見つめる日々

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2010年09月07日(火) 
おなかにどん、っと重たいものが乗っかって、その痛みで起き上がる。娘の足だ。ずいぶん重くなったんだなぁと感心する。まだ生まれて数日目、その手足のあまりの小ささに感動して、思わず撮った写真がある。その写真が我が家の壁にまだ貼ってある。あの、私の手の中にすっぽり納まるほどの大きさだった足が。重さなんてこれっぽっちも感じないほど軽かった足が。今ではどうだ、蹴られれば痛い、乗っかられても痛い重いの足になった。私はよっこいしょとその足をどかして起き上がる。
窓を開けると、風がびゅうびゅう鳴っている。街路樹の緑はびゅんびゅん翻っている。空を見上げると、雲もぐいぐい流れている。あぁ、台風が近づいているんだったっけ、なんて昨日見たテレビのことを思い出す。まさか台風の風がここまで届いているとは思わないが、それにしたって今朝の風は強い。
アメリカンブルーが、ぐらぐら揺れながら咲いている。ひとつ、ふたつ…五つの花が咲いている。昨日ひとつきりだったから、今朝は奮発してくれたんだろうか。何だか嬉しくて、ありがとうと言ってみる。
黄色いデージーの花も風に揺れている。プランターからはみ出た部分がくわんくわんと揺れている。這うようにして伸びているラヴェンダーの枝葉と絡まりあっているのは知っているのだが、もうデージーも終わりの季節、絡まり合ったものを解こうとすれば、デージーが切れる。だからそのままにしておくことにする。
吸血虫にやられたパスカリ。新芽を徐々に徐々に広げ、今、弱々しいながらも何枚かの新葉が開いている。同じパスカリでも、横に広がっているものとこちらの葉とは、なんだか強度が全然違うように見える。こちらの葉の方がずっと薄いように思えるのだが気のせいだろうか。
桃色の、ぼんぼりのような花を咲かせる樹。蕾がふたつになった。ぽろりんと垂れ下がるようになったそのふたつの蕾。まだまだ緑色に包まれて、花びらの色は見えない。
友人から頂いたものを挿し木したそれ。花が咲いた方は沈黙をいまだに続けているが、もう一方、何色の花が咲くのか分からない方は、ぐいぐいと新芽を伸ばしている。紅い紅い新芽。
横に広がって伸びているパスカリの、膨らんだ蕾。今私の薬指の先ほどはあるだろうか。だいぶ大きくなってきた。枯れたと思っていた枝から出てきた新芽も元気だ。
ミミエデン、蕾はふたつ。蕾の周辺にまた新しい葉が出てきた。紅色の葉。さわさわと風に揺れている。吸血虫にやられて褐色になった古い葉がぽろり、零れ落ちる。
ベビーロマンティカはこの暑さにもめげずにぐいぐいあちこちから新芽を出しており。蕾のふたつから、下の花弁の色が零れている。明るい煉瓦色。こちらも吸血虫にやられた葉はあるが、もう殆ど下から生えて来た新しい葉と入れ替わろうとしている。
マリリン・モンロー。膨らみ始めたひとつの蕾と、まだまだ小さな、小さな欠片のような蕾。風にも負けず、ぐいっと首を上げて空を見上げている。体のあちこちから、紅い縁取りのある新芽を吹き出させ。こちらも元気。
ホワイトクリスマスの、白緑色の新芽。昨日より倍以上伸びてきた。まだその二箇所からだけだが、きっとしばらく待てば、他のところからも芽が伸びてくるだろう。それを期待している。
部屋に戻り、お湯を沸かす。ポットいっぱい、濃い目にふくぎ茶を作る。作りながら、さっき読んだ記事を思い出す。女性専用車両に、それを抗議する男性客数人が乱入したという記事。もしその場に自分がいたらと思うと怖い。私にとって朝のあの女性専用車両は唯一の救いの場所のようなものだ。そこに男性がわらわらと乱入してきたら。多分パニックを起こして倒れていたに違いない。想像しただけで背筋が寒くなる。
男性専用車両も作ればいい、と思う。男性にも被害者はいるのだし、こんなふうになるくらいなら、男性専用車両を作ってくれたらと思う。どうして作らないんだろう。私には不思議だ。
カップを持って机に座る。煙草に火をつけ、ついでに杉の香りの線香にも。ふわりと杉の香りが漂ってくるのを確かめながら、煙草を吸う。
昨夜は酷く疲れて、娘が風呂から上がるのを確かめて、早々に横にならせてもらった。ママ、こんな早くから寝たら、また真夜中目が覚めるよ。そう言われたが、確かにそうなのだが、もうたまらなかった。体がしんどかった。
確かに真夜中、目が覚めて、ごろんごろんと寝返りを打つこと数時間。それでも、横になったのは正解だったと思う。おかげで今朝は爽快だ。
さぁ、朝の仕事に取り掛かろう。

ねぇ。何? ママさ、仕事を増やそうと思ってるんだけど。なんで? なんでって、そりゃ、貧乏だからだよ。わはははは。これ以上貧乏になると大変だから、仕事ちょっと増やそうと思ってるんだけど、いい? いいけど、ママ、大丈夫なの? 何が? ママ、最近疲れてばっかりだよ。うーん、これはこの夏の異常な暑さ疲れとでもいうか、まぁそんなもんだよ。でさ、そうなると、ママの留守の時間が増えるってことなんだけど。いい? やだっていってもしょうがないでしょ。そうだよねぇ、ごめんなー。いいけどさ。お弁当作るのとか、忘れないでくれればいいよ。うん、ちゃんとやるよ。でもその代わり…。その代わり? あなたにもお手伝いして欲しいんだよね。えーーー。えーーーって、あなたもう、五年生でしょ、多少は分担しようよ。って、何やるの? まず、ハムスターの家の周りの掃き掃除。毎朝やること。それからママが洗濯を終えたものの、自分の分はちゃんと自分で畳んでしまうこと。それから、寝床をきちんときれいに整えること。それとさ、最近、玄関の靴、ちゃんと揃ってないよ。あー、はい、分かりました分かりました。やるよ。やらないと、お小遣いなしだからね。えーーー。えーーーじゃないって、ほんとだよ。わかったよ、やるよ。やってちょうだい。頼むよ。
ねぇママ、宝くじでも買おうよ。なんで? 宝くじ買ったらさ、もしかしたら1億円とか当たるかもしれないじゃん。そんなの夢のまた夢だよ。1億円当たったら、もうママ、働かなくていいかもしんないよ。無理無理! そんなの無理だから、考えるだけ無駄だよ。えー、そうかなぁ。いい考えだと思うんだけどなぁ。じゃ、あなたが買いなさい。子供が買っちゃだめじゃん。あ、そうか。じゃ、大人になるまで我慢しなさい。で、自分のお金で買って1億円当てればいいじゃん。えー、それじゃぁ遅いよ。ママは宝くじとか買う気はないからねー。あーあ! ははは。

今月の25日は娘の運動会だ。じじばばは今年、この暑さでは体調を崩すからと、運動会に来るのは控えると言っていた。となると、私と娘ふたりきり。ちょっと寂しいな、と思う。でもまぁ、母子家庭なんて、そんなもんか。割り切っていかないと。
今年は点数係になったんだ、と娘が言っていた。ちゃんと写真撮ってよと言っていたが、点数を変えてるところを写真に撮ってということなんだろうか。そんなところ、撮ってもしょうがない気がしないでもないんだけども。荷物番をしてくれる人がいるわけでもないから、リュックに荷物を全部入れてその都度移動しないといけない。仕方ない、か。
北に住む友人から手紙が届く。今入院中の友人。どうしているだろうと心配していたが。それなりに元気にやっているようだ。ただ、気持ちがぐらぐらして不安定だ、と書いてある。早く退院できるといいのだけれども。

じゃぁね、それじゃぁね。手を振って別れる。
階段を駆け下り、まずゴミを出してから自転車に跨る。坂道を下り、信号を渡って公園へ。池の端に立ち、見上げる空。半分が雲に覆われ、半分が水色。その雲もぐいぐい形を変えてゆく。南東から伸びてくる陽射しは強いけれど、何故だろう、この風のせいだろうか、いつものような暑さは感じられない。
池の周りには桜の樹がたくさん植わっており。その樹にくっついて、懸命に啼く蝉たち。私はぐるり、周囲を見回す。一ヶ月前、ここに立つと、隙間なく、耳がぐわんぐわんするほど蝉の声が降り注いできたものだった。今は。蝉の声は切なく、風に消えてゆく。
公園を出て大通りを渡り、高架下を潜って埋立地へ。銀杏並木の影で、信号が変わるのを待つ。その時蜻蛉がさっと、私の目の前を横切ってゆく。
今日、夕方から、「声を聴かせて」の電話番だ。その前に、やることはすべてやっておかないと。私は信号が青に変わったのを見て走り出す。左に折れて、そこからしばし真っ直ぐ走る。すれ違う人、人、人。ここにN社とF社が越してきてから、本当に人が増えた。これからさらにビルが建ち、そのたび人は増えるんだろう。
駐輪場、おはようございますと声を掛けると、おじさんが出てきてくれる。駐輪のオレンジ色の札を自転車にくっつけてくれて、八十円。それで一日分。よろしくお願いします、と挨拶して、自転車を停める。
さぁ、今日も一日が始まる。私は歩道橋に向かって歩き出す。


遠藤みちる HOMEMAIL

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