原初

羅列 回帰



―― 連ねた意味も、持てない小鳥。
氷室火 生来
回帰

2007年04月14日(土)
いつだって最新情報。


 昔々の大昔。語られた言葉は、夜の雰囲気と相俟ってとても気味悪く、けれど神々しく見えた。
 二人なら大丈夫なんて、嘘だよ。一緒なら当然と、どうして思えるんだろう。
 穏やかな顔で始終ぶつぶつ呟く姿は塗りたくられた以外の感情を感じない。奥の方に垣間見える焦りと緊張は恐怖によるものなんだろうか、自分にだけ見えた幻覚。
 暗い部屋の中。時計の針が煩い。田舎だから街灯も少なくただ、近くにある電灯の端がカーテンの裾だけを照らしている。
 しじまの中煌いたのは鈍色の刃。冷たいのだろうと、季節柄も考える。これがもう二つばかり越したのならひんやりと心地いいのだろうけれど。
 みすぼらしくほつれだらけで、端から叩き落した埃が彼方此方の隅にたまる敷布団。もう何年洗われていないのだろうかヤニで黄色や茶色に染められた掛布団は丸められて山になっている。
 風呂嫌いの自分は、環境もそうだが何より彼女の影響を受け構築された気がする。果たして布団と同じに何年とは言い過ぎだとしても洗われず、外出もしないのだから気に掛からないのだろう脂ぎった黒髪が顔の前に垂れて不気味だった。腫れぼったい頬っぺたは未だに持ち上がったままなのが、より一層奇妙さを煽って。
 右腕の手首から肘関節までにびっしりと何かが立っていた。埋め尽くし肌色を見せないそれは赤い液体を滴り落として円く太く肥えた腕の輪郭通りに、無数の細い、針だった。刺さっていない先端には平べったい金平糖みたいなものがくっ付いている、待針だった。
 裏面は須く白、しかし規則正しくピンクか黄色か青か緑か順番通りの配色は、妙な几帳面を見せ付ける。自分は調べた事も無いので判らないけど、確か彼女はA型だった気がする。納得の整然さだ。だからこそ、彼女が魅入られたのだと悲しげに囁く、沢山の大人達の戯言が思い出された。
「二人なら、大丈夫。怖くなんて無いの。」
 裏返しに、一人では怖くて怖くてたまらないと泣き叫んでいる過日の彼女が見え隠れする。
「一緒にいるんだもの。当然でしょう?」
 望んでそうなったつもりは無く、例えば成り行きであるだとか、両者とも選べなかったとか、だけどそんな風に感じた事は一度も無い。後悔なんて出生に対して頂いてもほとほと無力で、生まれてこの方ずっと彼女は彼女のままで、人に言わせればそうでもなかったらしいけれど少なくとも、記憶やら感情が伴う頃にはコレは出来上がっていたのだから。
「だってみんなしていじめるんだもの。誰も私が頑張ってる事、判ってくれないんだもの。」
 俗世間の通例として、彼女のような人には頑張れとは言わないのが適当とされている。頑張ったねはどうなんだろうか、少なくとも彼女の意思は別として何かをしていたようには見えないのだから褒めようも無いのは仕方が無い。
「だから、一緒に、今まで通り、一緒よ。私が付いているもの、怖くなんて無いわ。」
 だからあんたが一緒だから怖いんだって。
 思わずテンポよく、思いついた台詞は言えなかった。圧倒されたからではない。これ等は何ら変わらぬ日常茶飯事、今更ツッコむ気力も無いだけだ。
 そうして箪笥を背にした自分に向かって、笑んだまま彼女は、病んだまま銀色の包丁をつきたてた。


と、夢を見てから思う。これはちょっと間違っている。何故なら寝転がる首の横に突き刺さるのが本筋でありそのままブラックアウトは本望ではない。第一、これは二段ベッドの上で寝ている自分の下の人の話だったのだから。


原初 羅列