井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2018年03月25日(日) オンリー・ザ・B、50回目のファーストK(モリーズ・G、焼肉D、海を駆ける、ホース・S、超級大国民、最初で最後のK、オンネリ、ガンダム)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『オンリー・ザ・ブレイブ』“Only the Brave”
2013年6月、アリゾナ州プレスコットで発生した山林火災に
立ち向った消防士たちの活動を描く実話に基づいた人間ドラ
マ。僕的には、現時点までの今年のベスト1と思える作品。
物語の始まりは2007年。プレスコットの地元消防に所属する
エリック・マーシュは山林火災に立ち向かっていたが、彼の
所属は「ホットショット」と呼ばれる先端の部隊ではなく、
災害時には周辺処理などに廻されていた。
しかし彼の知識と手腕は並ではなく、それを認めた市長から
「ホットショット」を目指す資格試験への道が開かれる。そ
こでマーシュは個人昇格した隊員の穴を埋める新人を募集す
るが、やってきたのはドラッグ漬けのブレンダンだった。
ブレンダンは恋人が妊娠し、家庭を持つための定職を求めて
来たのだが、山林火災の消防は建物火災の数倍と言われる危
険な仕事だった。そしてマーシュのチームは、全米初となる
地方自治体が持つ「ホットショット」となるが…。
映画の前半ではブレンダンの訓練に併せて山林火災の消防の
実務が紹介され、溝を掘って迎え火を放つ消火のやり方など
が説明される。これは以前から情報として聞いてはいたが、
本作では実際の動きなどが判り易く描かれていた。
そして後半では、その知識などがフル活用される消火作業が
描かれて行くものだ。

出演は、2013年2月紹介『L.A.ギャングストーリー』などの
ジョッシュ・ブローリンと、2017年5月紹介『ダイバージェ
ント』などのマイルズ・テラー。他に2012年4月紹介『バト
ルシップ』などのテイラー・キッチュ、2013年7月紹介『ワ
ールド・ウォーZ』などのジェームズ・バッジ・デール。
さらにジェフ・ブリッジス、ジェニファー・コネリーらが脇
を固めている。
監督は、2010年12月紹介『トロン:レガシー』や2013年4月
紹介『オブリビオン』などのジョセフ・コジンスキー。脚本
は2002年『ブラックホーク・ダウン』のケン・ノーランと、
2009年3月紹介『ザ・バンク 堕ちた巨像』などのエリック
・ウォーレン・シンガーが担当している。
ヴェトナム戦争時代に兵役忌避者に対する交換の任務が山林
火災の消防隊で、それは戦争に行くより危険な任務だと聞い
たことがある。本作を観ていても、あっという間に火に取り
囲まれる恐ろしさは、並大抵のものではなさそうだ。
「建物火災の数倍危険」というのは本作中の台詞だが、消防
士の映画で思い浮ぶのは、その建物火災を描いた1991年公開
『バックドラフト』だろう。しかしその作品での火災が特殊
効果で表現されたのに対して本作は視覚効果(VFX)。
それは山を覆う火災だからCGIで表現するしかないのは当
然だが、その迫力が半端ない。この辺は映画以前にMTVや
コマーシャルフィルムで、ヴィジュアリストとしても名高い
コジンスキー監督の手腕と言えそうだ。
その一方で、実は人間ドラマが要素となる作品では多少の不
安があったのだが、本作ではその点でも見ごたえがあった。
これには脚本の良さもあったのかもしれないが、ブローリン
らの演技も光る作品になっている。
実は試写を観た会場はスクリーンの位置が高く、普段は後ろ
寄りの席で観るようにしていたが、本作の時は席が埋まって
いて前目で観た。しかし本作に関しては、炎が襲い掛かって
くる感覚がより強くなり、前目が正解だった気がする。
恐ろしい出来事の実話に基づく作品ではあるが、本作の映像
では主人公たちの恐怖などの感情がストレートに伝わってく
る感じで、本当に素晴らしい作品だと思う。

公開は6月22日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『50回目のファーストキス』
2017年6月25日題名紹介『銀魂』が同年の実写邦画で第1位
の興行成績を記録した福田雄一脚本・監督による、監督初の
ラヴコメ(?)と称する作品。
同監督では2017年10月紹介『斉木楠雄のΨ難』もあったが、
いずれもSFの範疇に入ると思われるこれら作品では、SF
映画ファンとしては何となく歯痒いというか不満な点が多く
残った。
それに対して本作はSFではない。しかしある意味ファンタ
スティックとも取れる設定で、そのファンタスティックな部
分と、ラヴストーリーとコメディが結構バランス良く描かれ
ている感じがした。
主人公はハワイで現地のガイドをしている男性。彼は一夜の
恋人として日本人女性を存分に楽しませるプレイボーイでも
あったが、それには彼なりの理由もあった。天文学を研究す
る彼は米国本土の研究所に勤めるのが夢だったのだ。
ところがそんな彼が、案内先の下見でやって来た街はずれの
カフェで、端っこのテーブルに1人で座る女性を見染める。
そして巧みに言いよって会話が弾み、明日も会おうと約束す
るのだが…。
翌日再会した彼女は、初対面のように彼に対してきた。

出演は山田孝之、長澤まさみ。他にムロツヨシ、佐藤二朗、
勝矢、太賀、山崎紘菜、大和田伸也らが脇を固めている。
本作は2005年5月紹介、アダム・サンドラー、ドリュー・バ
リモア共演による同じ邦題の作品を、舞台はオリジナルと同
じハワイのままに、キャラクターだけを日本人に置き換えて
リメイクしたものだ。
ただし細かい設定はいろいろ変更されていて、中でも山田が
演じる主人公の本来の仕事を天文学者としたのは、ベストと
言えるものになっている。特に星空を背景にする映像は素晴
らしく、これにはハリウッド版も脱帽だろう。
さらにムロツヨシ、佐藤、太賀らのキャラクターも立ってい
て、特にムロツヨシと佐藤は『斉木楠雄』の時は空回り感が
強かったが、本作では山田が演じる部分も含めたナンセンス
なギャグがしっくり収まっていたものだ。
正直には、この山田の力量が映画全体のバランスやギャグの
メリハリなどをしっかりと保持しているようにも感じた。そ
れはオリジナルのサンドラ―以上に、本作の要と言ってよい
存在感に溢れていた。
短期記憶障害というのはかなり厳しい病状で、オリジナルを
観た時には中々その点も理解し難かったが。本作では途中で
描かれる他の患者のことなど、結末までに見事にそれを描き
切っている感じもした。
福田監督に関しては、初期の2009年8月紹介『大洗にも星は
ふるなり』は気に入ったが、本作はその頃の感触にも戻った
感じで、山田、ムロツヨシ、佐藤とのコンビネーションにも
嬉しくなったものだ。

公開は6月1日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショーとなる。

この週は他に
『モリーズ・ゲーム』“Molly's Game”
(モーグルのオリンピック代表候補だった女性が怪我で道を
断念。ところが大学進学までを気儘に過ごそうとやって来た
ロサンゼルスで、彼女はセレブが集う地下カジノの経営に手
を染める。それ自体は違法ではなかったが…。10年後、彼女
はFBIに逮捕される。実在女性の回想録に基づき、2010年
10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などのアーロン・ソ
ーキンが脚色、自らの手で監督した。主演は2014年11月紹介
『インターステラー』などのジェシカ・チャスティン。他に
イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、マイケル・セラら
が脇を固めている。実際の顧客にはトビー・マクガイア、レ
オナルド・ディカプリオらもいたと言われ、映画のモデルを
考えるのも面白い。それにしても前々回題名紹介の『アイ,
トーニャ』と言い、女性アスリートも大変だ。公開は5月よ
り、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショー。)

『焼肉ドラゴン』
(2004年9月紹介『血と骨』などの脚本でも知られる劇作家
鄭義信が2008年に日韓両国で発表した演劇作品を、自らの初
監督で映画化した作品。1970年の大阪万博を背景に、再開発
によって失われて行く大阪の韓国人コミュニティーを描く。
登場するのは伊丹空港近くのバラック街でホルモン屋を営む
一家。父親は戦前の徴用で来日し、そのまま在日となった。
それは棄民であったとするのが監督のスタンスのようだ。そ
れでも懸命に生きる人々の姿が描かれる。出演は2010年10月
紹介『黒く濁る村』などのキム・サンホと、2009年8月紹介
『母なる証明』などのイ・ジョンウンが両親を演じ、3人の
娘たちに真木よう子、井上真央、桜庭ななみが扮する。50年
近くも前の在日の話は僕らには判り難いが、知識を総動員し
てでも観る必要のある作品だ。公開は6月22日より、東京は
TOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショー。)

『海を駆ける』
(2010年11月2日付「東京国際映画祭」で紹介『歓待』や、
2015年10月紹介『さようなら』などの深田晃司監督が、自身
のオリジナル脚本の主演にディーン・フジオカを招きオール
現地ロケで描いたファンタシー要素の強い作品。舞台はイン
ドネシア、スマトラ島北部のバンダ・アチェ。2004年に発生
した震災と大津波で破壊された土地で、復興事業に従事する
母親とその息子。そこに海岸で倒れていた日本人と思しき男
が現れたことから、息子の女友達なども巻き込んだファンタ
スティックな出来事が巻き起こる。共演は鶴田真由、太賀、
2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』などの阿部純子。男は
いろいろミラクルな行動をし、そこに周囲の人が巻き込まれ
て行く展開だが、結局男の正体は何? それでも話は成立し
ているから問題はないのだが…。公開は5月26日より、東京
はテアトル新宿、有楽町スバル座他で全国ロードショウ。)

『ホース・ソルジャー』“12 Strong”
(9・11の同時多発テロ事件、その1ヶ月後にアフガニスタ
ンに赴き、テロ集団の本拠地に対して最初の勝利を挙げたと
される12人の特殊部隊の活動を描いた作品。しかし戦略上の
観点から機密とされた作戦がついに情報解禁となり、ヒット
メイカー、ジェリー・ブラッカイマー製作で映画化された。
主人公は実戦経験のない大尉。しかし「全員がゼロからスタ
ート」と主張した彼の部隊が第1陣に選ばれる。ところが現
地の反タリバン勢力は3つの軍閥に分れて競い合っており、
彼にはその外交交渉も任されることになる。そんな中で雪に
閉ざされるまで3週間の猶予しかない任務が開始される。出
演はクリス・ヘムズワース。他にマイクル・シャノン、マイ
クル・ペーニャらが脇を固めている。監督は報道カメラマン
として受賞歴を持つニコライ・フルシーのデビュー作。公開
は5月4日より、全国ロードショウ。)

『スーパーシチズン 超級大国民』“超級大國民”
(1983年『坊やの人形』の一篇で台湾ニューシネマの牽引者
の一人とされたワン・レン監督による1995年の作品。同年の
東京国際映画祭・コンペティション部門で上映されたが、そ
の後の日本では一般公開のなかった作品が、特集上映「台湾
巨匠傑作選2018」で劇場初公開される。1950年代、戒厳令と
白色テロ時代の台湾で、読書会に参加しただけで逮捕された
若者が取り調べ中に仲間の名前を告げたことで減刑される。
しかし名前を告げられた仲間は死刑となり、自らの刑期を終
えた主人公は人目を避け続けるが…。30余年を経て彼は贖罪
の旅を始める。それは高度成長期の台湾を見詰め直す旅とも
なる。回想シーンは日本支配から脱却した直後で、主人公ら
の台詞にも日本語や日本文化の残滓が頻出する。その辺が発
表当時は懸念されたのかな。公開は4月28日から、東京は新
宿K's cinemaで、特集の全28作品と共に上映される。)

『最初で最後のキス』“Un bacio”
(2014年『はじまりは5つ星ホテルから』などの脚本家イバ
ン・コトロネーオが、アメリカで起きた実際の事件に触発さ
れて執筆したという小説から、自ら共同脚本も手掛けて監督
した作品。映画の舞台はイタリア北部ウーディネの高校。理
解ある里親に引き取られてトリノから引っ越してきた主人公
は、個性的なファッションで周囲から浮いた存在になってし
まうが、同様な境遇の男女2人と親しくなる。しかし自分ら
を苛める周囲に対して復讐を試みた時、彼らの運命が大きく
動き始め、残酷で哀しみに満ちた青春ドラマが展開される。
結末は悲劇的なものになっているが、さらにそこに加わる監
督の想いが哀しさを倍加させる。出演はいずれも新人のリマ
ウ・グリッロ・リッツベルガー、ヴァレンティーナ・ロマー
ニとレオナルド・パッザッリ。公開は6月2日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『オンネリとアンネリのおうち』“Onneli ja Anneli”
(『ムーミン』は言うに及ばず、2005年7月紹介『ヘイフラ
ワーとキルトシュー』など児童文学の名作の多い北欧から、
また一つ作品が紹介された。原作は1960年代にフィンランド
で発表されたものだそうで、主人公は偶然(?)拾ったお金と
優しい警官のお蔭でバラ通りの一軒家を購入した2人の幼い
女の子。両隣には気難しい女性と、魔女かも知れない姉妹が
住んでいて、そんなお家で家族と離れた2人だけの生活が始
まるが…。子供の夢のような設定の中で、泥棒騒ぎなど様々
な出来事が起きて行く。出演は2014年の本作の後、15、17年
の作品にも主演のアーヴァ・メリカントとリリャ・レフト。
監督も全作を手掛けるサーラ・カンテル。ナンセンスな部分
もあるが全体はしっかりとした展開で、愛らしい作品になっ
ている。公開は6月9日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA
他で全国順次ロードショウ。)

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』
(2017年8月6日題名紹介『THE ORIGIN』シリーズの続編。
10月15日題名紹介の作品とは別系統のもので、本来的には本
作がメインストリームの物語のようだ。そして本作を以って
このシリーズは完結となる。ここからの新たな展開が生まれ
るかは、本作の結果次第だそうだ。それにしても作品の内容
は、激しい宇宙戦闘シーンの連続で、これが戦争マニアには
堪らないのだろうなあと思わせる。ただ戦略的な面ではレー
ダーも効かない宇宙域が戦場のようなのだが、その辺の設定
が良く判らない。特に目視は出来るがレーダーでは捕捉でき
ないというのは一体どのような状況なのか…。そういった科
学考証的なものを、もう少しはっきりとさせて欲しかったか
な? まあそんなことは気にしない観客が相手なのかもしれ
ないが…。公開は5月6日より、東京は新宿ピカデリー他、
全国35館で4週間限定ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年03月18日(日) プリキュア・SS(フロリダ・P、ラジオ・K、家に帰ると、ガザ、女と男の、天命の、猫は抱、枝葉の、ビッグH、カトマンズ、フジコ・H)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『映画プリキュア・スーパースターズ』
2017年は3月19日と10月22日に題名紹介した『映画プリキュ
ア』シリーズの最新作。2005年にスタートし、2009年からは
毎年2作ずつ製作されているシリーズの第24作目の作品だ。
因に秋公開は現ヒロインの単独だが、今回の春公開では前作
までのプリキュアも登場して新ヒロインを盛り立てる。
その物語は「嘘」をテーマにしたもの。主人公が子供の頃に
約束を破り、結果的に嘘をついてしまったことの因果が現在
の世界に災厄をもたらす。しかもそれはプリキュアのいる全
ての世界に波及するのだ。
始りは郊外の花畑駅にやってきた主人公。仲間の2人を待つ
が列車の遅延でなかなか到着しない。それでも約束を信じて
待ち続け、ようやく揃った3人でお花畑にやって来るが…。
そこに巨大怪人ウソバーッカが現れる。
そこで直ちにプリキュアに変身し、怪人と闘う主人公たちだ
ったが、怪人は滅法強くて主人公以外の2人は怪人の中に取
り込まれてしまう。そのため主人公は以前に知り合った過去
のプリキュアに助けを求める。
一方、怪人の放つ言葉から、主人公の記憶に約束を破ってし
まった少年との思い出が甦る。それは子供の頃に両親と行っ
たダブリンでの出来事。そこで迷い込んだ異世界で出会った
少年を外の世界に連れて行く約束をしたのだった。

声優はテレビ版のレギュラー陣に加えて、ゲストに北村一輝
と、『ハリー・ポッター』シリーズの吹替版で主人公の声を
務める小野賢章。実は記者会見も見たが、そこでの北村の普
段見たことのないデレデレぶりが印象的だったものだ。
その北村は本作では怪人の声を担当しているが、その台詞が
「ウソ」という語に纏わる言葉遊びになっていて、その辺が
大人の観客にも楽しめる。他にもクローバーの花言葉など、
結構深い話が展開する。
物語の始まりなどには、テレビシリーズのシチュエーション
を知らないと判り難いところもあるが、その辺はファン向け
のサーヴィスと取れるし、物語の本筋には関らないので見逃
しても問題はない。
それにしても子育てをする中学生という設定は、単純に親の
世代の自分からすると悩ましいものだが。物語の展開ではい
ろいろ細かい点も気に掛けているようで、その点は納得して
観られたものだ。
ただ物語の最初に登場する駅ホームで、駅名票の隣駅の表示
が途中で左右反対になっているのがちょっと気になった。特
にそれで世界が変ったようなところもなく、まあ単なるケア
レスミスということなら問題はないが。

公開は3月17日より、東京は新宿バルト9、渋谷TOEI他
にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
                “The Florida Project”
(2016年11月13日題名紹介『タンジェリン』などのショーン
・ベイカー監督がフロリダ・ディズニーワールド近くに建つ
安モーテルを舞台に描いたヒューマンドラマ。ウィレム・デ
フォーがオスカー助演賞の候補になった。主人公は6歳の少
女。無職の母親との暮らしは絵に描いたような貧困だが、少
女自身は同じような境遇の悪ガキたちと奔放な遊びに明け暮
れている。そんな少女たちを、モーテルの管理人は時に厳し
く、時に温かく見守っていたが…。少女の母親が違法行為に
走ったことから運命が変わって行く。出演は少女役にフロリ
ダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親役
にはInstagramで発掘された新人のブリア・ビネイトが起用
されている。結末の捉え方で評価は別れると思うが、僕はあ
まり肯定的には観られなかったかな。公開は5月12日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『ラジオ・コバニ』“Radio Kobanî”
(シリア北部のクルド人の町コバニ。2014年9月からISに
占領された町は、2015年1月にクルド人民防衛隊によって解
放されたが、その数か月間の戦闘によって町は瓦礫の山と化
してしまった。そんな中で人々に希望を与えようと手製のラ
ジオ局を立ち上げた少女の奮闘を描いたドキュメンタリー。
監督は2012年に“Mijn Geluk in Auschwitz”というドキュ
メンタリーとアニメーションの作品でデビューしたクルド出
身のラベー・ドスキー。本作では復興の動きを力強く描くと
共に、過去の戦闘の映像なども挿入して、巧みな作品を作り
上げている。復興とラジオの関係では2013年1月に東日本大
震災関連の『ガレキとラジオ』を紹介したが、日本の作品に
は何かもどかしさを感じたのに対して、本作では正に明日へ
の希望が描かれているのも素晴らしかった。公開は5月12日
より、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』
(「Yahoo!知恵袋」への投稿に端を発し、初音ミクでオリジ
ナル楽曲が制作されたり、コミックスエッセイ化など様々な
メディアに展開されたという作品の映画化。映画の主人公は
結婚3年目のサラリーマン。実はバツ1で結婚生活に自信の
ない彼は、再婚相手に3年目の見直しを提案していた。その
3年目が近づいた日、彼が帰宅すると部屋で妻が血を流して
倒れていた。勿論それは狂言だったが、彼には妻がそうする
理由が判らない。しかも翌日は妻がワニに喰われて倒れてい
た…。出演は榮倉奈々と安田顕。監督は2010年2月紹介『て
ぃだかんかん』などの李闘士男。脚本は2017年3月19日題名
紹介『映画プリキュア・ドリームスターズ!』の坪田文が担
当した。原作がどんなものかは知らないが、映画では榮倉の
死にっぷりが結構様になっていた。公開は6月8日より、東
京は角川シネマ新宿他で全国ロードショウ。)

『ガザの美容室』“Degrade”
(パレスチナ自治区ガザで戦火の下でも逞しく生きる女たち
を描いた作品。舞台はガザの街角に立つ美容室。そこには離
婚調停中の主婦やヒジャブを被った信心深い女性、結婚間近
の娘とその母親、さらに出産間近の妊婦など様々な女性が集
まっている。店には大勢の客がいるが、美容師は2人だけで
順番までは時間が掛かりそうだ。そんな女性たちは世間話な
どに花を咲かせていたが…。突然外の街路で戦闘が始まり、
客たちは店を出られなくなる。それでも平静を保とうとする
が、妊婦に陣痛が始まったり、事態は予断を許さなくなる。
脚本と監督は、双子の兄弟のタルザン&アラブ・ナサール。
長編デビュー作の本作はカンヌ国際映画祭批評家週間に出品
された。これもソリッドシチュエーションと言えるのかな?
とにかくもの凄いお話だ。公開は6月23日より、東京は新宿
シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『女と男の観覧車』“Wonder Wheel”
(毎年新作を発表するウディ・アレン監督の2017年度作品。
2017年4月9日に題名紹介の前作『カフェ・ソサエティ』は
1930年代の東海岸と西海岸を行き来する話だったが、今回は
1950年代のニューヨーク・コニーアイランドが舞台。そこの
遊園地の象徴でもある観覧車の傍に住む元女優を主人公に、
夢を忘れず必死に生きる人たちが描かれる。出演はとんでも
ない長台詞に渾身の演技を見せるケイト・ウィンスレット。
それにジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ、
2014年6月紹介『マレフィセント』などのジュノー・テンプ
ルらが脇を固めている。コニーアイランドは、最近では日本
人も活躍するホットドックの大食い大会などでも紹介される
ようだが、その往時の賑わいが見事に再現されている。これ
がアレンの愛するニューヨークなのだろう。公開は6月23日
より、東京は丸の内ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『天命の城』“남한산성”
(1936年に起きた「丙子の役」を題材に、清の侵入に抗して
極寒の山城に立て籠もった朝鮮王朝と民衆の47日間に亙った
闘いの物語。韓国でベストセラーとなった小説の映画化のよ
うだが、和睦か、闘いか、韓国人とってはかなり厳しい内容
とも思える物語が克明に描かれる。出演はイ・ビョンホン、
キム・ユンソク、パク・ヘイル、コ・ス。監督は2012年7月
紹介『トガニ 幼き瞳の告発』などのファン・ドンヒョク。
韓国映画界の精鋭が揃った歴史大作だ。また音楽を韓国映画
には初参加の坂本龍一が担当している。小説の映画化だから
どこまでが史実の通りなのかは判らないが、ほんの一歩のと
ころで歴史が変わって行く。そんな哀しみも描かれている作
品だ。その後の日本との関係も含めていろいろ考えさせられ
た。公開は6月22日より、東京はTOHOシネマズ・シャンテ他
で全国ロードショウ。)

『猫は抱くもの』
(大山淳子の同名小説を、2012年8月紹介『のぼうの城』な
どの犬童一心監督が、2017年4月2日題名紹介『武曲』など
の高田亮の脚色で撮った、かなり凝った構成の作品。主人公
は元アイドルグループのメムバー。グループは解散し、半ば
引退状態の主人公はスーパーでバイトしながら何となく時を
過ごしている。そんな彼女の傍には1匹の猫がいて…。物語
は人間界と猫界が交互に進むが、特に猫界の描き方が見事で
感動的だった。出演は沢尻エリカ、吉沢亮。それに本作の音
楽も担当した「水曜日のカンパネラ」のコムアイ、同じくミ
ュージシャンの「銀杏BOYZ」峯田和伸。さらに岩松了らが脇
を固めている。監督の苗字は犬堂だが、2008年5月紹介『グ
ーグーだって猫である』など本当に猫好きのようで、本作で
もそれが良く表れていた。公開は6月23日より、東京は新宿
ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『枝葉のこと』
(2012年の「ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリ
を受賞した二ノ宮隆太郎が監督・脚本・主演を務める私小説
的作品。横浜郊外の自動車修理工場に勤める主人公が、周囲
との関わり合いを嫌いながらも、その中に居場所を見つけて
行く姿が描かれる。ただし物語は、正に題名にある通りの枝
葉末節の出来事が綴られて行くもので、その内容に共感でき
るかどうかで評価は分かれることになりそうだ。正直に言っ
て僕自身は余り共感は出来なかったが、こういう世界がある
場所では現実なのだろうし、それに共感する人たちがいるこ
とに理解はする。その程度に現実的な世界が展開されている
作品ではあるのだろう。ただ何か、映画の中にそういうこと
ではない物が欲しくはなる所で、監督の次回作にはその辺を
期待したい。公開は5月、東京は渋谷のシアター・イメージ
フォーラムにてロードショウ。)

『ザ・ビッグハウス』
(前々回『港町』を題名紹介した想田和弘監督による「観察
映画」の第8作。本作の観察対象は監督が本拠を置く合衆国
で、ミシガン州にある全米最大のアメリカンフットボール・
スタジアム「ザ・ビッグハウス」。その試合の舞台裏が観察
される。僕自身がJリーグのサポーターだから、こういう試
合の舞台裏には興味津々だが、それにしてもその規模の大き
さに圧倒される。大体、スタジアム自体が10数万人の客席を
持ち、毎試合10万人超えの観客が集まるというのだから…。
そこでの警備体制や救護体制、さらには10万人以上の腹を満
たす飲食物の調理・販売など、正に戦場のような勢いで進む
様子が映し出される。それと同時にマーチングバンドの準備
風景や選手の到着の様子など、正に僕が観たいものを全て見
せてくれる作品だった。公開は6月、東京は渋谷のシアター
・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『カトマンズの約束』
(2015年4月25日に発生したネパール大地震を題材にしたド
ラマ作品。監督は東京情報大学の教授でネパール映画研究の
第一人者とされる伊藤敏朗。すでにネパールを題材にした映
画制作で知られる伊藤監督が第3作の制作中に災害が起きた
とのことで、急遽物語を変えて災害に立ち向かう日本の国際
緊急援助隊の活躍を描く。因に映画の製作と主演を務めた俳
優ガネス・マン・ラマは、この活動により民間人では唯一、
日本隊から感謝メダルを授与されたそうだ。ただ映画として
の物語自体は多少ぎこちなさが出てしまっているが、災害の
前後を映し出す映像には重みがある。東日本大震災でもその
後の様子を描いたドラマ作品はいくつか制作されているが、
正に災害現場でのドラマは日本映画ではまだ見ていないよう
な気がする。その点でも注目できる作品だ。公開は4月30日
より、東京は渋谷ユーロライブ他で上映。)

『フジコ・ヘミングの時間』
(1999年放送のテレビ特集で、60歳を過ぎて突然ブレイクし
たピアニストを追った初のドキュメンタリー。ドイツベルリ
ンの生まれで、父親はスウェーデン人の画家・建築家、母親
が日本人のピアニストという彼女は幼くして戦前の日本に帰
国するが、父親は風土に馴染めずヨーロッパに戻ってしまう
など、かなり数奇な運命となる。そんな足跡も追いながら、
彼女の現在の活躍も描かれる。その中にはドイツの生家や留
学時代の下宿先なども訪問し、正にピアニストの全身像が描
かれる。しかもその中に彼女の語録とも言えそうな素敵な発
言も散りばめられ、これこそファン垂涎の作品と言えるもの
だ。それに世界各所でのコンサートの模様が、これもまた素
晴らしい映像と音響で記録されている。その中には「酷いピ
アノ」と言いながらの演奏も含まれているのも面白い。公開
は6月、東京はシネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年03月11日(日) ワンダー 君は太陽、ビューティフル・デイ(アンロック、トーニャ、タクシー運転手、マルクス、終わった人、ラスト・ホールド)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ワンダー 君は太陽』“Wonder”
全世界で800万部を超えるというR・J・パラシオのベスト
セラー小説を、2013年9月紹介『ウォールフラワー』の原作
者であり監督のスティーヴン・チョボウスキーが映画化した
作品。
本作では、まずは宇宙ヘルメットを被った子供と思われる体
型の人物のポスターヴィジュアルが目を引いた。とは言え本
作はSFではないのだけれど、ある意味SFに匹敵するファ
ンタスティックな物語だった。
主人公は10歳の普通の少年。しかしある部分が普通ではなか
った。そんな主人公は幼い頃から母親との自宅学習で学んで
きたが、小学5年生の歳についに学校に通うことになる。そ
こには普通でないための障害が待ち構えていたが…。
映画は主人公を含むいくつかの視点が切り替えられて展開さ
れるもので、その構成は普通ではかなりうざく感じたりもす
るもの。しかしチョボウスキー監督はそれを巧みに感動に繋
げていた。

出演は、主人公に2015年『ルーム』の幼い息子役で注目され
たジェイコブ・トレンブレイ。それにジュリア・ロバーツ、
オーウェン・ウィルスン、さらに2015年からのテレビシリー
ズ『スーパーガール』で若き日の主人公を演じたイザベラ・
ヴィドヴィクが共演。
また2003年10月紹介『ピニェロ』などのマンディ・パティン
キンらが脇を固めている。なおエンドクレジットのspecial
makeup effects artistの項目にYoichi Art Sakamotoという
日本人の名前があったが、アカデミー賞の候補者リストから
は漏れていたようだ。
主人公の症状はプロテウス症候群と呼ばれるもので、1980年
のデヴィット・リンチ監督作品『エレファント・マン』の主
人公ジョン・メリックと同じものと思われる。その19世紀の
物語でも心優しかった主人公と同じ感触が本作にもある。
物語自体は、心なき苛めなどいたって定番なもので、それに
対する解決策も定番過ぎるものに見えるが、その底に流れる
人間に対する信頼感が本作を心温まる感動作にしている。そ
の結末が特に素晴らしい。
それは描かれる展開としては、観客の気持ちとはちょっとず
れるのだが、これ自体は教育機関としては致し方ないもの。
そこに本作の監督はいくつかの映像を挿入することで観客の
気持ちを代弁してくれる。そんな優しさに溢れた作品だ。

公開は6月より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロード
ショウとなる。

『ビューティフル・デイ』“You Were Never Really Here”
検索すると“Werewolf Bitches from Outer Space”何て映
画の製作総指揮に名前が出てくる俳優出身ジョナサン・エイ
ムズの原作を、2012年3月紹介『少年は残酷な弓を射る』の
女性監督リン・ラムジーが脚色も手掛けて映画化した作品。
2017年のカンヌ国際映画祭ではラムジーの脚本賞と、主演の
ホアキン・フェニックスが男優賞の、ダブル受賞を果たした
クライムスリラー。サンダンスやサンセバスチャンなど世界
各地の映画祭での招待上映も果たしている。
主人公は元軍人で幾多の修羅場を潜り抜け、現在はトラウマ
を抱えながらも老いた母親と暮らしつつ、行方不明の子供を
専門に探すことを生業としている男性。主人公はその経歴か
ら暴力を全く恐れない。
そんな主人公に政治家の娘を探す依頼が舞い込む。ところが
その依頼は、政治家の父親がもたらした情報で難なく娘を保
護できるのだが…。保護した娘は怯えた様子もなく、感情を
失くしたような様子だった。
しかもその娘は主人公の目の前から再び連れ去られ、やがて
その陰に隠された驚愕の事実が発覚する。

共演は、2008年1月紹介『デッド・サイレンス』に出ていた
というジュディス・ロバーツと、2018年1月紹介『ワンダー
ストラック』にも出演のエカテリーナ・サムソノフ。他に、
2011年1月紹介『ブルーバレンタイン』などのジョン・ドー
マンらが脇を固めている。
監督の前作も人間の闇の部分を突いてくるような作品で、観
ていて震撼としたが。本作ではフェニックスのアクションが
ある分、少しその感じは薄まるかな。ただしそのアクション
もかなり現実的で、神経には触る作品になっている。
とは言えこれが人間の本性であることは確かなのだろうし、
その辺にしっかりと目を見据えて描き切る監督の手腕は確か
なものだ。そんなところがカンヌダブル受賞にも繋がってい
るのだろう。
そんな作品だが、本作では最後に微かな救いがあるのかな。
主人公が少しだけ人としての絆を取り戻す。しかしその前途
は多難なようにも感じるし、ここからの生き様が別の物語に
もなりそうな余韻を残してくれた。
まあ、映画ファン的には別の作品が見えてくるが、それは監
督の意図ではないだろう。

公開は6月より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ
となる。

この週は他に
『アンロック 陰謀のコード』“Unlocked”
(2013年4月紹介『マーヴェリックス』などのマイクル・ア
プテッド監督が、2017年8月紹介『セブン・シスターズ』な
どのノオミ・ラパスを主演に迎えて、アメリカCIAの陰謀
を暴くサスペンス作品。主人公はCIAの辣腕尋問官。しか
しあるテロ事件の解明に失敗し、そのトラウマで職を辞して
市井のソーシャルワーカーとして働いている。そこに新たな
テロの情報がもたらされ、彼女は職に復帰するが…。その情
報には巨大な罠が仕掛けられていた。共演はオーランド・ブ
ルーム。他にマイクル・ダグラス、トニ・コレット、ジョン
・マルコヴィッチらが脇を固めている。実は今回最初の作品
と続けて見たが、上作を個人的に少し重く感じていたところ
からは、本作の軽快なアクションの展開にほっとした。テロ
の描写など、決して軽い作品ではないが。公開は4月20日よ
り、東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』“I, Tonya”
(1992年、94年の冬季オリンピックにフィギュアスケート・
アメリカ代表として出場したトーニャ・ハーディングの半生
を描いた作品。アメリカ人女性では初めてトリプルアクセル
に成功したとされるハーディングは、貧しい暮らしの中、幼
い頃から母親のスパルタ教育でスケート一筋に歩んできた。
そして代表の座を射止めるが、その1992年には元夫がライヴ
ァル選手ナンシー・ケリガンを襲撃するという前代未聞の事
件を引き起し、転落の道を歩み出す。出演は2016年8月14日
題名紹介『スーサイド・スクワッド』などのマーゴット・ロ
ビー。彼女は製作も兼ねている。他に本作でオスカー受賞の
アリソン・ジャネイ、さらにセバスチャン・スタンらが脇を
固めている。監督は、2011年10月紹介『フライトナイト−恐
怖の夜−』などのクレイグ・ギレスピー。公開は5月4日よ
り、全国ロードショウ。)

『タクシー運転手 約束は海を越えて』“택시 운전사”
(2008年3月紹介『光州5・18』にも描かれた軍による民
衆弾圧事件を描いた作品。その事件を世界に知らせたドイツ
人ジャーナリストが如何にして取材し報道したか。そこに隠
された実話が描かれる。主人公はタクシー運転手。どちらか
というと体制寄りで学生運動にも批判的だった彼が、高額の
報酬に惹かれて危険な旅を買って出る。そして検問も掻い潜
り、光州へと突き進むが…。到着した現地では軍による弾圧
が始り、現地のタクシー運転手は民衆側に立って負傷者の搬
送などに従事していた。後半にはちょっとやり過ぎ感もある
が、最後に登場するジャーナリスト本人の映像が、改めて事
件の大きさを物語る。出演はソン・ガンホと2015年『戦場の
ピアニスト』などのトーマス・クレッチマン。監督は2012年
8月紹介『高地戦』などのチャン・フン。公開は4月21日よ
り、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『マルクス・エンゲルス』“Le jeune Karl Marx”
(全世界で「聖書」に次ぐ発行部数とも言われる「資本論」
の著者カール・マルクスと、その盟友フリードリッヒ・エン
ゲルスの若き日の活動を描いた作品。時代は19世紀中葉、産
業革命などで格差社会が生まれようとしていた時代に、社会
をより良き方向に導こうとした若者の姿が描かれる。1848年
の「共産党宣言」を始め、共産主義の根幹の一つとも言える
2人の思想は西欧圏では中々映画化し辛かったと思えるが、
本作は2人が主に活躍したフランス・ドイツ・ベルギーの合
作で実現された。出演は、2010年7月紹介『ソルト』などの
アウグスト・ディールと、2018年2月紹介『ヴァレリアン』
などのシュテファン・コナルスケ。監督は、2018年2月18日
題名紹介『私はあなたのニグロではない』などのラウル・ペ
ック。公開は4月28日より、東京は岩波ホールの創立50周年
記念作品の他、全国順次ロードショウ。)

『終わった人』
(NHK大河『毛利元就』などの脚本家=内館牧子の原作小
説を、舘ひろし、黒木瞳の主演、『リング』などの中田秀夫
監督で映画化した作品。大手銀行で出世街道から外れ、関連
会社に出向してそのまま定年を迎えた元企業戦士が、失業後
はしたいことも見つからないという現実が描かれる。共演は
広末涼子、臼田あさ美と今井翼。因に今井は、本格的な映画
出演は初めてだそうだ。まあ自分も定年退職した身だから、
主人公の気持ちも判らない訳ではないが、僕自身は在職中か
らいろいろやってきたからこの主人公よりは恵まれていたの
かな? でもまあこういう話はよく描かれるから、こちらの
方がより現実的なのだろう。ただ後半の展開は、主人公が恵
まれているんだか、いないんだか。この辺がフィクションの
面白さなのだろうけど…。公開は6月9日より、全国ロード
ショウ。)

『ラスト・ホールド!』
(ジャニーズ「A.B.C-Z」の塚田僚一と「Snow Man」の出演
で、2020年東京オリンピックの競技種目に決まったボルダリ
ング(競技名はスポーツクライミング)をテーマにした青春
群像劇。主人公は大学4年生。所属するボルダリング部の部
員は彼1人で廃部の危機に陥っている。そこは何とか新入部
員で回避するが、集まったのは1人を除いて初心者ばかり。
それでもインカレを目指して活動を開始するが…。物語は友
情や信頼など定番のものばかりだが、目新しい競技のルール
や特徴などはそれなりに理解できるように描かれており、オ
リンピックまでの予習にはよさそうだ。因に日本は個人団体
共に強豪国のようだ。監督は2015年『ボクは坊さん。』など
の真壁幸紀。前作も特定のシチュエーションでの青春ドラマ
はそつなく描いていた。公開は5月12日より、東京は新宿ピ
カデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年03月04日(日) SUKITA 刻まれたアーティストたち(ベルリン・S、蝶の眠り、ラスト・W、北斎、獄友、ラッカ、ボストン S、スクエア、ダリダ、港町)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
デヴィッド・ボウイやYMO、布袋寅泰ら内外のアーチスト
の写真を撮り続けた写真家鋤田正義氏を描いたドキュメンタ
リー。
映画の始まりは、「T・レックス」のヴォーカル兼ギタリス
ト=マーク・ボランの終焉の地を訪れた鋤田と布袋の様子。
そこには鋤田撮影のボランのポートレイトが飾られており、
布袋は「この写真を見てギタリストに憧れるようになった」
と、自らのミュージシャンとしての起源を語る。
そして布袋のコンサートが続くのだが、ここでは演奏中の舞
台に対峙する写真家の姿がヴィデオで捉えられている。これ
はアーチストのパフォーマンス中に別の被写体を追うことで
あり、通常では全く考えられない映像だ。それが許されるく
らいの鋤田と布袋の関係性も描かれている。
そしてボランの撮影に始まって、その後には40年間に及んだ
ボウイとの交流。さらにはスタイリストの高橋靖子、ファッ
ションデザイナーの山本寛斎らとの関係など、1970年代初頭
のヨーロッパでの活躍も紹介される。この3人のコンビネー
ションがボウイを盛り上げて行く過程も素晴らしい。
実は昨年の今頃は、2017年3月5日題名紹介『Don't Blink
ロバート・フランクの写した時代』や3月26日題名紹介『パ
リが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒』など、
写真家のドキュメンタリーを続けて見ていたが。その作品を
紹介しながら人物に迫るという手法は本作も同じだ。
しかし本作にはそれらと違う、何かが心にすっと入ってくる
ような心地良さを感じた。それは被写体が映画との関係も深
いボウイであったり、日本のアーティストであったりと、自
分に親しみがあるという点は有利だったのかもしれないが。
それ以上の人間性が本作には感じられたものだ。
また鋤田本人が幼少期からの写真家としての来歴を述べる語
りも素敵で、勿論それは才能を持てる人の話ではあるのだけ
れど、観客に勇気を与えて、迷っている人をそっと押してく
れるような人生観にも溢れたものになっている。
そして鋤田と映画との関係では、1971年寺山修司監督『書を
捨てよ町へ出よう』の撮影監督を務めたことや、是枝裕和作
品などのスチール。さらに1989年ジム・ジャームッシュ監督
『ミステリー・トレイン』に関してはジャームッシュ監督と
主演の永瀬正敏へのインタヴューなど。
とにかくすべてのカットにおいて僕の興味を引くシーンが連
続する作品だった。

公開は5月19日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロー
ドショウとなる。

この週は他に
『ベルリン・シンドローム』“Berlin Syndrome”
(2013年6月紹介『ウォーム・ボディーズ』などのテリーサ
・パーマー主演で、ドイツ旅行中のアメリカ人女性が酒場で
出会った男に監禁される恐怖を描いたメラニー・ジョーステ
ン原作ベストセラー小説の映画化。一目惚れで一夜を過ごし
た男の部屋。彼女が起きた時、男はすでに外出していたが、
部屋から出ようとすると外から鍵が掛けられていた。そこか
らの脱出劇がサスペンスフル且つスリリングに描かれる。監
督は2012年『さよなら、アドルフ』などのケイト・ショート
ランド。男の態度が徐々に変化して行く過程が不気味に描か
れ、外部とのコンタクトやその結末。さらに脱出劇の全貌が
丁寧且つ破綻も少なく描かれていると感じた。因に主演と同
じオーストラリア出身の女性監督は、前作でもドイツが舞台
だったようだが、何かの拘りがあるのだろうか。公開は4月
7日より、東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『蝶の眠り』
(中山美穂がアルツハイマーに侵された女性作家役で5年ぶ
りの映画主演を果たした作品。自らの病を知った作家は「魂
の死」を迎える前に何かをやり遂げようと大学での講義を始
めるが…。学園近くの居酒屋で働く韓国からの留学生と知り
合った彼女は仕事の手伝いを頼むようになり、2人は徐々に
惹かれ合って行く。共演は2009年1月紹介『アンティーク
西洋骨董洋菓子店』などのキム・ジェウク。他に石橋杏奈、
勝村政信、菅田俊らが脇を固めている。脚本と監督は2004年
『子猫をお願い』などのチョン・ジェウン。物語はフランス
の女流作家マルグリット・デュラスの晩年を描いたジャンヌ
・モロー主演映画を元にしているようだが、題名は赤ん坊が
両手を挙げて寝る姿を指す言葉だそうで、劇中にはこの他に
も様々な素敵な言葉が散りばめられている。公開は5月12日
より、東京は角川シネマ新宿他で全国ロードショウ。)

『ラスト・ワルツ』“The Last Waltz”
(1976年にサンフランシスコで行われた「ザ・バンド」の解
散ライブの模様を、その舞台演出も手掛けた当時は新進気鋭
のマーティン・スコセッシ監督が映像化。その作品がディジ
タルリマスターにより公開される。出演はザ・バンドの他、
ゲストにはエリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ
・ミッチェル、ニール・ダイアモンド、リンゴ・スター、ボ
ブ・ディランら錚々たる顔触れが登場。特にディランは、以
前にザ・バンドのバックを務めていたという経緯だそうで、
後のノーベル賞受賞者の若い姿も感動だ。また撮影にはマイ
クル・チャップマン撮影監督以下、ラズロ・コバックス、デ
ヴィッド・マイヤーズ、ボビー・バーン、マイクル・ワトキ
ンス、ヒロ・ナリタら、こちらも錚々たるメムバーが揃って
いるのも見逃せない。公開は4月14日より、東京はヒューマ
ントラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『大英博物館プレゼンツ 北斎』
          “Hokusai: Old Man Crazy to Paint”
(2017年5〜8月にロンドン大英博物館で開催された展覧会
「Hokusai: Beyond the Great Wave」の様子を中心に江戸時
代の浮世絵師の全貌に迫ったイギリス製ドキュメンタリー。
北斎というと、まずは「富嶽三十六景」が思い浮かぶが、本
作はその版画の制作過程の紹介などと共に、彼の肉筆画にも
焦点を当て、さらには90歳まで描き続けた絵師の生涯など、
絵師の全体像を描き尽す。そして後半では、大英博物館での
展示が、美術史家や現代のアーティストらの解説と共に詳細
に映し出され、美術館のガイドツアーとしても楽しめる構成
になっている。監督は以前にも大英博物館関連のドキュメン
タリーでプロデューサーを務めているパトリシア・ウィート
リー。本作は美術館展示の紹介だけでなく、そこからの広が
りを見事に描いた巧みな作品だ。公開は3月24日より、東京
はYEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。)

『獄友』
(2014年『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』と、2016年
『袴田巖 夢の間の世の中』の金聖雄監督が三度追った冤罪
事件のドキュメンタリー。狭山事件の発生は1963年、袴田事
件は1966年だが、本作ではさらに1967年の布川事件、1990年
の足利事件が取り上げられ、彼らが服役中に一緒だった時期
があることから獄友と称して交流する姿が描かれている。但
し布川・足利の両事件は共に無期懲役の判決であり、再審で
無罪が確定しているものだが、袴田・狭山は死刑判決で、さ
らに未確定あることが際立っている。そんな状況での作品だ
が、特に袴田氏の姿に、死刑囚という極限状態での精神的圧
迫の恐ろしさが如実に著されている。正に冤罪の恐怖、それ
は誰にでも降り掛る可能性のあるものという恐怖が重く感じ
られる作品だ。公開は3月24日より、東京はポレポレ東中野
他で全国順次ロードショウ。)

『ラッカは静かに虐殺されている』“City of Ghosts”
(2016年『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン監督
が、ISが首都と宣言したシリア北部の町ラッカでスマホを
武器に闘う人々を追ったドキュメンタリー。原題と異なる邦
題は「RBSS」(Raqqa is Being Slaughtered Silently)と
称する地下の抵抗組織のことで、彼らはISによって日々行
われる公開処刑などの模様をスマホで撮影し、ソーシャルメ
ディアを通じて世界に発信している。しかしそれは当然IS
の逆鱗に触れるものであり、海外に逃れたメムバーにも死刑
が宣告され、暗殺も起きているものだ。そして彼らが拠点に
したドイツでは極右勢力による迫害も生じている。ラッカは
以前は天国とも称される美しい街並みを誇っていたそうで、
そこでの惨状は正に目を覆いたくなる映像だった。でもこの
現実は直視しなければいけない。公開は4月14日より、東京
はアップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』
                     “Stronger”
(2013年4月15日のボストンマラソンで起きた爆弾テロに巻
き込まれ、両足を失いながらもFBIに対して犯人特定に繋
がる証言を行った男性の姿を、彼自身の回想録に基づき描い
た作品。男性のことは2017年3月26日題名紹介『パトリオッ
ト・デイ』にも描かれていたが、本作ではさらにその後の影
響なども語られており、邦題の副題にある通りの、正直に言
って個人的にはあまり付き合いたくないような話が赤裸々に
描かれている。とは言ってもそれなりにちゃんと描かれてい
るのはさすがのハリウッド映画と思わせる作品だ。出演はジ
ェイク・ギレンホールと、2015年『黄金のアデーレ』などの
タチアナ・マズラニー。監督は2013年5月紹介『コンプライ
アンス−服従の心理−』の製作総指揮を務めたデヴィッド・
ゴードン・グリーンが手掛けている。公開は5月11日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』“The Square”
(2014年『フレンチアルプスで起きたこと』などのリューベ
ン・オストルンド監督が、2017年のカンヌ国際映画祭で最高
賞=パルムドールを受賞した作品。主人公は現代アートの美
術館でキュレーターを務める男性。彼は参加者を利他主義に
導く次なる展示物「ザ・スクエア」の準備を進めていたが。
ある日、彼が財布と携帯電話を紛失したことから事態が急変
する。物語は他者への無関心や階層間の断絶など現代社会が
抱える問題を抉りだすものだが、前作の時も感じたがこの監
督は人間を信じていないと思わせる。これは2018年2月4日
題名紹介『ハッピーエンド』などのミヒャエル・ハネケ監督
にも感じるが、ハネケはそれを不条理に描くのに対して本作
はリアルに描き切る所が恐ろしい。現代に突き付ける刃とい
う感じの作品だ。公開は4月28日より、東京はヒューマント
ラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『ダリダ あまい囁き』“Dalida”
(1987年に54歳で他界した女性歌手ダリダの生涯を描いた伝
記ドラマ。イタリアからの移民としてエジプトに暮らしてい
た家族の許に1933年誕生したダリダは、1954年度のミス・エ
ジプトに選ばれるほどの美貌で、1956年に歌手として活動を
開始。以後亡くなるまで第1線で活躍した。その間には恋多
き女性としても知られたようで、そんな奔放な人生が描かれ
ている。正直に言って来日公演もしたという歌手の名前はあ
まり覚えていなかったが、映画が始まって直に流れる『バン
ビーナ』と『コメ・プリマ』の2曲は聞き覚えがあった。で
も調べてみると2曲ともカヴァーだったようで、彼女の歌で
知っていたのではないようだ。とは言え時流に合せて最後ま
で現役を通した姿は素晴らしいもので、そのパワフルな歌声
にも魅了される作品だ。公開は5月19日より、東京はヒュー
マントラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『港町』
(2012年7月紹介『演劇』などの想田和弘監督による「観察
映画」の第7作。本作は想田監督が前作2016年『牡蠣工場』
を制作した際、その撮影の合間に街を巡って出会った人々を
撮影したものだそうで、正に何の意図もなく撮影されたよう
だ。しかしそこには人間がいて、その人たちがドラマを紡ぎ
出す。そのドラマが今回は結構凄くて、何となく緊張して観
てしまった。「観察映画」は番外編も含めて多分全て観てい
るが、2013年『選挙2』と上記の前作は、監督の意図が良く
判らなかった。それに対し本作は監督の意図がない分、「観
察映画」の原点に戻った感じで、それが興味に繋がり、面白
く観させて貰った。以前の作品では、『演劇』は別格として
2009年4月紹介『精神』が興味深かったが、本作はそれに並
ぶ作品と言えそうだ。公開は4月7日より、東京は渋谷シア
ター・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二