井口健二のOn the Production
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2018年02月25日(日) イカリエ-XB1(私は絶対、聖なる、名もなき、いつだって、ミスミソウ、ブラックP、ロンドン、29歳、大和、熊野、フェリーニ、友罪)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『イカリエ-XB1』“Ikarie XB 1”
1963年にチェコスロヴァキアで製作されたモノクロ・ワイド
のSF作品。日本では、テレビ放映と自主上映されたという
情報はあるようだが、公式には未公開だった作品が2016年に
本国で4Kレストアされ、本邦初公開される。
時代背景は22世紀後半。人類は太陽系外の生命体を探索する
ための宇宙船イカリエ-XB1を発進させる。その目的地は
アルファ・ケンタウリ星系。距離は約4.3光年で、飛行期間
は往復約15年、しかし亜光速で飛ぶことによる時間の圧縮で
船内時間は2年間だとされている。
そのため40名の搭乗員の中には、生まれくる我が子の成長が
見られなかったり、年下の妻が帰還時には年上になっている
などの状況も生じていた。そしてついに地球との交信も限界
に達し、太陽も星々の1つとなり、宇宙船は未知の大宇宙へ
飛び出して行く。
そんな宇宙船の冒険の旅が描かれる。その中では謎の宇宙船
との邂逅や、怪しげな放射線を出す暗黒星雲との遭遇なども
起きる。

原作はポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1956年に
発表した『マゼラン星雲 (Obłok Magellana)』とされている
が、本編にクレジットはされておらず、1960年製作、ポーラ
ンド-東ドイツ合作の『金星ロケット発進す』とは状況が異
なるようだ。
その本作の脚本と監督は児童向けのファンタシー映画などを
数多く手掛けているインドゥジヒ・ポラーク。脚本には同じ
くファンタシー映画を多く手掛けるパヴェル・ユラーチェク
が参加の他、天文学やロケット工学など各分野の科学者が顧
問を務めているそうだ。
衣装はチェコ映画の名作に多く参加しているエステル・クル
ンバホヴァー。撮影も名手とされるヤン・カリシュ。さらに
音楽は、カレル・ゼマン監督1957年『悪魔の発明』や1962年
『ほら男爵の冒険』でも知られるズデニェク・リシュカが担
当している。
出演者にもチェコ映画のベテラン級の俳優が多く名を連ねて
おり、当時の体制下では本格的な作品と言えるものだ。
プレス資料では『スタートレック』との関連性なども取りざ
たされているが。確かに大宇宙への探索というテーマは共通
するものの、1966年スタートのテレビシリーズでは、本作の
公開時にはすでに企画は進んでいると思われ、その関連性は
薄いだろう。
しかし、1968年公開『2001年宇宙の旅』との関連となると、
これはかなり際どいものだ。
特に本作の中で家族とのテレビ電話や、器具を使った運動の
シーンなどは、正しく影響が見て取れる。この他のヴィジュ
アルの面でも思い出させるシーンが何箇所もあり、僕自身が
『2001年』を生涯のベスト1としている者としても、これは
言い逃れは出来ないと思わされた。
勿論、『2001年宇宙の旅』がその他の面でも先駆的な作品で
あることは確かなのだが…。

公開は5月19日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『私は絶対許さない』
(東大医学部卒でアメリカに留学し、トラウマ理論を学んで
きたという和田秀樹監督が、一読して衝撃を受けたという雪
村葉子の手記を映画化した作品。15歳の元旦に集団レイプさ
れた少女が、そのトラウマを抱えたままその後の人生を歩ん
で行く姿が描かれる。主演はグラビア系の平塚千瑛と女優の
西川可奈子だが、画面のほとんどが主人公のPOVという構
成で、開幕すぐの被害シーンでは、僕の後ろにいた女性2人
が退席してしまうほどの迫力だった。共演には佐野史郎、隆
大介、美保純、友川カズキ、白川和子ら実力派が並ぶ。監督
は2008年3月紹介『受験のシンデレラ』など実績があり、脚
本は2010年2月『誘拐ラプソディー』などの黒沢久子、撮影
は監督の前作も担当の高間賢治、音楽には三枝成彰を招き、
監督自ら製作総指揮も務める渾身の作品だ。公開は4月7日
より、東京はテアトル新宿他で、全国順次ロードショウ。)

『聖なるもの』
(宣伝チラシにフェリーニ meets庵野秀明と称される、岩切
一空監督の作品。映画研究会所属の大学3年生が「映研の怪
談」と呼ばれる美少女を追って彷徨う姿をPOVで描く。監
督はPFFアワード準グランプリ受賞者で、本作では音楽に
ボンジュール鈴木を迎えて「MOOSIC LAB2017」向けに製作、
見事グランプリを受賞している。フェリーニは『8½』のつ
もりなのかな? 庵野は後半のシーンのことだろうけど、僕
は1998年の初実写作品『ラブ&ポップ』を思い出していた。
そんな若さも感じさせる作品だ。ただ映画のメイキング的な
作品の割には基となる映画の姿が見えてこず、そのため作品
自体が思い付きだけの羅列に見えてしまう。まあ発表の場か
ら考えて、作品の目的は映画と音楽の融合だから、その点は
良いのだろうが、僕には物足りなかった。公開は4月14日よ
り、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『名もなき野良犬の輪舞』“불한당: 나쁜 놈들의 세상”
(開幕は刑務所から出獄する若者。外にはやくざ風の男が出
迎えている。若者は3年前に入獄し、無鉄砲な行動で男の目
に留まる。そして男の窮地を救ったことから接近し、先に出
獄した男の出迎えを受ける。男は若者をボスに引き合わせ、
うだつの上がらないボスの甥と共に、組織に君臨して行くよ
うになるが…。信頼と裏切り、そして復讐が思わぬ展開で繰
り広げられる。出演は2014年8月紹介『監視者たち』などの
ソル・ギョングと、ボーイズバンドZE:Aメムバーのイム・シ
ワン。他にキム・ヒウォン、チョン・ヘジンらが脇を固めて
いる。脚本と監督は2012年『マイPSパートナー』などのビ
ョン・ソンヒョン。前作はラヴコメだそうで、かなり角度の
違う新作のようだが、非情な警察内部の描写なども強烈で、
骨太の作品だ。公開は5月5日より、東京は新宿武蔵野館他
で全国順次ロードショウ。)

『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』
         “Smetto quando voglio: Masterclass”
(社会的地位のあまり高くない理系の大学教授たちが合法ド
ラッグを密造して一儲けを企んだものの法の網に掛って主犯
が逮捕。しかし新型ドラッグの蔓延に手を焼く警察から協力
を要請され、元の仲間を集めて彼らの知識でドラッグの出所
を探ろうとするが…。本作は2017年の作品だが、実は2014年
に前作があって、本作の後にも続けて第3作が登場する。内
容はアクション・コメディで、物語は本作だけでも充分判る
が、日本でも3作とも公開が決まっているようで、出来たら
全作を通して観たいものだ。出演は2017年1月紹介『おとな
の事情』などのエドアルド・レオ、2010年9月紹介『シチリ
ア!シチリア!』などのルイジ・ロ・カーショ。脚本と監督
は第1作でデビューしたシドニー・シビリアが3作通して担
当している。公開は5月26日より、東京はBUNKAMURA ルシネ
マ他で全国順次ロードショウ。)

『ミスミソウ』
(押切蓮介原作のサスペンスコミックスを、2016年2月紹介
『ドロメ』などの内藤瑛亮監督が実写映画化。脚本は2014年
『渇き。』などの唯野未歩子が担当した。主人公は雪深い田
舎町に引っ越してきた少女。転校したクラスでは部外者とさ
れて陰湿ないじめに遭っている。しかし廃校間近の学校では
教師もやる気を見せない。そして苛めが頂点に達し、家族に
類が及んだ時、壮絶な復讐劇が開幕する。出演は2017年12月
紹介『野球部員、演劇の舞台に立つ!』などの山田杏奈と、
『渇き。』に出ていた清水尋也。他に森田亜紀、戸田昌宏、
片岡礼子、寺田農らが脇を固めている。原作は恐らく復讐劇
で評価されたのだろうが、映画化ではそれが多少平板かな。
過去に観たようなシーンばかりで、そこに工夫があれば、そ
れなりの評価が出来たと思うのだが。公開は4月7日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『ブラックパンサー』“Black Panther”
(『アベンジャーズ』に繋がるマーヴェル発の新ヒーロー。
2016年『シビル・ウォー』にも登場したが、本作はその起源
を描く。その始りはアフリカの奥地。遥か昔に落下した隕石
に含まれる強力なパワーで超文明国になったワカンダ。しか
しその実態はベールの陰に隠されていた。そして世界にスパ
イを放ち、国益だけを護って来たが…。元スパイの男が悪に
走り、その脅威に若き国王が立ち向かう。出演は2013年9月
紹介『42』などのチャドウィック・ボーズマン。他にマイ
ケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、マーティン・フ
リーマン、アンディ・サーキスらが脇を固めている。監督は
2015年『クリード チャンプを継ぐ男』などのライアン・ク
ーグラー。監督、出演者共にブラックパワー満載の作品でア
メリカでの評価は最高のようだ。公開は3月1日より、東京
はTOHOシネマズ日本橋他で全国ロードショウ。)

『ロンドン、人生はじめます』“Hampstead”
(原題のハムステッドは、ネットで調べるとロンドン北部の
古くから文化人が多く住む高級住宅地だそうで、映画で観た
感じはかなり郊外かと思ったがそうでもないらしい。主人公
はそんな土地のアパートで一人暮らしの初老の女性。住居は
亡き夫が遺したものだが、家賃も高く、老朽化した家屋の修
繕費もままならない。そんな時、ふと見かけたホームレスの
男性に惹かれた彼女は、勝手気ままな彼の暮らしにのめり込
んで行くが…。物語は実話に基づくそうだが、結構物事が上
手く行ってしまう夢のようなお話だ。出演はダイアン・キー
トンとブレンダン・グリースン。監督は2010年『新しい人生
のはじめかた』などのジョエル・ホプキンス。法整備のあり
方が日本と違うのはうらやましかったが、実は環境問題はそ
のままで、そこがきょっと気になったかな。公開は4月21日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『29歳問題』“29+1”
(30歳が目前の女性の姿を描いた香港映画。元は本作で監督
デビューのキーレン・パンが12年間演じ続けてきた一人芝居
の舞台劇だそうで、仕事上のキャリアもあり、長年付き合っ
てきた彼氏もいて公私共に充実していたはずの女性が、仮住
まいで暮らし始めたアパートの住人が残した日記を読む内に
人生観が変わって行く。出演は2014年『西遊記 はじまりの
はじまり』などのクリッシー・チャウと、2013年『コールド
・ウォー 香港警察 二つの正義』などのジョイス・チェン。
30歳目前の焦りというのは男性の自分はあまり感じなかった
が、女性は違うのだろう。そんな気持ちが男性にも判り易く
描かれていた。ただ後半の展開が僕には強烈すぎて、これで
は本来のテーマが飛んでしまうような感じもしたが、この衝
撃も作品の評価の一部なのだろう。公開は5月より、東京は
YEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。)

『大和(カリフォルニア)』
(神奈川県大和市と綾瀬市に跨る厚木海軍飛行場。通称厚木
基地の周辺を舞台に、その爆音絶え間ない土地で暮らしなが
らラッパーを目指す少女と、その母親の恋人=米軍人の娘と
の交流を描いた作品。題名は、基地のフェンスの手前は大和
市だけれど向こうは合衆国という意味で、実は自分の生まれ
が近隣の平塚市だったもので、この話は子供の頃に聞いてい
た。当時の説明では、太平洋艦隊の郵便物の合衆国内での取
り纏めがサンフランシスコで、宛名にそう書くということだ
ったが、真偽のほどは知らない。僕自身が子供の頃に基地へ
見学に行ったこともあるし、七夕には米軍人の家族を家に招
いたこともある。そんな環境で育ったからこの作品を見てい
ると、時代は変わったけれど感情は変わっていないという感
じもした。公開は4月7日より、東京は新宿K's cinema他で
全国順次ロードショウ。)

『熊野から イントゥ・ザ新宮』
(2011年8月紹介『海と自転車と天橋立』の田中千世子監督
が2014年から撮り続けている『熊野から』3部作の最終章。
内容は、旅行ライターが熊野地方を旅しながら地元の人々と
交流するセミ・ドキュメンタリーだが、その中で第1作から
少しずつ語られていた幸徳秋水=大逆事件が、本作ではほぼ
メインとして描かれる。それは現在では、社会主義の台頭を
恐れた明治政府のでっち上げであることが定説になっている
ものだが、その定説自体があまり知られていない事実を踏ま
えて、秋水らの復権活動を行っている人々の姿が描かれる。
勿論それと同時に地元の風物なども描かれるが、その辺のバ
ランスが2011年作などは少し違和感だったが、本作ではその
ようなこともなく、巧みに両方が織り込まれていた。公開は
5月下旬より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム
にてモーニングロードショウ。)

『フェリーニに恋して』“In Search of Fellini”
(イタリアの名匠フェデリコ・フェリーニの世界に魅了され
たアメリカ人の少女が、フェリーニを探してイタリアに旅す
る様子を描いたドラマ作品。主人公は母親に守られて20歳に
なるまで世間を知らずに育った少女。しかしその母親が末期
がんと判り、自立を目指して一歩を踏み出した彼女がふと迷
い込んだのは、名監督の作品上映会だった。そしてその世界
に憧れた少女は監督に会うためイタリアに行くことを決意す
るが…。辿り着いたイタリアは、フェリーニ作品以上に摩訶
不思議な世界だった。酒場で知り合う自称映画監督の名前が
グイドだったり、様々なフェリーニ作品へのオマージュが観
られる。監督は南アフリカ出身のタロン・レクストン、主演
はテレビドラマ『ロスト・ガール』などのクセニア・ソロ。
公開は3月17日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他にて全
国順次ロードショウ。)

『友罪』
(1997年に起きた酒鬼薔薇聖斗事件、その後を追った少年A
の週刊誌報道に基づく薬丸岳の同名小説を、2017年10月15日
題名紹介『最低!』などの瀬々敬久脚本、監督で実写映画化
した作品。非情なジャーナリストの世界に嫌気が差して退職
した主人公は町工場に試験採用され、一緒に採用された無口
な若者と徐々に信頼関係を築いて行く。しかしその若者は少
年Aだった。そして主人公にはジャーナリストの魂が再燃す
るが…、その前途にはさらに非情な世界が待ち受けていた。
出演は生田斗真と瑛太。佐藤浩市、夏帆、山本美月、富田靖
子らが脇を固めている。少年A自体は手記を出版するなどそ
の反省のなさが僕には不愉快だったものだが、本作ではその
点には触れないものの、それを煽るジャーナリズムの体質の
ようなものが追及されるなど、それなりに納得のできる作品
になっていた。公開は5月25日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年02月18日(日) バケツと僕!、放課後戦記(おもてなし、ダンガル、私はあなたのニグロではない、さよなら僕のマンハッタン)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『バケツと僕!』
2006年8月、2012年7月紹介『旅の贈りもの』シリーズなど
の竹山昌利企画、プロデュースで、1998年『無敵のハンディ
キャップ』にて講談社ノンフィクション賞受賞の北島行徳が
2005年に発表した小説『バケツ』を映画化した作品。
主人公は大卒後に務めた会社を1年で辞めて養護施設で働き
始める。そこに「バケツ」と呼ばれる軽度の知的障害を持つ
中学生がいた。他の生徒からは疎まれ、先生たちも手を焼く
「バケツ」だが、何故か主人公とは親しくなって行く。
ところが「バケツ」が中学卒業となった時、高校進学もまま
ならない彼は施設を出ざるを得なくなる。そして最初は親族
の長姉に頼るが、その家も追い出された「バケツ」に対して
主人公は一緒に暮らして行くことを決意する。
それは、主人公には養護施設からの退職も含めた決断だった
が。知的障害の上に盗癖もある「バケツ」との生活は、正に
波乱万丈のものになって行く。

出演は、歌手前川清の息子でシンガーソングライターの紘毅
と、2012年「NHKのど自慢チャンピオン大会」でグランド
チャンピオンに輝いた演歌歌手の徳永ゆうき。因に2人は舞
台やテレビドラマなどの経験は多数あるようだ。
他に、2017年2月紹介『サクラダリセット』などの岡本玲、
NHK大河ドラマ『八重の桜』などの竹島由夏。それに杉田
かおる、二木てるみ、ダチョウ倶楽部、海原はるか・かなた
らが脇を固めている。
監督は助監督出身で本作が本編デビューの䂖田和彦。脚本は
原作者と監督、さらに企画の竹山昌利、2013年7月紹介『お
しん』などの山田耕大が担当した。
原作者は障碍者プロレスなども主宰してその顛末から上記の
受賞を果たしているもので、マイノリティへの理解は深い人
と考える。その観点で本作でも障碍者に向ける目は暖かく、
それが感動を呼ぶ作品になっている。それは良いのだが…。
実はその感動が、「上手く行って良かったね」的な、浅薄な
ものであることが気になった。端的には結末に於いて、主人
公が「バケツ」に再会できたことだけで済ませて良いものか
どうか。
それは無事に再会できたことは良いが、「バケツ」の盗癖に
関しては何ら解決されておらず、さらに養護施設での体罰に
ついても、問題にしないまま放置されてしまう。これらの点
で僕には納得できない部分の残る作品だった。
映画はエンターテインメントではあるけれど、盗癖や体罰は
社会的な問題であり、それはいずれに面においても障碍者だ
から許されるというものではない。そこにちゃんと向き合っ
てこその作品だと思うのだが。

公開は3月3日より、東京は新宿K's cinema他にて全国順次
ロードショウとなる。

『放課後戦記』
NMB48出演による舞台のチケットが10公演即時完売した
という話題作の映画版。
主人公は友達に対する苛めを傍観しているような少女。そん
な少女にも彼女の気持ちを理解してくれる同級生はいて、そ
の同級生から借りたハンカチを返すため放課後の屋上に来た
主人公は、ふとうたた寝をして夜になってしまう。
そして校舎に閉じ込められた主人公は、翌朝から同級生同士
が殺し合う異様な世界に迷い込む。その世界から逃亡しよう
とすると射殺され、さらにその世界の期限は3日間で、その
間に全員を殺さなければ、自分も死んでしまうと言う。
斯くして少女たちの死闘が始まるが、主人公自身はあまりに
ひ弱で、他人を殺すことなどできそうもなかったが…。彼女
を守ってくれる仲間も登場する中で、絶体絶命の危機が次々
に襲い掛かってくる。

出演は、「NMB48」チームNのメムバーで、オリジナル
の舞台にも主演した市川美織、2011年「東宝シンデレラオー
ディション」審査員特別賞受賞の秋月成美、舞台版でW主演
の他CMやMVに多く出演しているというりりか。
さらに2016年12月18日題名紹介『新宿スワンⅡ』などの小宮
有紗。他に、遠藤新菜、青山心、窪田美沙、井上美那、大野
未来、小泉萌香、片岡沙耶、新田祐里子、加藤美紅、野々宮
ミカら全員女子のキャストが物語を展開する。
原案は、アイドル系ヴァラエティ番組などの構成作家のオク
ショウ。脚本は舞台版も手掛けた桃原秀寿。共同脚本と監督
は、2017年6月4日題名紹介『便利屋エレジー』などの土田
準平が担当している。
異世界の意味合いが何であるかは、この種の映画を観馴れて
いる者にはすぐに判ってしまうが、背景の映像などは定番と
言えば定番だけれど、それなりに判り易くは描かれていた。
その辺は良く映画を知っている感じはしたものだ。
そんな中での死闘の連続は、一部にはアイドル系とは思えな
い過激さも含めてそれなりに頑張っているとは言える。これ
が観客との一体感の強い舞台なら、盛り上がりも必至という
感じだろう。
ただし少し冷静に見ると、少女たちの各々のキャラクターの
立て方が物足りない。実際この設定からすると、それぞれの
キャラクターはもっと様々なトラウマを抱えているはずで、
それらを個々にしっかりと描ければ…。
もちろん全部を描くのは無理にしても、主人公だけではなく
もう何人かのトラウマが描ければ、その分だけ多くの共感を
得られる。描かれるトラウマは重大なものだが、それだけで
は勿体ない。そこが残念に思えるのだ。

公開は4月7日より、東京はシネリーブル池袋、大阪はシネ
リーブル梅田他で全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『おもてなし』
(台湾人男性と日本人女性が、和の心で琵琶湖畔の老舗旅館
を再生して行く姿を描く。女性は父親が他界した後、1人で
切り盛りする母親を見かねて職を辞し、生家に戻ってくる。
その旅館は設備も老朽化し台湾の実業家の支援で何とか存続
している状態だった。そこに実業家の息子が現れ、彼は採算
の取れない旅館を売却するつもりだったが…。ある事情から
「おもてなし」を学ぶ彼らが、老舗旅館の良さに目覚めて行
く。出演は田中麗奈と2009年5月紹介『九月に降る風』など
のワン・ポーチエ。他に余貴美子、木村多江、藤井美菜。さ
らに台湾のヤン・リエ、ヤオ・チィエンヤオ。脚本と監督は
台湾のジェイ・チャン。題名は「裏はあるけどおもてなし」
などと揶揄もされるが、「京のぶぶ漬け」なども引用され、
テーマはよく理解されていたようだ。公開は3月3日より、
東京は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)

『ダンガル きっと、つよくなる』“दंगल”
(ダンガルとはヒンディー語でレスリング、特にその選手を
尊敬を込めて呼ぶ言葉だそうだ。そんなインドのレスリング
界で、国内チャンピオンになりながら、家庭の事情で国際舞
台には立てなかった男性が、自分の子供にその夢を託す。物
語は実話に基づいているものだが、『巨人の星』も斯くやの
スパルタ教育や大舞台での一発逆転の大技が、VFXも駆使
した演出で爽快感も生む作品になっている。出演は、2013年
3月紹介『きっと、うまくいく』などのアーミル・カーン。
長女役は先に主演もあるファーティマー・サナー・シャイク
だが、他はザイラー・ワシーム、サニュー・マルホートラ、
スハーニー・パトナーガルらいずれも新人の女優たちがレス
リングに挑んでいる。脚本と監督は自ら物語を発掘したニテ
ーシュ・ティワーリー。公開は4月6日より、東京はTOHOシ
ネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『私はあなたのニグロではない』“I Am Not Your Negro”
(1987年に没した黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの遺
作を原作として描いたアメリカ黒人史。1963年6月12日メド
ガー・エヴァ―ス、1965年2月21日マルコムX、1968年4月
4日マーティン・ルーサー・キング・ジュニア。3人の黒人
活動家が相次いで暗殺された。これらの事件の効果で公民権
は広がったとされるが、彼らと親交があり、危険を避けて海
外で暮らしていた作家はそうは思わない。そんなアメリカの
現実が、当時の講演会の映像やテレビ出演での発言など様々
なアーカイヴと共に描かれる。その病巣は2018年1月14日題
名紹介『デトロイト』など映画でも何度も描かれているが、
ケネディ家の裏の顔など改めてその深さを思い知らされる。
監督はラウル・ペック。作家の著作に基づく語り手をサミュ
エル・L・ジャクスンが務める。公開は5月、東京はヒュー
マントラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『さよなら、僕のマンハッタン』
          “The Only Living Boy in New York”
(文化の中心だった時代は20世紀までとされるニューヨーク
を舞台に、人生の進むべき道に迷う青年と変わり者の隣人。
さらに両親や父の愛人なども絡む、ユーモアもたっぷりの作
品。シチュエーションは違うが、僕には1967年マイク・ニコ
ルズ監督の『卒業』が想起されたかな。そんな青春のもやも
やした気分と、そこから1歩を踏み出すまでが巧みに描かれ
る。出演は、2016年11月20日題名紹介『グリーンルーム』な
どのカラム・ターナー。他に、ジェフ・ブリッジス、ピアー
ス・ブロスナン、ケイト・ベッキンセール、2017年11月紹介
『フラットライナーズ』などのカーシー・クレモンズらが脇
を固める。監督は2017年9月紹介『gifted ギフテッド』な
どのマーク・ウェブ。脚本は2008年3月紹介『ラスベガスを
ぶっつぶせ』などのアラン・ローブ。公開は4月14日より、
東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年02月11日(日) ヴァレリアン、ガッチャマン(ばぁちゃんロード、男と女、しあわせの絵の具、15時17分、ラーメン、Oh Lucy!、犯罪都市、キング)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』
    “Valerian and the City of a Thousand Planets”
1967年から2010年までフランスで出版され、英語にも翻訳さ
れて1977年『スター・ウォーズ』にも影響を与えたとされる
SFコミックス(バンド・デシネ)を、リュック・ベッソン
の製作、脚本、監督により映画化した作品。
物語の背景は、国際宇宙ステーションに地球中の国々が参加
し、さらに異星からの参加も増加。各自が施設を増設したた
めに質量が増大して、地球への落下の懸念から、ブースター
を取り付けて大宇宙に旅立させたという経緯。
その大宇宙を進むステーションにはさらに多くの異星の生物
が集まり、ステーションは複数の区画に分けられて水棲人な
ど各住人に適した環境が設けられている。そんな巨大ステー
ションは「千の惑星の都市」とも呼ばれていた。
主人公は、そんなステーションの秩序を守るために組織され
た連邦委員会の直属で、有能な働きを示してきた諜報員。そ
んな彼にステーションの中心部に突如発生した危険エリアの
調査が命じられる。
そこには明らかな敵対行動があり、そこへの侵攻作戦を指揮
していた司令官が敵側に拉致されてしまう。その救出に向か
う主人公だったが。その事件の裏には記録から存在の抹消さ
れた惑星ミュールに纏わる陰謀が隠されていた…。
そんな物語が、華麗なVFXや多彩な異星人の造形と共に描
かれる。

出演は2013年8月紹介『クロニクル』や同年10月紹介『メタ
リカ・スルー・ザ・ネヴァー』などのデイン・デハーンと、
2016年8月14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』などの
カーラ・デリヴィーニュ。
さらにクライヴ・オーエン、イーサン・ホーク、ジョン・グ
ッドマン、ルトガー・ハウアー、クリス・ウー、ミュージシ
ャンのリアーナ、ハービー・ハンコックなど多彩な顔ぶれが
登場する。
ベッソンは幼い頃から原作のファンで、1997年『フィフス・
エレメント』制作の際に、コンセプトデザイナーとして招い
た本作の原作者ジャン=クロード・メジエールから、「なぜ
『ヴァレリアン』をやらないのか?」と問われたそうだ。
以来、20年掛りで実現されたのが本作という。しかし昨年の
ヨーロッパ、アメリカ公開では、必ずしも大成功という興行
にはならなかった。その原因を考えると、少し設定が判り難
かったかな、という印象は否めない。
それは「原作のファン」という監督らが関わると陥り易い問
題だが。特に本作のように現実の宇宙開発をベースに、そこ
から設定を未来に発展させようとすると、原作を知らない観
客にはそのギャップを埋めるのが難しくなる。
そのギャップ自体は、SFを観馴れている目からするとそれ
ほどではないのだが、それが評価の分かれ目になったかな?
そんな感じはする程度のものだ。そのギャップを乗り越えれ
ばそれなりに楽しめるのだが。
雰囲気的には、1967年『バーバレラ』などを髣髴させるもの
もあり、正しくフランスSFという感じのする作品だ。ガジ
ェットで一杯の映像は、日本の若い観客には受けそうな気も
するが…。

公開は3月30日より、東京はTOHOシネマズ日本橋他で、全国
2D/3Dロードショウとなる。

『Infini-T Forceガッチャマン さらば友よ』
2017年9月紹介『Infini-T Force』の記事の中でも記載した
テレビシリーズに続く劇場版。タツノコプロ設立55周年記念
の作品で、1970年代の4大ヒーローが再び結集する。
実はテレビシリーズは見損ねたが、シリーズでの敵は殲滅さ
れ、世界は復活してヒーローたちは各々の世界に戻ったよう
だ。ところが安定したはずのパラレルワールドが再び揺らぎ
始める。
それは各パラレルワールドに存在する特異点、現在世界では
渋谷の交差点に存するそれの揺らぎによるものだったが…。
その現在の特異点が不自然に作動していた。そしてそこは、
「科学忍者隊ガッチャマン」の世界だった。
その現在世界に降り立ったヒーローたちは、渋谷の交差点に
構築されたドームを目撃する。そのドームでは科学忍者隊の
生みの親・南部博士が、ギャラクターとの闘いのエネルギー
を得るため特異点を利用していたのだ。
しかも博士は、ギャラクターを退けた後も、そのエネルギー
を操って世界の新たな支配者になろうとしていた。斯くして
ガッチャマン=鷲尾健は、最も手強い敵との戦いを余儀なく
される。

声優は、シリーズと同じ茅野愛衣、関智一、鈴村健一、斉藤
壮馬、櫻井孝宏に加えて、船越英一郎、鈴木一真、遠藤彩。
シリーズ構成は、2014年『PSYCHO-PASSサイコパス 2』など
の脚本家の熊谷純。監督は、2010年『閃光のナイトレイド』
などの松本純が担当した。
この作品もパラレルワールドの設定などが多少ややこしいか
な。ただしこの作品の場合は先行のテレビシリーズがある訳
だが、僕は昨年シリーズの一部を見せて貰っているから良い
ものの、直接これだけを見せられたら混乱したかな。
しかも、どうやらテレビシリーズの最後に本作のプロローグ
があったようで、今回はその部分がカットされているから、
正直かなり混乱した。本編は91分の作品だが、ここまでの経
緯の説明をもう少し工夫して欲しかったかな。
でもまあそれでも僕は了解できたのだから、これで良いのか
もしれないが。あと数分の説明を追加してくれたら、もっと
判り易くなったのではないかとは思ったところだ。
とは言え、狙いはヒーローたちのバトルアクションにある作
品だから、これで良いと言ってしまえば良いのだろうとは思
うが…。

公開は2月24日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『ばぁちゃんロード』
(2018年1月28日題名紹介『おみおくり』などの文音が主演
する富山県を舞台にしたヒューマンドラマ。結婚を控えた女
性が、足の怪我で施設に入ったままの祖母に「ヴァージンロ
ードを一緒に歩きたい」と言ったことから、祖母はリハビリ
に真剣に取り組むようになる。しかしそこには紆余曲折が待
ち構える。祖母役を草笛光子が演じ、他に三浦貴大、鶴見辰
吾、2011年10月紹介『王様ゲーム』などの桜田通らが脇を固
めている。監督は2006年8月紹介『地下鉄に乗って』などの
篠原哲雄。脚本は初監督した自主製作作品で城戸賞最終選考
まで残ったという上村奈帆。この脚本は「映画美学校プロッ
トコンペティション2016」にて最優秀賞を受賞している。話
の着目点は良いと思うけれど、挿入されるエピソードはもう
少し掘り下げて欲しかったかな。公開は4月14日より、東京
は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)

『男と女、モントーク岬で』“Return to Montauk”
(1979年『ブリキの太鼓』でカンヌのパルム・ドールに輝い
たフォルカー・シュレンドルフ脚本、監督による大人のラヴ
ストーリー。世界を旅して小説を発表している人気作家が、
思い出の地ニューヨークを舞台にした作品を出版、プロモー
ションのために思い出の地を訪れる。そこで過去を共にした
女性と再会を果たすが…。出演はステラン・スカルスガルド
と、2012年11月紹介『東ベルリンから来た女』などのニーナ
・ホス。他にスザンネ・ウォルフ、ニエル・アレストリュブ
らが脇を固めている。題材は監督の盟友でもあった作家マッ
クス・フリッシュの著作に基づくが、故人となった作家とは
生前にそのままでは映画化に適さないと話し合っていたそう
だ。映画は米国東海岸の風景も美しい作品になっている。公
開は5月26日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロード
ショウ。)

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
                      “Maudie”
(カナダ・ノバスコシア州のプリンスエドワード島で生涯を
過ごし、ガスも電気も水道もない4m四方の小さな家で絵を
描き続けた素朴派女性画家を描いたドラマ作品。画家は若年
性関節リウマチで身体が不自由だったが、絵に対する情熱は
尽きることなく、晩年は雑誌やテレビでも紹介されてニクソ
ン米大統領からも作品の依頼があったとされる。そんな女性
画家と彼女を支えた夫の姿を、2017年11月紹介『シェイプ・
オブ・ウォーター』などのサリー・ホーキンスと、『ヴァレ
リアン』にも出演イーサン・ホークが演じている。他にカナ
ダ人女優のカリ・マチェットとガブリエル・ローズが共演。
脚本はカナダのシェリー・ホワイト、監督はアイルランドの
アシュリング・ウォルシュが担当した。映画では画家の描い
たアートハウスが見事に再現されている。公開は3月3日よ
り、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『15時17分、パリ行き』“The 15:17 to Paris”
(2015年8月21日、アムステルダム発パリ行きの高速列車タ
リスの車内で発生したイスラム過激派によるテロ事件。その
犯人に立ち向かった3人のアメリカ人青年を描いたクリント
・イーストウッド監督による実話に基づく作品。映画は幼馴
染であった3人の幼少期から説き起こし、事件に遭遇するま
での足跡が描かれる。それは最初は作品を間違えたかと思う
ような展開で始まるが、映画の終盤になると、なるほどそう
れが言いたかったかのかと納得できる。しかも主役の3人を
事件の当事者本人に演じさせているのだから、この大胆さは
イーストウッド監督ならではのものだろう。いやはや脱帽の
作品だ。前作2016年9月紹介『ハドソン川の奇跡』では主役
以外の救護者たちに本人を起用していたが、それは本作への
前哨戦だったのかな。公開は3月1日より、東京は新宿ピカ
デリー他で全国ロードショウ。)

『ラーメン食いてぇ!』
(ページ閲覧数が100万回を超えるという林明輝原作ウェブ
漫画の実写映画化。群馬県高崎市と中央アジアのキルギスを
舞台に、閉店したラーメン店の再興と食を通じた異文化交流
が描かれる。中央アジア篇では実際に現地ロケが敢行され、
雄大な風景と素朴な遊牧民の生活振りが紹介される。一方の
高崎篇では落ち毀れ気味の女子高生と親友との友情とラーメ
ン修行が語られる。この修行ではかなりの薀蓄が披露され、
特にヒロイン2人が挑む平かごを使った湯切りなどは、相当
の練習の跡が見えるものだ。他に高崎とキルギスを繫ぐ食材
の話なども納得の行くものだった。出演はNHK朝ドラ『ま
れ』などの中村ゆりかと『わろてんか』で主演の葵わかな。
他に片桐仁、石橋蓮司。脚本と監督は、2018年1月21日題名
紹介『ROKUROKU』の脚本を務めた熊谷祐紀。公開は3月3日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『Oh Lucy!』
(寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョッシュ・
ハートネットの共演で、英会話を学び始めたことから自分を
変えて行く女性の姿を描いた作品。脚本と監督の平柳敦子は
長野県生まれ、千葉県育ちで、高校2年生時に渡米してロサ
ンゼルスの高校を卒業。州立大学で演劇の学位を得た後に、
奨学金を受けてニューヨーク大学大学院で映画制作の修士号
を取得。そして桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編映
画でカンヌ国際映画祭の学生映画部門の第2位を獲得した。
その短編を自ら長編化したのが本作とのことだ。因に本作は
脚本段階でサンダンス・インスティデュート/NHK賞を受
賞し、同賞の支援で本作が製作されている。内容的には南カ
リフォルニアの様子など実態に則したものだろうが、お話自
体は意外な展開の割には真面な感じで、もっと弾けたものが
欲しい感じもした。公開はゴールデンウィーク。)

『犯罪都市』“범죄도시”
(1990年代、ソウルに定着した中国同胞は中国街を形成し、
そこではいくつかの組織が縄張りを作っていた。そんな中に
新たに中国から渡って来た勢力が勃興。彼らは組織の一つを
乗っ取り、残虐な手段で他に圧力を掛け始める。この状況に
警察も動き始めるが…。物語は2004年に起きた実際の事件に
基づくとのことだ。出演は2017年7月紹介『新感染 ファイ
ナル・エクスプレス』などのマ・ドンソク、2017年6月18日
題名紹介『バッカス・レディ』などのユン・サンゲ。脚本と
監督は本作がデビュー作のカン・ユンソン。本国の公開では
連続第1位を記録し、華々しいデビューとなった。映画の最
後にはちょっと意外なテロップもでるが、組織の状況や残虐
な手段などには2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』を髣髴
とさせるものもあり、日韓で同時期に同様な作品が登場する
のも興味深い。公開は4月28日よりロードショウ。)

『ザ・キング』“더 킹”
(1980年から2010年の韓国政治史を背景に、低所得者層から
中央政界にも目を光らせるソウル地検検事に成り上がった男
を描いたドラマ作品。物語はフィクションのはずだが、映画
にはニュース映像も随所に挿入され、あり得るかもしれない
政治の裏面が描かれて行く。それは暴力団なども関る悪に満
ちたものだ。出演は2009年11月紹介『霜花店』などのチョ・
インソンと、2014年8月紹介『監視者たち』などのチョン・
ウソン。脚本と監督は2013年『観相師』などのハン・ジェリ
ム。ニュース映像に沿うドラマ部分では「江南開発」など他
の韓国映画でも観た政治腐敗の話なども登場して現実味に富
んだ展開になって行く。ただ結論がちょっと尻すぼみな感じ
で、どうせなら最後まで貫いて欲しい感じはした。まあそこ
までも充分衝撃の作品ではあったが。公開は3月10日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年02月04日(日) ゴーストスクワッド(Sea Opening、香港製造、ANIMA、ペンタゴン・P、ボス・B、きみへの距離、ハッピーE、トレイン・M、グレート・A)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ゴーストスクワッド』
2003年12月紹介『恋する幼虫』以降、昨年2月5日題名紹介
の『スレイブメン』及び『ブルーハーツが聴こえる』の一編
まで、いろいろ紹介してきた井口昇監督の最新作。
主人公は、恨みを残したままでは成仏できない幽霊が見える
少女。そんな主人公がふとしたことから3人の少女の幽霊に
取り憑かれる。そして自分らを殺した犯人を制裁することで
恨みを晴らし成仏する手伝いを頼まれる。
その頼みを心優しい主人公は聞くことにするのだが…。犯人
が改心しない時に、最後の手段として幽霊が人間に物理的な
影響を与えるためには、彼女が瀕死の状態になって、幽霊に
パワーを送る必要があった。
という設定に、地上の幽霊を管理する女性地縛霊の存在など
も加わって、3人の幽霊少女たちによる壮絶な復讐劇が展開
される。

出演は、監督がプロデュースするアイドルグループ「ノーメ
イクス」の神門実里、神門実里、上埜すみれ、柳杏奈。彼女
たちは監督の以前の作品などにも出ているようだ。他に中村
朝佳、中村瑠美衣。
さらに、2017年7月9日題名紹介『蠱毒(こどく)』などの
島津健太郎、2013年11月紹介『地球防衛未亡人』などのなべ
やかん、2017年10月29日題名紹介『HiGH&LOW THE MOVIE』な
どの阿部亮平らが脇を固めている。
同様の作品は1990年『ゴースト ニューヨークの幻』から、
1999年『シックス・センス』など数多あるが、特に1990年の
作品では、感動的な作品である反面、ゴーストが存在を示す
手段が少し微妙に感じられたものだ。
それに対して本作では、主人公が瀕死の状態になると物理的
な影響を与えられるという理論を明確にしたもので、これは
一つの方法論として認めることができる。ただまあそこから
後の展開はかなり支離滅裂にはなるが、こういう抑えのある
なしでは、観ている側の気分はかなり違ってくる。
監督の以前の作品では、サーヴィス精神を発揮しての勢いに
任せた展開の中で、設定が破綻してしまうことが多く。それ
が受けている面はあるのかもしれないが、僕には折角の設定
を自己破壊しているようで、勿体なく感じていた。
それが最近の作品では、支離滅裂な展開をそれなりに上手く
纏めてくれるようになってきており、本作でもその点は満足
した作品だ。まあ依然としてサーヴィス精神を発揮している
シーンもあるが。
なお個人的には地縛霊の存在は気に入っているもので、彼女
を中心にスピンオフなど、考えて欲しいと思ってもいるとこ
ろだ。

公開は3月3日より、東京はUPLINK渋谷他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『Sea Opening シー・オープニング』
(2015年に佐々木希主演で『縁 The Bride of Izumo』とい
う作品を発表している堀内博志監督が、製作/脚本/撮影/編
集も兼ね、『テニスの王子様』の舞台ミュージカルなどを手
掛ける劇団「2.5次元舞台」の役者たちを出演者に迎えた作
品。主人公は新しい舞台の稽古に励む新人役者。ところが初
日が近づいた日に主演の役者が失踪して公演がキャンセルさ
れてしまう。そして街でその役者に出逢った主人公は、彼に
誘われるまま沖縄のリゾート地に向かうが…。不思議なムー
ドは漂うが、物語的にはちゃんと説明される。でも全体的に
は現実と虚構が入り混じったファンタスティックな作品だ。
出演は「2.5次元舞台」『刀剣乱舞』などの黒羽麻璃央と、
同じく『ダイヤのA』などの和田琢磨。男同士の友情と別れ
が切なく描かき込まれている。公開は2月10日より、東京は
シネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『香港製造メイド・イン・ホンコン』“香港製造”
(2009年10月23日「東京国際映画祭」で紹介『愛してる、成
都』などのフルーツ・チャン監督が1997年に発表して、香港
金像奨グランプリなどを獲得した作品。その作品が4Kリマ
スターにより再公開される。舞台は中国返還直前の香港。変
革に戸惑う社会の中で、行き場のない若者たちの青春が描か
れる。そこに自殺した少女の遺書が拍車を掛ける。主演は本
作で市中から見いだされ、後に2002年6月紹介『ピンポン』
などに出演するサム・リー。本作には本名でクレジットされ
ている。他に後は実業家になるネイキー・イム。さらに後は
映画編集者として活躍するウェンダー・リーなど、特別な顔
ぶれが並ぶ。製作総指揮はアンディ・ラウ。撮影用フィルム
の特殊な事情などもあり、ディジタル化にはかなりの時間を
要したようだ。公開は3月10日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『ANIMAを撃て!』
(2016年10月16日題名紹介『いたくても いたくても』で長
編デビューした東京藝術大学大学院映像研究科出身堀江貴大
監督の長編第2作。海外留学支援の試験に臨むバレリーナを
主人公に、自らの進むべき道に迷う若者の姿を描く。出演は
新人の服部彩加と、2012年8月紹介『FASHION STORY』など
の小柳友。他に大鶴義丹、さらに2015年『RED COW』などの
黒澤はるか、同年『私たちのハァハァ』などの中村映里子、
2009年8月紹介『行旅死亡人』などの藤堂海らが脇を固めて
いる。劇中のダンスシーンはそれなりに観られたが、ドラマ
の展開がちょっとベタかな。同様の展開では2017年4月30日
題名紹介『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン』がドキュメン
タリーなのに見事にドラマティックだったもので、フィクシ
ョンならそれなりのドラマが欲しい。公開は3月31日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』“The Post”
(ウォータゲート事件に先立つ1971年に起きた、合衆国の報
道の自由を巡る事件の実話に基づく物語を、スティーヴン・
スピルバーグ監督、メリル・ストリープ、トム・ハンクスの
共演で描いた作品。1961年から1968年までの民主党政権下で
マクナマラ国防長官が密かに纏めたベトナム戦争を検証する
文書。それは勝ち目のない戦いにアメリカの若者を送り続け
る愚かさを示したものだった。その文書をスクープしたNY
タイムズとそれを追うワシントン・ポスト。しかしそれはホ
ワイトハウスの怒りを買うことになる。しかもポストの社主
はマクナマラと昵懇だった。その中で大統領府は両社の刑事
告発に踏み切るが…。何処で事態は逆転するか、結果は判っ
ていても興奮する作品だ。トランプ政権の横暴さに危機感を
覚えるハリウッドが、正にトップランナーで政権に挑んでい
る。公開は3月30日より、全国ロードショウ。)

『ボス・ベイビー』“The Boss Baby”
(2005年6月紹介『マダガスカル』などのトム・マクグラス
監督によるドリームワークス・アニメーションの最新作。主
人公はやさしい両親に育まれた7歳の少年。そんな主人公の
家にコウノトリならぬリムジンでやって来たスーツ姿の赤ん
坊。彼は人類の未来に関る重大な使命を帯びていた。それは
赤ん坊vsペットの究極の戦い。その中でペット陣営は最終兵
器を準備していた。かなり捻った世界観で、それを把握する
のに少し戸惑うが、判ってしまえば実に見事に現代を描いた
作品になっている。ペットブームと少子化問題、その背景に
こんな事情があったとは…。これは到底有り得ないとは言え
ない話かな…? 声優は、オリジナルはアレック・ボールド
ウィン、スティーヴ・ブシェミ他、吹替え版はムロツヨシ、
芳根京子らとなっている。公開は3月21日より、全国ロード
ショウ。)

『きみへの距離、1万キロ』“Eye on Juliet”
(砂漠の油送パイプラインを監視するロボットが、海外脱出
を企てるアラブ人の男女を目撃したことから始まる少し未来
的なお話。六脚を操り移動するそのロボットには通常のカメ
ラと暗視カメラが搭載され、さらに傍受と警告を行う音響シ
ステムや、威嚇射撃の銃も装備されている。そして操縦は合
衆国内から遠隔操作で行われる。因に音響システムには通訳
機能も設けられている。そんなロボットの操縦者がパイプラ
インの脇で密会する男女を発見。さらに事件が発生して操縦
者は救援の手を伸べようとするが…。2016年9月18日題名紹
介『アイ・イン・ザ・スカイ』では遠隔操作による戦争が描
かれたが、それよりは少し平和的かな? でも監視の目的は
石油の盗難防止だから、それなりに殺伐としたシーンも描か
れる。ただし全体はラヴストーリー。公開は4月7日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ハッピーエンド』“Happy End”
(2013年1月紹介『愛、アムール』などのミヒャエル・ハネ
ケ監督による最新作。85歳の老父を頂点に3世代が暮す豪華
な邸宅。そこに長男の13歳の娘が一緒に住むためにやって来
る。その少女の目を通して一家の実態が描かれる。それは不
倫や嫉妬に塗れた壮絶なものだ。冒頭にはハネケらしい不快
な映像が提示されるが、それはネットなどでは頻繁に観られ
るもの。そんな人間の心の闇を描く作品だ。でもまあ初めて
『ファニーゲーム』を観た時の衝撃からは、大分柔らかくな
ったかな。出演は『愛、アムール』でも親子を演じたジャン
=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペール。さらにマ
チュー・カソビッツ。そこに2017年7月紹介『少女ファニー
と運命の旅』で姉妹の妹を演じていたファンティーヌ・アル
ドゥアンがキーとなる役で登場する。公開は3月3日より、
東京は角川シネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『トレイン・ミッション』“The Commuter”
(2011年4月紹介『アンノウン』、2014年7月紹介『フライ
ト・ゲーム』、2015年『ラン・オールナイト』で監督×主演
のジャウマ・コレット=セラとリーアム・ニースンが四度組
んだサスペンス・アクション。主人公は保険の営業マン。彼
が突然の馘を言い渡され、家族にどう話すか思案しながらの
帰路の通勤電車で、突然乗客の中からある人物を見つけ出し
たら10万ドル渡すと持ち掛けられる。最初は半信半疑ながら
も手付金を入手した主人公は人探しを始めるが、その裏には
非情な陰謀が隠されていた。共演は、ヴェラ・ファーミガと
パトリック・ウィルスン。2人は2016年6月紹介など『死霊
館』シリーズのコンビだ。舞台がほぼ列車内に限定というの
は、2014年作に似ているかな。ただしそれは時間制限などで
飛行機よりも臨場感がある。しかも最後に展開される大アク
ションには…お見事と言いたくなる作品だった。公開は3月
30日より、TOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『グレート・アドベンチャー』“侠盗聯盟”
(中国のアンディ・ラウとフランスのジャン・レノ。両国の
人気スターが共演する怪盗vs敏腕刑事のアクション作品。怪
盗はルーブル所蔵の中国の秘宝“ガイア”の一部を狙うも、
獲物を何者かに奪われ逮捕された。その怪盗が刑期を終えて
出獄。彼は奪われた“ガイア”を構成する3つの要素を集め
て稼業の最後にするつもりだったが…。その後を刑事が執拗
に追っていた。そして舞台はチェコへと展開する。共演はト
ニー・ヤン、スー・チー。さらにエリック・ツァン、チャン
・ジンチューらが脇を固めている。監督は、2013年『TAICHI
太極』などのスティーヴン・フォン。古株の評論家の人とは
1960年代の『ファントマ』を思い出すという話になった。ジ
ャン・レノはルイ・ド・フィネスよりはスマートだが、ユー
モアに満ちた雰囲気は共通する。公開は3月31日より、東京
は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二