こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月16日(月) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第29話『残務処理』




吉田サス劇【夏美】(第3部)

第29話『残務処理』



彼女が警察署を立ち去ってから
2週間が過ぎていた


依然として
彼女の足取りは掴めていない


両親は数年前に離婚しており
父親と二人だけで暮らしていることに
なっているのだが

住民票に登録されているアパートを訪れても
部屋の中は生活感がなく
数か月以上
人が出入りした形跡もない


【夏美】
そして本名は○沢○子という人間は
本当に実在しているのだろうか


私は諦められずにいた

実在していたとして
殺人の証拠がなく逮捕できない少女を

私は諦められずにいた

季節はもうじき冬になる
街並みを抜ける風は
薄手のコートでは頼りないくらい
冷たくなってきている


仕事でたまたま外出していた

大学生と主婦の事件は
明らかな行き詰まりを迎え
マスコミでも取り上げることがなくなり
捜査本部も
解散のための残務処理に入っている


当初捜査本部に動員した捜査員の
ほとんどは別の事件に回されてしまい
私もその中の一人であった


別の事件を担当し捜査をしていても
私自身明らかに新しい事件に対して身が入っておらず
消化不良のまま終わってしまった


大学生と主婦の事件
というよりあの少女のことが
忘れられずにいた



ふいに携帯電話が鳴りだした


液晶画面には私の仕事場の電話番号が表示されている

『もしもし あぁごくろうさま
 どうした?』


電話は大学生と主婦の事件で
捜査本部にまだ残っている後輩の捜査員からだった


『彼女が見つかった??』


『うん。父親とふたりでいる』

そのとき私のそばを路線バスが通り
エンジン音で後輩の声をかき消してしまった


『あ?ちょっと悪い 聞こえなかったから
 もう一回言ってくれ いまバスの音で・・・・』



『え?遺体が見つかったって誰の?』

『・・・・彼女と父親の』




管理人:吉田むらさき

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