キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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『アホか。』
『なんやねん。』
『こいつ。』
Jが笑いながらそう言う。 その言葉全てが好きだ。 一時的に熱が高まっているのではなく、冷静に彼が好きだ。
Jと付き合い始めて、まだ1ヶ月と少ししか経っていないのに 何だかもう1年以上も付き合っているような気がしてしまう。
「いつから彼のことが好きなの?」 と言われたら、
「5年前から。」 と私は答えたいに違いない。 彼の言葉を初めて聴いたその瞬間から、私は彼が好きだった。 きっと。あの頃の私を、まだ私は少し覚えている。
ときどき、思う。 もしかしたら、私は「初めての恋人」という存在に酔っているのではないだろうか?と。 だから、Jじゃなくても、私を抱きしめてキスしてくれる人が現れたらそれで満足してしまうのではないか?と。 そんな愚かなことを考える。
でも冷静に考えても、やっぱり彼が好きだった。 良かった。私は彼以外に抱きしめられても、きっと胸が苦しくなったりしないし、彼以外のキスはきっと嫌なのだ。 「きっと」が多いけれど。 人間の感情なんて曖昧なものばかりだと思うから。 思い込むか思い込まないか、ただそれだけの気がする。
Jと話すと落ち着く。 私はJを5年前から知っているけれど、それは彼のほんの一部でしかなく 今でもきっと、Jをあまり知らないのかもしれないけれど。 本当の私をJはずっと見て来たと思うし、J以上に私を知っている男の人なんて居るのかな。
蓮は元気にしてるだろうか。 蓮の前で私は、どんな女の子だったんだろう。
ねぇ蓮、私は今、あの頃蓮が感じていた幸せを理解できるのかな。 君はまだ傷ついたまま、そこに居るんだろうか。
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