こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月02日(月) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第15話『魔法のバット』


吉田サス劇【夏美】(第2部)第15話『魔法のバット』



桜が咲き始める3月下旬。


4月から3年生になる俺は
最後の甲子園を目指しグラウンドでバットを振っていた



そんなとき監督に声をかけられる



『悪いけどこの子に打たせてみたいからそこ空けてくれ
 ついでにバットも貸してやってくれ』

監督の横にいたのは
隣町の中学校のユニホームを着た男の子で、
丸刈りで俺より背も小さく華奢な体つきだった


監督に言われたとおり
俺はその場を明け渡し
バットを手渡すと
邪魔にならない位置まで下がり
腕を組みながら何気なしにその丸刈りのことを見ていた。



さっきまで俺に投げてくれていた同級生の木村が
そいつに向けてボールを投げる


年功序列でしかレギュラーを確保できない俺とは違い
木村は去年から2番手ピッチャーとして試合に出て
それなりの活躍をしていた。



そんな木村が放った一つ目のボールは
丸刈りがバットを振った瞬間、
聞いたこともない金属音を鳴らして
グラウンドの外まで飛んでいった・・・。



2球目、3球目、4球目と
中学生相手に
本気の目をした木村が放ったボールも
コースこそ違えど【枠の外】まで飛んでいったことには違いなく
上級生の・・・いや高校生の威厳など全く示すことが出来なかった


さっきまで俺が使っていた普通の金属バットは
どんなボールも飛ばす魔法のバットになっていた



『いや〜
 この打球が4月からうちの戦力になったら
 これ以上心強いことはないなぁ〜
 甲子園が少し近づいたんじゃないか??
 わっはっはっはぁ』


その打球に
上機嫌だったのはうちの監督と
レギュラーが確定しているメンバー。


俺を含めた
年功序列でレギュラーを確保しようとする連中にとって
この丸刈りの出現は
自分の地位を揺るがす不安要素でしかなかった。


4月。


学校のまわりに植えられた桜は
ここぞとばかりに咲き乱れている。


あどけない顔の一年生が
真新しい制服を着て登校している。


前より髪の毛の少し伸びた【あの丸刈り】が
うちの高校に入学し
正式に野球部に入部したことにより
2年間続いた俺の補欠生活は延長確定となった。



甲子園の予選が始まる前に
夏が来る前に
桜が散る前に
俺の高校野球は終わった・・・。




『ポジションはどこがいい?』
監督が聞くと丸刈りは答えた。



『基本はセンターですけど
 中学時代はたまにピッチャーもやってました』



この瞬間、
丸刈りが2番手ピッチャーも任されたため
木村の高校野球もほぼ終わった。




管理人:吉田むらさき

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