきちんと描かれている。
彼が「戦っているもの」の姿が、おぼろげながらも読者のココロには響いて来ている。
ココロの傷。出生の傷など。 そうしたある種のトラウマも、現代のヒーローには無くてはならないものだが。
だからといって、ただナヨナヨと泣いているわけではないのが、またひと味違うところ。
ココロに傷があっても。 周りが敵だらけでも。 理解してくれる人間が異常なまでに少なくても。
人は戦えるし。誰かを救うことができる。
安倍晴明は、そんな大切なことを教えてくれているのだから。
彼がこの混迷の世界に人気を博すのは、当たり前のことと言えるだろう。
皮肉屋で毒を吐く、というまでなら簡単だ。
そういう自分を操縦しながら、どうにか上手に世渡りしていくことも、決して不可能ではないだろう。
しかし晴明は、まだその先へ行く。
彼が見つめているのは肉体を越えた世界なのだ。
この世のしがらみではない。 この世の快楽でもない。
そこを越えていく星の人だからこそ。 安倍晴明は、これほどまでに尊ばれ愛されるのだ。
この月曜。
空いっぱいに流れる星を、おおぜいの人たちが見上げただろう。 そして涙をこぼしたのかもしれないが。
その涙は、しかし、当然の現象と言えるだろう。
誰もみな。「そこ」から来て。いつか「そこ」へと帰っていくのだ。
そして安倍晴明は、そのみちゆきの彼方に居て待っている。
とっくの昔に死んでいる彼が、しかしそこに息吹をはなって生きているように思う。
いつか行かなければならない世界の先に居て。 微動だにしないココロで微笑んでいる男だ。
そりゃ。惚れるって。 そんじょそこらの男じゃ、かなわんて。
せめて立ち居振る舞いだけでも優雅にと。心がけようか。
「一部の」日本人がもっとも優雅に。もっとも繊細に生きていた時代に。
今を生きる、このすさんだココロをしばし休ませ、思いを馳せてみようか。
今宵、笙と篳篥の音に耳を傾けながら。
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