井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2015年03月29日(日) 東京アニメアワードフェスティバル2015

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今回は、3月19日−23日にTOHOシネマズ日本橋で開催された
「東京アニメアワードフェスティバル2015」において上映さ
れた作品について報告する。

“Jack et la mécanique du coeur”
フランスの映画監督リュック・ベッソンが代表取締役を務め
るヨーロッパ・コープで2013年に製作、2014年に本国で公開
された作品。
物語の舞台は19世紀末のエディンバラ。誕生の日があまりに
寒かったために、心臓が凍り付いて生れた赤ん坊ジャック。
しかしお産に立ち会った魔女がその心臓を取り出し、代わり
にカッコウ時計を埋め込んでくれた。
こうして生きながらえたジャックだったが、機械仕掛けの心
臓が動き続けるには、いくつかの決まりごとを守らなければ
ならなかった。それは時計に触らないこと。怒らないこと。
そして、恋に落ちないこと。
でも、若者へと成長したジャックが街角で歌い美しい少女と
出会った時、ジャックは自らの運命に立ち向かわなければな
らなくなる。そして少女の後を追って、ヨーロッパ中を駆け
巡る冒険が始まる。
そこにはフランス映画の開祖ジョルジュ・メリエスも関って
正しく夢とロマンに溢れた物語が展開される。

原作、脚本、監督(共同)は、フランスのシンガーソングラ
イターのマティアス・マルジュー。原作は2007年に発表され
た小説で、同年に音楽アルバムも発表されているようだ。そ
して本作で彼は主人公の声も担当している。
なおもう1人の監督にはディジタルFXアーティストのステ
ファン・ベルラという人が参加している。
メリエスとの絡みの部分では、彼の映画の再現なども登場し
てファンの目を楽しませるが、フランスの映画人にとっては
2011年12月紹介『ヒューゴの不思議な発明』でマーティン・
スコセッシに先を越されたという思いもあるのかな?
物語のメインはそこにはないのだけれど、かなりのシーンを
費やしてメリエスの存在を描いている感じはした。またそれ
が作品全体のノスタルジーにもうまくマッチしているのは良
い感じのする作品だった。
ただまあ、ヨーロッパ映画に特有の雰囲気や流れみたいなも
のもあって、それがハリウッド風の能天気でないのは仕方な
いのだけれど、観終えて切なさが残るのは、何となく悔しく
なってしまうところだ。

ヨーロッパ・コープの作品は、日本には株式会社ヨーロッパ
・コープ ジャパンも設立されているものだが、本作の公開
については未定のようだ。

“Lisa Limone ja Maroc Orange: Tormakas armulugu”
2014年の「アヌシー国際アニメーション映画祭」でも上映さ
れた2013年エストニア製作のパペットアニメーション作品。
主人公は苦しい生活の続く祖国を小さなボートで逃れてきた
オレンジの若者。しかしそのボートが難破し、ようやく辿り
着いたのは温暖な南の国だったが…。
その南の国でトマト農園に雇われた主人公は農園主のレモン
の娘に恋をする。一方、苦しい暮らしが一向に向上しないオ
レンジの労働者たちは、遂に農場主に反旗を翻す。
上映前に監督の挨拶があったが、作品の中では複数の言語が
使われており、それらの意味合いと全体をミュージカル仕立
てにしている点を楽しんで欲しいということだった。
と言われても、字幕で鑑賞する僕らにとってはなかなか難し
いところもあるもので、結局は字幕を頼りに映像を解釈して
そこからいろいろと考えるしかなくなってしまう。
その点で言うと、この作品はメッセージに対して生硬すぎる
かな。監督の言によるとこれはヨーロッパで起きている現実
に則したものということだが。
特に肌が滑らかで色の薄いレモンが圧制者で、色が濃く肌も
ごつごつしたオレンジが抑圧者という図式は、何ともはやと
いう感じもしてきてしまう。
しかも物語は、そんな環境の中で立場の違うレモンとオレン
ジが恋をするというのだが。その展開の甘さというかご都合
主義的な感じはメッセージに沿わない感じもした。
ましてや、最終的に搾取されたままのトマトの立場は何なの
だろう。ここに於けるメッセージの意味が僕には理解できな
かったし、正直不満にも感じたものだ。
因に本フェスティバルのコンペティション部門選考基準は、
「国際的に通用し、独創的かつメッセージ性を持った作品」
とのことで、そのメッセージはあったと言えるかな。

監督は、2005年に発表された中東欧圏の若手映画作家たちに
よる映画プロジェクト“Lost and Found”にも参加のマイト
・ラース。本作は初長編作品とのことだ。
製作はNukufilm。1957年創立のストップ=モーション・アニ
メーションでは北欧圏で最も歴史があり、規模も最大とされ
るスタジオの作品だが、本作の日本公開は未定のようだ。

“Mune, le gardien de la lune”
本国のフランスでも今年8月に公開の予定で、今回の上映が
ワールドプレミアだったのかな。フェスティバルでは優秀賞
に輝いた作品。
太陽と月の運行がガーディアンと呼ばれる選ばれし者たちに
よって司られている世界の物語。その世界でミューンは準備
もないままに月のガーディアンに選ばれてしまう。それは元
より戦士で太陽のガーディアンを目指していた若者と一緒で
はあったが…。
そんな折、突如太陽と月に危機が訪れる。それはネクロスと
いう堕落者が太陽の支配を求めたことの仕業だった。そこで
ミューンは、太陽のガーディアンとなった若者や小さい仲間
たちの協力を得ながら、太陽と月を元の位置に戻すための冒
険の旅に出る。

上で紹介した2作に比べて本作の物語は明らかにファンタス
ティックなものであり、アニメーションの技術的な評価は判
らないが、僕自身では3作の中で最も好ましい作品だった。
また僕の観た上映が優秀賞に決まった後に行われたもので、
監督たちが挨拶に来てくれたのも嬉しかったものだ。
監督はアレクサンドル・ヒボヤンとブノワ・フィリッポン。
ヒボヤンはフランス出身だが、2008年5月紹介『カンフー・
パンダ』や2009年“Monsters vs. Aliens”でアニメーター
を務めており、ハリウッド感覚は会得しているのかな。
一方のフィリッポンは2003年に公開された『掠奪者』という
アクション映画のシナリオに参加、2010年に“Lullaby for
Pi”という実写作品で新人監督賞の候補にもなっており、い
ずれもこれからが楽しみな作家たちのようだ。
因に、監督たちの挨拶の後では即席でサイン会になり、僕は
フェスティバルのプログラムブックの表紙にイラスト付きで
書いて貰った。これは大事にとっておきたい。
なお本作も日本公開は未定のようだ。
        *         *
 ということで「東京アニメアワードフェスティバル2015」
において上映された3作品を紹介したが、実は今回のフェス
ティバルの長編コンペティション部門では他に2作品が上映
され、その内の1本がグランプリとなった。
 僕は本フェスティバルでは、以前にも書いたように上映さ
れる作品中、長編コンペティション部門5作品を含む10番組
を観る計画だったが、本フェスティバルではマスコミ向けの
上映は設定されてらず、一般発売後の残券が回される仕組み
だったようで、人気番組は観られなかった。
 そのためグランプリは見逃してしまったが、すでに他所で
評価が定まっている作品を観るより、真っ新の新作に巡り合
えたことは喜びだった。開催の主旨は重要なものであるし、
次回も案内されるなら、また参加したいと思えるフェスティ
バルだった。



2015年03月22日(日) シグナル

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『シグナル』“The Signal”
2011年“Love”というヴィデオ作品(日本では2013年劇場公
開)で映画祭の監督賞など受賞しているウィリアム・ユーバ
ンク監督による2014年制作の第2作。
マサチューセッツ工科大学に通う男女3人の学生がアメリカ
南西部を旅行中、大学のセキュリティー・システムにハッキ
ングしたノーマッドと名乗る人物の挑戦を受け、その人物の
居所を突き止めに行くことになる。
ところが辿り着いた場所は廃墟で、しかもその廃墟を捜索中
に仲間が姿を消して行く。そして主人公も暗黒に包まれ…。
意識を取り戻した主人公は何かの施設に監禁され、防護服に
身を包んだ人物から、何かの感染を告げられる。
しかしその処遇に疑問を感じた主人公は施設からの脱出を試
み、その過程で仲間たちの運命を知ってしまう。それでも仲
間を助け出し脱出の道を探る主人公たちの前に、思わぬ展開
が待ち受けていた。

出演は、2014年6月紹介『マレフィセント』でエル・ファニ
ングの相手役を務めたブレントン・スウェイツ、2013年から
放送“Bates Motel”でレギュラーのオリヴィア・クック、
2011年6月紹介『スーパー8』がデビュー作というボー・ナ
ップ。それにローレンス・フィッシュバーン。
実は試写会で配られるプレス資料にハリウッドレポーター、
ヴァラエティ、ロサンゼルス・タイムズなど、アメリカでも
著名な映画評が幾つか転載されていたが、その歯切れが実に
悪い。正に意味不明のSF映画というところだろう。
僕も正直に言って物語の展開にはついていけないというか、
果たしてこの作者たちは物語を作ろうとしたのか疑問にも感
じてしまうところだ。特にフィッシュバーンの演じるキャラ
クターが意味不明。
これは、多分上からの命令で動いているだけ、という設定な
のだろうけど、それならさらにその命令者の立場や意図が何
だったのか? その辺が明確でないから上記の映画評のよう
なことになってしまうのだ。
ただまあヴィジュアル的にはかなり凝っていて、そこはSF
映画ファンが今まで観たかったものがかなり本気で描かれて
いると言える。そのレヴェルはシッチェス−カタロニア国際
映画祭で受賞を果たしているくらいのものだ。
「SFは絵だね」と言ったのは、SF翻訳者でアメリカパル
プ雑誌の研究者でもあった故野田昌宏氏だが、近年SF映画
ではCGI=VFXのお蔭で観たい絵はほとんど完璧に映像
化できる時代になっている。
そんな中で本作は、確かに観たい絵は見事に描かれている。
でも、せっかくここまでの絵を観せてくれるのなら、そこに
もう少し物語も描いて欲しかったかな。それが正直な僕の意
見だ。

公開は5月、TOHOシネマズ新宿ほかでのロードショウが予定
されている。
        *         *
 インターネットラジオの「ブルー・レディオ」というサイ
トで、「映画ナイト」というプログラムにゲスト出演させて
いただきました。3月20日の午後8時から1週間放送されて
いますので、よろしかったらお聴きになってください。



2015年03月15日(日) 忘れないと誓ったぼくがいた、スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号、東京 アニメアワードフェスティバル2015

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『忘れないと誓ったぼくがいた』
2004年、第16回日本ファンタジーノベル大賞の受賞作により
デビューした平山瑞穂が2006年に受賞第2作として発表した
同名長編小説の映画化。
その存在が周囲の人から忘れられてしまうという宿命を背負
う少女と、彼女に恋をしてその存在を忘れまいと努力をする
少年の姿を描いた、設定から言うとファンタシーなのかな?
でも、物語の中でも「人の存在は忘れられるもの」というよ
うなセリフが出てくる。
物語の全体はアルツハイマーの裏返しのような設定で、自分
がその症状の親族を持っている身としては、切なさも湧き上
がってくる設定と言える。その辺がこの物語に巧みな陰影を
与えているようにも感じられるし、僕がこの作品に何かを感
じたのは、そんなところもあるのかな。
しかも現実界で忘れられるのは僕自身であって、そんな現実
の哀しさが特に少女の側に投影できるから、僕には本作への
思い入れが激しくなっているのかもしれない。従って評価が
甘くなっているだろうなとは、自分でも思ってしまっている
ところだ。
主人公の少年は高校生。映画監督志望らしくレンタルDVD
で過去の名作などの鑑賞にも余念がない。そんな主人公が期
限ぎりぎりのDVDを返却に店に急いでいるとき少女に遭遇
する。そして少女が落したペンダントを何気なく手渡したと
き、少女は複雑な表情をして姿を消す。
そんな少年と少女は学校で再会する。ところが隣のクラスの
はずの少女に少年は見覚えがなく、実際の隣のクラスの級友
たちも彼女の存在を記憶していない。それでも彼女が気にな
る少年はいろいろな場所に彼女を連れて行くが、行った先々
で彼女の存在は疎まれてしまう。
状況自体は普通ではないが、もしこれが現実に起きたら多分
少年もその周囲の人々の反応もこんなもんだろうな、そんな
感じの物語が展開されて行く。しかも映画の舞台は神奈川県
秦野市で、近隣の平塚市で生まれ育った者としては親しみも
湧いてくるものだった。
因に秦野にはかつて「湘南軌道」という軽便鉄道があって、
昭和初期には廃止されて、今ではその存在も忘れられている
という鉄道マニア的な思い入れも、何となく本作の物語に重
なってしまったものだ。もちろんこれは偶然の産物なのだろ
うけど。

出演は、2011年1月紹介『市民ポリス69』や昨年『百瀬、
こっちを向いて。』で素晴らしい演技を見せてくれた早見あ
かりと、俳優村上淳を父に持つ2世俳優の村上虹郎。他に、
西川喜一、渡辺佑太朗、大沢ひかる、池端レイナ。さらにち
はる、ミッキー・カーチスらが脇を固めている。
脚本と監督は、2009年5月紹介『刺青/背負う女』などの堀
江慶が担当した。
公開は3月28日から、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
ほか、全国順次上映となる。

『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』
1971年にスタートし、現在は『仮面ライダードライブ』が放
送中の長寿テレビ特撮シリーズからの劇場版。
放送が始まった頃の僕は大学生で、SFのファン活動もして
いたからテレビシリーズは観る機会がなかった。それ以降も
まあ食わず嫌いというか、そんな感じでテレビシリーズも劇
場版も観ないでいた。それが今回はいくつかの要件が重なっ
て遂に初鑑賞となったものだ。
そのため通常のテレビシリーズを観ないで鑑賞することには
一抹の不安もあったが、取り敢えず新たな情報は入れずに試
写を鑑賞した。その感想は、これなら部外者でも楽しめるの
ではないかな。ショッカーとの関連性なども基本的な設定を
知っていれば鑑賞に支障はないものだった。
しかも今回の物語はパラレルワールド物ということで、何と
1973年に仮面ライダー1号、2号が倒されてショッカーが世
界を征服しているという状況。そこに至るまでが巻頭で当時
の映像も含めて説明されるから、これはその後のシリーズを
知らない者にも判り易い。
そのショッカー支配の世界では、正義に目覚めたライダーを
ショッカー側に付くライダーが狩っているという状況。しか
も現在放送中のドライブも、寝返ったライダー狩りの急先鋒
として活躍しているのだ。しかし彼の心に迷いが生じ始め、
そこに仮面ライダー3号が現れる。
こうして歴代の仮面ライダーが入り乱れての戦いが展開され
ることになるが、特に最近のライダーはそれぞれ演じた俳優
が登場して様々な変身ポーズやキメ台詞を言ってくれ、これ
はファンには堪らないだろうな。その一方で、仮面ライダー
V3がちょっと卑屈な感じなのも笑えた。
ショッカー側から見た台詞で「仮面ライダーは裏切りの歴史
だった」というのは頷けるところで、この価値観の反転みた
いなものが本作にしっかりとした意味づけをしている。特に
現ライダーのドライブが悪の側からスタートするのも、重要
なポイントだろう。
ただまあ、時間流が変更されたのに前の記憶を持っていると
いうのがSF的にどうなのかという話にはなるが、ジャック
・フィニィの“From Time to Time”にもそういう描写はあ
るし、それは可能性として許容できるものだ。

出演は、竹内涼真、内田理央、吉井怜、片岡鶴太郎らのテレ
ビレギュラー組に加えて、中村優一、半田健人、天野浩成、
倉田てつをらの歴代ライダーが登場。他に井手らっきょ、高
田延彦、そして2008年10月紹介『クローンは故郷をめざす』
などの及川光博が仮面ライダー3号を演じている。
公開は3月21日から、全国ロードショウとなる。
        *         *
 2014年9月紹介“The Congress”の記事でも掲載した東京
アニメアワードフェスティバル2015が2015年3月19日−23日
にTOHOシネマズ日本橋で開催される。
 開催中は「アニメ オブ ザ イヤー」に選考される劇場作
品『アナと雪の女王』『STAND BY ME ドラえもん』『かぐや
姫の物語』と、テレビ作品『ピンポン THE ANIMATION』『シ
ドニアの騎士』に加え、長編及び短編コンペティション部門
や、1939年創設のカナダ国立映画制作庁による作品の上映。
 さらに各種のトークイヴェントなども多数行われる。
 今年は僕もプレス参加を認められており、僕としては長編
コンペティション部門を中心に出来るだけ多くの作品を鑑賞
する予定。またすでに事前イヴェントにも出席させて貰って
おり、それらの報告は再来週にさせて貰うつもりだ。



2015年03月08日(日) ジュピター、Mommy マミー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ジュピター』“Jupiter Ascending”
2012年12月紹介『クラウド・アトラス』のラナ&アンディ・
ウォッシャウスキー姉弟監督による2人単独では2008年5月
紹介『スピード・レーサー』以来となる最新作。
主人公は旧ソ連生まれの女性。木星の輝く夜に生まれ、天文
好きだった父親によってジュピターと名付けられた彼女。し
かし文化人だった父親は粛清に遭い、母親と共に命からがら
渡ったアメリカで育ったものの今の生活は富裕ではない。
一方、そんな彼女の育った地球という惑星とそこに住む人類
を別の目で観ている連中がいた。彼らこそ宇宙の星々に生物
を植え付け、それを収穫することで巨万の富を稼ぐ銀河規模
の一族の末裔だったのだ。
ところが一族の支配者だった女王が亡くなり、3人の兄弟に
よるその跡目争いが勃発した時、何と女王と全く同じ遺伝子
の女性が地球にいることが判明する。もしそれが事実なら、
その女性が一族を率いることになるのだが…
何より一族の利益を優先する長兄は地球での収穫を早めるこ
とで女性の存在を消すことを画策し、次兄はその女性を守る
ため、1人の戦士を地球に派遣する。こうして地球を舞台に
壮絶な戦いが始まる。

出演は、2013年7月紹介『サイド・エフェクト』などのチャ
ニング・テイタムと、昨年12月紹介『余命90分の男』などの
ミラ・クニス。
他に、2012年6月紹介『白雪姫と鏡の女王』などのショーン
・ビーン、同年12月紹介『レ・ミゼラブル』などのエディ・
レッドメインらが脇を固めている。
とにかく支配者一族の力は強大で、戦いによって破壊された
ビルもあっという間に建て直されて目撃者の記憶にも残らな
い。何ていう、如何にもアメコミ映画を意識した感じの設定
が散見される作品。
2月紹介『バードマン』のイニャリトウ監督も、アメコミを
おちょくっているように見せながら、実は興味津々?という
感じがしたが、本作はもっとストレートにアメコミヒーロー
映画への憧憬が感じられた。
しかもウォッシャウスキー姉弟にはSFの素養があるから、
イニャリトウ以上にSF的な考証みたいなものにもしっかり
腐心されていてSF愛が感じられる。これを認めてあげない
のは可哀想という感じもしてくるものだ。
殺伐とした時代にはこんな愛情も欲しくなる。

公開は3月28日から、全国一斉で2D/3Dロードショウと
なる。

『Mommy マミー』“Mommy”
2013年6月20日付「フランス映画祭2013」で紹介『わたしは
ロランス』や、同年10月27日付「第26回東京国際映画祭」で
紹介『トム・アット・ザ・ファーム』などのカナダの俊英グ
ザヴィエ・ドラン監督による2014年の作品。
本作は昨年の第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門
に出品され、ジャン=リュック・ゴダール監督の『さらば、
愛の言葉よ』(昨年10月紹介)と並んで審査員特別賞を受賞
した。
主人公は障害を持った子供を産んだがために夫に捨てられた
女性。シングルマザーとなっても子供をしっかり育てようと
する主人公だが、多動性障害の息子は時として母親に暴力を
ふるうこともある。
そんな母親が隣家の主婦と親しくなったことから物語が動き
始める。その主婦もまた、教職にありながら精神的なストレ
スによって吃音を発症し、その障害のために教壇に立てなく
なっていた。
そして母親が息子の家庭教師を主婦に依頼し、息子も教師を
受け入れて事態はスムースな方向に向かうのだが…
スクリーンのサイズは1.85:1だが、そこに映出される映像
の比率は1:1という実験的な作品。その比率は主人公たち
の心情に連動しており、それが少しだけワイドに広がったり
する。
そのワイドに広がる瞬間は、正に主人公らの溌剌とした心情
を観客も共有できるものだ。しかしそれがワイドに広がった
瞬間、観客は同時にまたこれが狭まってしまうのだろうかと
いう不安にも捉われる。
そんな観客の心理をも見事にコントロールしてくれる作品。
審査員特別賞を同時受賞したゴダールの作品は3Dへの果敢
な挑戦だったが、本作はその挑戦にも匹敵する新たな映像表
現の創造と言えるものだ。

出演は、グザヴィエ・ドラン監督の2009年『マイ・マザー』
と2010年『胸騒ぎの恋人』に出ていたアンヌ・ドルヴァル。
『マイ・マザー』と『わたしはロランス』に出演し、後者で
カンヌ国際映画祭“ある視点”最優秀女優賞に輝いたスザン
ヌ・クレマン。それに『わたしはロランス』に出ていたアン
トワン=オリヴィエ・ピロン。常連とも言える顔触れがしっ
かりとしたアンサンブルを描き出している。
映画は2014年の製作だが、物語の背景は2015年で、そこには
ある架空の法律がキーとして描かれている。そのような法律
を生み出す土壌がカナダにあるのかどうかは不明だが、その
辺の拘りがちょっと気になる作品でもあった。

公開は4月25日から、東京は新宿武蔵野、ヒューマントラス
トシネマ有楽町ほか、全国順次上映となる。



2015年03月01日(日) GOTHAM/ゴッサム、戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『GOTHAM/ゴッサム』“Gotham”
バットマン/ダーク・ナイトの故郷ゴッサム・シティを舞台
に昨年全米でスタートしたテレビ・シリーズ。その第1回、
第2回放送分の試写を鑑賞した。
物語は2005年5月に紹介したクリストファー・ノーラン版を
ほぼ踏襲したもので、特にはその発端のブルース・ウェイン
がまだ少年だった頃に焦点が当てられている。そしてブルー
ス少年が巻き込まれた事件を捜査するGCPD(ゴッサム・
シティ警察)の新人刑事ジェームズ・ゴードンの活躍が中心
に据えられたものだ。
またその周囲には、ウーマンになる以前のセリーナ“キャッ
ト”カイルや、まだギャングの下っ端でしかないオズワルド
“ペンギン”コブルポットも登場する。さらにはリドラーや
ポイズン・アイヴィの若き日の姿などなど。これは、正しく
ファン垂涎の作品と言えそうだ。勿論、ウェイン家の忠実な
執事アルフレッドの存在も欠かせない。
そんなキャラクターたちの間でゴードンは持ち前の正義感を
発揮して事件に立ち向かって行くことになるのだが。最初は
単純な強盗犯によると思われた事件は、やがて背後に潜む巨
悪へと繋がって行く。そこには後にゴードンと深い繋がりを
持つバーバラ・キーンやサラ・エッセンらも登場してくると
いうものだ。
と言っても今回観せて貰えたのは第1回と第2回放送分だけ
なのだが、恐らくはバットマンの登場以前になると思われる
設定の中で、若き日のゴードン刑事が上記のキャラクターた
ちを相手にどのような活躍を見せてくれるものか。はたまた
後にはバットマンの強力な敵となる連中の成長など、これは
本当に楽しみなシリーズになりそうだ。

主演は、2003年から2007年まで続いたドラマ“The O.C.”で
レギュラーだったベン・マッケンジー。
準主役に2014年“The Games Maker”でキーとなる役を演じ
た15歳のデヴィッド・マズーズと、人気ダンスグループのメ
ムバーで2014年版「世界で最も美しい顔100人」の第29位に
選ばれたという15歳のキャムレン・ビコノヴァ。
さらに2011年“Another Earth”という作品に出演のロビン
・ロード・テイラー、2007年2月紹介『ゴーストライダー』
に出ていたというドナル・ローグ。『マトリックス』などの
ジャダ・ピンケット=スミスらが脇を固めている。
第1回、第2回の監督は1995年版『ジャッジ・ドレッド』や
2005年『GOAL!』などのダニー・キャノン。脚本は2005年か
ら2007年まで続いた“Roma”などのブルーノ・ヘラー。2人
は製作総指揮も兼ねている。
シリーズは第1シーズンが22エピソードで製作され、すでに
第2シーズンの継続も決まっているとのこと。その第2シー
ズンにはいよいよジョーカーの登場も噂されているようで、
ますます目が離せないシリーズになりそうだ。

日本での公開は5月から、海外ドラマ専門チャンネルAXN
での独占放送が予定されている。

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』
昨年3月に紹介した「投稿された怪奇現象を検証する」とい
う設定のPOV風フェイクドキュメンタリー作品の続編。
実は1年前に紹介した作品では話が終っていなくて、本作は
その完結編という感じのもの。その開幕は前作の後日談で、
何と前作の公開が大ヒットしてその儲けで機材が揃い、今回
はLive配信するという設定だ。
とは言うものの前作はかなり極限的な状況で終っており、そ
こから平然とこの展開は…、やはり現代の若者のドライさの
表れなのかな。でもまあその修復を目指すというところは、
矛盾はあるけどそんなものなのだろう。
そして本作では新たに謎の人物が現れて、異世界に捉われた
仲間の救出と、危機的状態にあるとされる地球人類を救うた
めに主人公が立ち上がるというお話。さらに今回はPOVで
実時間という設定にもなっている。
ところが謎の人物が仲間を救えるとして指示するミッション
が難関。しかも夜明け前の僅かな時間(実時間89分)に主人公
はそれを完遂できるのか…。という展開で、主人公はかなり
破廉恥な4つのミッションに挑むことになる。

出演は前作に引き続いての大迫茂生、久保山智夏と、監督で
もある白石晃士。それに新たに2011年1月紹介『婚前特急』
などの宇野祥平。さらに前作以前のシリーズの出演者たちが
何人か顔を出しているようだ。
作品は正直に言ってチープなものだが、ここから何かを作り
出そうという意気込みは感じられる。特にVFXはかなり頑
張っており、合成なども巧みでそれなりに見栄えもして良い
感じだった。
お話も、実時間という制約の中で場所移動などにはニヤリと
するものもあり、SFへの理解度はそれなりにあるようにも
感じられた。少なくとも物真似だけのSF映画にはなってい
ない。この辺は好ましくも感じられたところだ。
ただ、お話の展開が何となくギクシャクとしているのが気に
なるところで、それが編集のせいなのか何なのか、その辺で
もう一歩、何処か突き抜けて欲しい感じもした。それは次な
る作品に期待したいものだ。

劇場上映は、東京は渋谷アップリンクにて4月11日と12日に
2日間限定で行われる。
なお物語はエンドロールの後にも続くので、それらを絶対に
見逃さないようにして欲しい。そこには特別なプレゼントが
用意されているものだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二