愛より淡く
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2002年07月06日(土) 迫真の演技?

「これだ、ここ片づけてたら出てきたんだ」

と夫が、薄桃色の空のイラストがプリントされている便箋を私に見せた。

それはまぎれもなく、その昔ある人にあてた手紙の書き損じだった。

ちらっと文面を読んだ。

ーーすっかり心のバランスを崩し体調もおかしくなってしまいましたーー

ひえーー見たない、見たない、こんなもん、と、すぐにそれをクシャクシャにした。あまりの恥ずかしさに読み進める勇気がなかった。

それにしても、な、なんでこんなもんがこんなところに?しかもそんな昔に書いたものをこんな場所で夫に読まれてしまうなんて、まさかまさかまさか、あたふたあたふたあたふた。

人間、気が動転するといったい自分でどういう態度をとってよいのかわからなくなってしまうものだ。それでもなんとかしなければならない。だけど頭の中はパニック状態だった。

苦し紛れに私は言った。

「これはなんでもないねん、下書きや、手紙形式の小説書こうと思って、その下書きを書いてたんや、失敗したんやけど、捨てるの忘れててんなあ、あははははは」

なんか我ながらめっちゃバレバレのうそだと思った。せやけどしゃあないやん、ほんまのことはやっぱよう言わん。この手紙の相手だけは知られたくなかった。

夫は黙ったままでいた。

「こんなことでビビってたら、私の創作ノート見たらもっとビビルで、なにせ私は恋愛小説の下書きばっか書いているんやから」

ほんまはそんなんほとんど書いてない。やん、またしょうもないフォローしてもたがな、どないしょう。どないしょう。とさらにあせった。

とっさにそのへんにあったダンボール箱から適当にノートをひっぱり出してきて、

「ほらほらこんな感じ見て見て」

と言って夫に見せようとした。わけのわからんことを書き綴ったノートならたくさんある。

「いいわ、見たくないわ」

と夫は見ようとしなかった。


しばらくなんともいえない重苦しい空気が流れた。なんだか思いっきり見苦しい私だった。とほほ。

でも、よく考えれば、そないにあわてふためくほどのことでもなかったのかもしれない。そうだそうだそうだ。

今になって思う。あの時私はもっと毅然としているべきだったのだ、と。


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テキスト庵さん