−最後の切り札−
INDEX − past
まだ今年になって日も浅い。 新年早々、私はあるものと引き換えにあるものを失った。失ったと言うよりは、自分で葬った。が正しい。 握っていたそれはとても大切なものだった。捨ててしまう選択は辛いものだったが、もう見えない所へ。 その投げ捨てた腕の勢いで、新しい何か・・・おそらく強く美しいものを手繰り寄せることを選んだ。 扉のないバスに乗っている。 最後部に座って車内を見ている。扉がなく私は降りられはしないのに、同乗者は目まぐるしく変わり、 外の景色も勢いよく止まることなく流れて去っていく。時に窓に肘をつき、溜息混じりにそれを見ている。 心を奪われ暖かい涙が浮かぶような場所さえ、走るべき道の脇の小石でしかないようで、 もう少し見ていたい、もう一度見てみたい。と思っても、戻ることも止まることもできないようだ。 バスを運転しているのは他の誰でもない。 ひょっとしたらハンドルを握りアクセルを踏み、ブレーキを踏まずにいるのは私自身かもしれない。 そう降りられないこのバスもいつか止まる日が来るだろう。その時にはあの墓地に・・・ 切り札と引き換えに、暗闇の中でひどく残酷に葬ったものへと、花を手向けに。
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