キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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例えば雨の降る日で。 大切な人から貰った大事なものを。 失くしてしまったから、寒い夜に探していて。
誰も僕のことを知らない。 今苦しくて寒くて死にそうな夜に息をしていることを。 本当は誰かが探してくれるのを待っているのに。
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例えば。
どうか。 今この私と手を握っているベットに横たわる病人が。 その人が欲する手に、私が代われればいいのに。
「このことは言わないでね。」
私は彼に言う。
「もし気付かれてしまったら、リエ先輩が、手を握っていたと言って。」
彼は少しせつない顔をしながら承諾し、部屋から出て行く。 私はまた病人の手を握る。
病人が回復し私はその土地を去った。 病人のところの彼はあの手の感触だけを覚えていた。 しかしそれはリエだと思い込むのだ。
私は心を濡らしたままバスに乗る。 『この手が、リエ先輩の手だったら良かったのにね。そうしたら、あなたは幸せなのに。ごめんね。今、ここにいる私が、私で、本当にごめんね。』
泣きながら言ったその言葉を、私の友人はドア越しに聞いていた。 その言葉を、病人であった彼に伝えた。
その後二人はどうなるのだろう。
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