samahani
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2007年09月24日(月) アフリカ

9年前、ワシントンDCに本部がある某国際機関に勤務し始めてからずっと、夫は、中東地域の担当だった。私は行ったことはないけれど、話に聞くと、開発援助の必要な地域で仕事をするということはとても大変なことだと思った。首都のある都市で相手国の担当者と会議を持つだけでなく、現場に入っていって現地を見る必要がある。そのとき、ジープがぬかるんだ道で立ち往生して、他の人が車を降りて押しはじめても、夫だけはそのまま車に乗っている。水溜りにどんな病原菌があるかもしれず、小さな切り傷でもあれば、それが命取りになることもあるからだ。実際、夫の担当地域で、虫に刺されて亡くなった人もあり、前から走ってきた整備不良の車のタイヤが飛んできて、正面から当たって亡くなった人もいる。

そんな職場で、1年の3分の1は、現地へ出張するという環境で仕事をしてきた夫なのだが、同じ部署に10年は居られないというルールがあるらしく、移動先を探すことになった。(日本のように上から移動先を指定される訳ではない)

先日、夫がアフリカに出張に行くことになったと言って、3本の予防注射を受けてきた。明日も、もう3本打たないといけないと言う。次の日、なぜか4本も注射されて腕がパンパンだと言って夫が帰ってきた。夜になるとだんだん具合が悪くなり、のどが痛いとか、吐き気がするとか言い出し、ついに夜中になって嘔吐した。(出張のために予防接種が必要だったことはない)

いままで夫は、仕事で危険を感じたことはなかったと言う。9.11のテロ事件のあった時でさえも、夫は中東に出張中だったけれど、3日後になってやっと電話が繋がった時も、「大丈夫、心配ない。後の仕事がキャンセルになったから早く帰る」と言っただけだった。

そんな夫が、いま、随分とナーバスになっている。「アフリカって大変なところなんだな」とか「この仕事って、危険と隣り合わせなんだな」とか。「ここ数年、体調を崩したことなんてないのに、このまま出張に行けるのかな」とか。

私は「そこまでして仕事しなくちゃいけないの?」と言いたかったが、ぐっと飲み込んだ。それはきっと、夫の庇護の下でぬくぬくとプチ引きこもりしてる人の発想だ。


もう20年近くも前の話になるが、日本で働き始めたばかりの夫が、仕事がつらかったらしく「辞めたい」と漏らしたことがあった。私は、「辞めたらいいよ。私も働くし、貧乏したって親子3人何とか食べていけるよ」と言ったのだが、その言葉は予想外に夫を怒らせた。「どうして軽々しく、辞めればなんて言えるの? どうして、『がんばって』と言ってくれないの?」と。私は、つらいと言っている人に「がんばって」なんて禁句だと思っていたし、貧乏してもあなたについていくなんて、最高の愛情表現じゃないかと思う。・・・ 今ならもうとてもそんなことは言えない、あの頃は若かった(笑)。

私は言葉の裏を読むなんて、高度な技術を持ち合わせている人間じゃない。「いま、つらいけど、さとこに『がんばって』って言って欲しいんだよ」とストレートに言ってくれなきゃ分からない。私が良かれと思って言った言葉で、そこまで怒る夫に私もとても悲しかった。


そんな昔の話を唐突に思い出し、私は「そこまでして仕事しなくちゃいけないの?」と言う代わりに、「私が念じてあげる。きっと1年以内に、もっといいところ、東アジアとか南アジアでの仕事が見つかるよ」と言った。実際、仕事は、ちょうどいいタイミングで自分に合うポストに空きがあることも必要で、運と実力の両方の要素がある。

夫は「そうだね、さとこが念じてくれるなら、きっと見つかるね」と、少し笑って返した。


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