見つめる日々

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2010年09月11日(土) 
窓を開け放したまま眠ったら、あっちこっちを蚊に刺された。太腿の付け根、足の甲、手の指先、腕などなど、まだこんなに強烈な蚊がいるのかと、呆気に取られるほど。起き上がり、ムヒをとにかく塗ってみる。
ベランダへ出ると、うっすらとした雲が空に広がっているが、その向こうには白み始めた空が見える。天気予報どおり、今日は暑くなるのだな、と空を見上げながら思う。せっかくここまで涼しくなったのに、と思いながらふと耳を澄ます。秋の虫たちの声が響いている。あぁ、蝉と入れ替わったのだ。私はしみじみ、その音に耳を傾ける。
しゃがみこみ、ラヴェンダーとーデージーのプランターの脇にしゃがみこむ。デージーはまだいくらか咲いており。鮮やかな黄色い花びらが、ぴんと張っている。でもこれも、じきに終わりになるのかと思うと、ちょっと切ない。
弱々しいパスカリ。それでも新葉を懸命に広げている。また新しく、茎と葉との間に新芽の気配を漂わせており。早く伸びて来ておくれ、と心の中、声を掛ける。
桃色の、ぼんぼりのような花を咲かせる樹。みっつ目の蕾も順調に膨らんできており。一番最初に萌え出た蕾は、僅かに桃色の花弁を見せるようになった。もうじき咲いてくれるんだと思うと嬉しい。
友人から貰った枝を挿したもの。二本とも今、紅い新芽を湛えている。そして一本は蕾を一番先端に、ちょこねんと抱えており。さて、何色が咲くんだろう。楽しみで楽しみでならない。
横に広がって伸びているパスカリ。昨日、花を切り花にした。花びらの色はクリーム色がかっているけれど、その香りは確かにパスカリで。涼しげな、ふんわりした香り。そして他の枝からも、新芽がにょっと顔を出している。
ミミエデンは、ひとつの蕾が白い花弁を見せており。もうひとつはまだ膨らんでいる最中。一通り新芽を芽吹かせたらしく、今は紅色から緑色へ葉の色を変えている最中といった具合。
ベビーロマンティカ。むっつもの蕾をつけ。そのうちのよっつはもう、明るい煉瓦色の花弁を下から見せている。ぷっくらむちむちに膨らんだ丸い蕾。この蕾の形も、ベビーロマンティカの特徴かもしれない。
マリリン・モンローは、ふたつの蕾を抱えてしかと立っている。そして、体のあっちこっちから赤い新芽を芽吹かせており。ひとつの場所から、勢いよく吹きだして来るその芽の束。まさに束、といった具合。
ホワイトクリスマスも、二箇所から芽を吹き出させて。縁だけ赤い新芽たち。天へ天へと伸びてゆく。
挿し木だけを集めたプランターの中。今、一本が頑張って、伸びてきている。その先端に小さな徴。多分これは蕾。さぁこの枝は何の枝だったっけ。思い出せない。でも、咲いてくれれば分かるだろう。君が一体誰なのか。今からそれが楽しみだ。
アメリカンブルーは、今朝は四つの花をつけてくれた。東から伸びてくる陽光に向かって、さやさやと揺れる青い花。この花を見つめていると、あぁ今日も頑張ろう、という気持ちになれる。
部屋に戻り、お湯を沸かす。空になったポットに、ふくぎ茶をいっぱい、濃い目に作る。洗い場がきれいなのを見て、そういえば昨日帰り、友人が洗い物をしていってくれたことを思い出す。しなくていいよというのに、このくらいさせてよと彼女が洗ってくれた。朝、流し場がきれいなのは、なんだか嬉しい。
カップを持って椅子に座る。ふと窓の外を見ると、ふわぁっと東から広がってきた陽光に空が照らし出され、それまでうっすらと紺色を残していた空が、瞬く間に水色に変化していくところ。しばしその様に見惚れてしまう。
煙草に火をつけ、ついでに杉の香りの線香にも。PCを立ち上げ、メールのチェックをしながら、音楽を流す。今朝一番に流れてきたのは、マイケル・ジャクソンのWe are the world。
昨日は、電話番の日だった。十時半頃、Yさんもやってきて、二人であれこれ話しながら電話を待つ。
Yさんが来週、ここに来る前に、Tセンターへチラシを持って行ってくれることになった。今、遠く離れた西の町では、もう一人のスタッフ、Aが、リンクの手続きを取ったりチラシを持っていったりしてくれているはず。
Yさんが、私、実は子供が苦手なの、と笑いながら話し出す。なのに、お嬢は、そんな私に構わず慕ってきてくれて、だから気づいたら、もう何年も前から知っている間柄のような、そんな気がしてきてしまうから不思議よねぇ、と。私はそれを聴いてつい笑ってしまう。うちのお嬢は確かに、相手構わず、くいっと相手の内側へ入り込んでいくようなところがある。それは或る意味、不思議な能力だなぁと思っている。私にはない能力だ。
話のついでに、本棚からあれこれ本を引っ張り出す。これがね、たまらないんだよ、と、私がいわむらかずおのかんがえるカエルシリーズをYさんに紹介すると、彼女は笑ったり考え込んだりしながら頁を一枚一枚捲っていく。これ、実はとっても深い本だね。でしょでしょ? オトナが読むべき絵本だよね。うん、そう思う。そしてその隣に並べていたエドワード・ゴーリーの絵本も登場。Yさんは、こっちはこっちで、たまらないものがある、と言いながら、じっと見入っている。うちには数冊エドワード・ゴーリーの絵本があるのだが、その絵本を全部、二度三度、繰り返し見つめている。これさぁ、あまりに真実を突いていて、呆然としてしまう本だね。あ、Yさん、そう思う? 呆気なく、たった一行ですぱんと書かれてしまっているから、人によったら、これって残酷って取る人もいるのかもしれないけど、でも、これ、どうしようもなく真実だらけだよ。私、この人の絵本、見つけたら買おうかなぁ。
その日電話は静かで。私たちはあれこれ話しながら、時間を過ごす。これからのことについてもいくらか話していると、突然彼女が言い出す。それにしても、この家って過ごしやすいね。はい? なんかいくらでもここで過ごしていたくなる。こんなにモノが溢れるごちゃごちゃした家なのに? うん。この前来た時、Sさんが突然寝てしまったりしてた、あの気持ち、分かる気がする。あぁ、彼女は、普段眠れないらしいんだけど、うちに来ると、ぐーかーよく眠るんだわ。ははははは。いやぁそれ、分かるよ。そういうのが赦されるような雰囲気が、この家にあるんだよ。そうなの? うん。
ちょうど夕日が堕ちて来て、空の色がくわんと変わる瞬間で。私たちは開け放した窓からじっと空に見入る。私、まだ結婚したての頃、電気をつけるのさえ罪悪感で、ずっと真っ暗な部屋の中、じっとしていた頃があった。そうなの? うん。今もまだ、そういうところ、残ってる。もう結婚して十年以上が経つのにね。でも、何となく分かる気がする。もったいない、と違うんだよね、罪悪感、なんだよね。そうそう。私にもし娘がいなかったら、私も机の電気スタンド以外、点けないで、暗い中で過ごしていたと思うよ。うんうん、そういう感じ。
なんかほんと、この部屋、心地いい。Yさんが笑う。いずれ私もSさんみたいにここでいきなり寝るーとか言い出すかもしんない。どうぞどうぞ、寝てください。はははははは。私たちは大きな声で笑い合う。そしてYさんが言う。私、誰かの家で、こんなにくつろいで過ごすのって、初めてかもしれないなぁ。私はそんな彼女の言葉を、黙って聴いている。

朝の仕事に取り掛かりながら、同時に今日やることのリストも作っていく。作りながらひとつ溜息。私って、お金にならないことはいくらでも思いつくのに、お金に結びつくことって全然思いつかない、これも一種の才能かしら、と首を傾げる。
そのうち、娘が起きてくる。おはようございます。おはよう。ほら、早く支度しないと、時間なくなるよ。うーん、でもミルク…。ミルクはいいけど、ほら、まず掃除! はいはーい。
娘が机の部屋の方を掃除している間、私は台所の掃除を済ます。娘は背中にミルクを乗せながら、コロコロを動かして、床に落ちた髪の毛を集めている。私はゴミ袋にそれらを一式まとめて入れて結ぶ。今日はゴミの日。
ママ。何? ちょっと。そう言って娘が抱きついてくる。最近、こういうのが多い。突如抱きついてきて、しばらく彼女はじっとしている。私も彼女が飽きるまでじっとしている。私が小学五年生の頃、母に抱きつくなんてあっただろうか。いや、皆無だった。むしろもう、母や父を避けていた。それに比べると、娘は、なんというかこう、甘えん坊さんなんだろうか。まぁ、でも、あと一年もしたら、「お母さんなんて最低!」とか何とか言いながら反抗する時期に入るのだろうから、それまではこれで、いいのかもしれない。
ほら、じゃぁ出かけるよっ。はーい。重たい荷物を二人とも背負って、玄関を出る。あ、ママ、ほら、カナブンだよっ! 踏んで踏んで! やだよっ。じゃ、ママ踏む。くしゃり。乾いた音が響く。ママぁ、よく踏めるね。気持ち悪くないの? 気持ち悪いけど、この虫はママの大事な薔薇の根を食べちゃうから、嫌いなの。赦せんって感じ。ふーん。まぁいいけどさぁ。今頃サンダルの裏、汚れてるよ。それを言わないで。ははははは。
じゃぁね、それじゃぁね。マンションを出たところで別れる。娘はバス停へ、私は自転車へ。別れ難いのか、再び戻ってきた娘が、私の腰に手を回す。しばらくそうやって抱きついていて、満足したのか、じゃぁね!と言ってバス停へ。彼女がバス停に辿り着いたのを確かめて、私は手を振って、自転車を走らせ始める。
坂道を下り、信号を渡って公園へ。私は公園の池の端で耳を澄ます。蝉の声は一切止んだ。もう聴こえない。その代わりに、秋の虫たちの声が響いてくる。あぁ、季節は変わったんだ。そう思った。
公園を出て大通りを渡り、高架下を潜って埋立地へ。銀杏並木の影の中で、信号が変わるのを待つ。見上げる銀杏並木の、数本が、緑色から黄緑色へ、早々と色を変えているのに気づく。あぁ、ここでも季節が変わってゆくのだな、と私はしばしその黄緑色の葉を見つめる。
信号が青に変わった。私は勢いよく走り出す。左に折れて真っ直ぐ走る。今朝は土曜日、誰もいない。みんな土曜日は仕事が休みなんだな、そう思いながら走る。信号は運良く次々青になってくれて。私は止まることなくひたすら走る。
駐輪場でおはようございますと声を掛けると、おじさんが返事をしてくれる。秋になってきたねぇ、そうですねぇ。そんなことを話しながら、駐輪のシールを貼ってもらい、定位置に自転車を停める。
ふと見ると娘からメール。頑張ってくるよ!と書いてある。私は、応援してるよ!と返事を打つ。
さぁ、今日も一日が始まる。


遠藤みちる HOMEMAIL

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