井口健二のOn the Production
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2013年12月29日(日) 未体験ゾーンの映画たち2014、スティーラーズ、僕は友達が少ない、猫侍、ハロー!純一+BEST10

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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「未体験ゾーンの映画たち2014」
今年度分では今年1月に『モスキートマン』と『グレイブ・
エンカウンターズ2』を紹介した映画シリーズの2014年版。
年明けに東京はヒューマントラストシネマ渋谷と大阪はシネ
・リーブル梅田にて開催されるシリーズで、今回は28作品が
上映される中から5本をサンプルDVDで鑑賞した。
『スリーデイズ・ボディ』“Contracted”
パーティで行きずりの男と関係を持った女性の身体に異変が
起き始める。人間がゾンビになるまでの変化が克明に描かれ
た作品。ゾンビブームの中で作品の着眼点は面白いが、実は
極めて真面目に描かれた作品で、逆にそこまで真面目に撮る
ものかどうかが疑問になった。

脚本・監督のエリック・イングランドは、2010年頃から同種
の作品を作り続けているようだ。1月18日から公開。
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ2』
              “I Spit on Your Grave 2”
2012年4月の『HELL』紹介の際にタイトルだけ記載した
『発情アニマル』からリメイクされた2011年公開作の続編。
オリジナルはジャングルで陵辱された女性のサヴァイヴァル
&復讐劇で多分リメイクも同様と思われるが、本作の舞台は
東欧。ニューヨークで拉致され、雪の舞う東欧の街で監禁、
陵辱された女性が、壮絶な復讐劇を展開する。
ご都合主義な部分も多くていやはやの内容だが、東欧の街の
風景も珍しく、エンターテインメントとしては楽しめた。

監督はリメイク作も手掛けたスティーヴン・M・モンロー。
主演は昨年『禁断領域 ドレイメン』という作品も公開され
ているジェマ・ダレンダー。1月19日から公開。
『ミッドナイトチェイス』“Taped”
離婚の危機を迎えているオランダ人の夫婦が、2人の思い出
の地チリに旅をして関係の修復を試みる。しかし思い通りに
ならないまま帰路につこうとしたとき、2人は警官が丸腰の
市民を射殺する現場を目撃、その様子をヴィデオに撮影して
しまう。こうして2人の逃亡が始まるが…
映画の制作者はチリ警察に特別の恨みでもあるかのような、
飛んでもない横暴さが描かれる。POV風の仕掛けもあり、
かなり凝った構成はそれなりによく考えられていた。

脚本・監督のディエデリック・ファン・ローイェンはテレビ
シリーズも多く手掛けるベテランのようだ。主演のバリー・
アツマとスーザン・ヴィセールにもテレビの作品歴が多かっ
た。1月25日から公開。
『母なる復讐』“돈 크라이 마미”
離婚して母子家庭となった一家の1人娘が転校先の高校で同
級生から集団暴行される。そして母親は裁判所に訴えるが、
少年法に守られた犯人たちは微罪に終ってしまう。そんな虚
しさを抱える母親は、娘の携帯に送られてきた暴行現場を撮
影した映像を発見し…
法の下での不平等はどこの国にもあるようで、そんな社会性
も訴えた作品。正直には、このシリーズで上映して良いのか
とも考えてしまうほどの問題作だった。

出演は2010年10月紹介『黒く濁る村』などのユソン、2012年
5月紹介『サニー 永遠の仲間たち』などのナム・ボラ。さ
らに元U-KISSのドンホ、2002年3月紹介『友へ チング』な
どのユ・オソンらが脇を固めている。1月26日から公開。
『スキンウォーカー・プロジェクト』“Skinwalker Ranch”
ユタ州の牧場を舞台に、10歳の少年の失踪事件を発端とする
超常現象の謎を解明しようとする研究者たちの様子を描く。
その間には研究者間や家族との不和なども描かれる典型的な
POV作品。ただし超常現象は突然画面を横切る少年の姿や
ポルターガイスト現象などがてんこ盛りで、それぞれは楽し
めた。そして結末は…、スクリーンで観たらそれなりの迫力
かな。

出演は、2012年10月紹介『96時間リベンジ』に出ていたと
いうジョン・グライスと、テレビの出演が多いカイル・デイ
ヴィス、本作の監督でもあるデヴィン・マッギン。因にデイ
ヴィスとマッギンは、先に“The Last Lovecraft: Relic of
Cthulhu”という作品でも共演しているようだ。2月15日か
ら公開。
なお「未体験ゾーンの映画たち2014」は3月まで開催さ
れ、この他にも数多くの作品の上映が予定されている。

『スティーラーズ』“Pawn Shop Chronicles”
今年11月30日に自動車事故で他界したハリウッド俳優ポール
・ウォーカーが自らプロデューサーも務めて主演したかなり
飛んだところもあるコメディ作品。
物語は、pawnshop=質屋を中心にそれぞれ‘The Shotgun’
‘The Ring’‘The Medallion’というサブタイトルの付け
られた3つのエピソードが、相互に微妙な絡み合いを見せな
がら描かれる。
それは、これから強盗を働こうというのにショットガンを質
入れしてしまった男の話や、6年前に行方不明になった妻に
贈った結婚指輪を通り掛りの質屋で見つけた男の話。それに
プレスリーの扮装でドサ回りをしている男が名入りのメダル
を質入れする話など、かなり微妙な話が綴られる。
しかもそれぞれのエピソードには違法薬物の売人や猟奇拉致
犯など、とてもじゃないけど真っ当ではない連中が絡んで、
正しくぶっ飛んだ感じの物語が展開されて行く。それに物語
の時間軸もあやふやで、まあ何と言うかシュールな作品が描
かれているものだ。

共演は、マット・ディロン、ブレンダン・フレイザー、ヴィ
ンセント・ドノフリオ、トーマス・ジェーン、イライジャ・
ウッド。かなり渋い顔ぶれが並んでいるが、中でウッド出演
のエピソードが‘The Ring’なのは洒落のつもりなのかな。
脚本は、2011年10月紹介『ウォーキング・デッド』のレギュ
ラー出演俳優でもあるアダム・ミナロヴィッチ。監督はポー
ル・ウォーカーが主演した2008年8月紹介『ワイルド・バレ
ット』などのウェイン・クライマーが担当している。
日本での鑑賞制限はR15+、アメリカでもRレイトの作品で、
日本の場合は理由は発表されないが、アメリカでの理由には
暴力、性的要素、裸体の映像、悪質な用語の頻出、薬物使用
となっており、制限要素のてんこ盛りという感じのものだ。
ただしそれは、大人の目で見ると際どくはあっても納得でき
る範囲で描写されているもので、観ていて不愉快になるもの
ではなかった。まあ上品な作品とは言えないが、映画として
は許容できるし、エンターテインメントとして楽しめる作品
だったと言える。

公開は1月18日から、東京はシネマート六本木、大阪はシネ
マート心斎橋他にて、全国順次ロードショウとなる。
なお本作は、アメリカでは限定公開のみで一般には未公開と
なっている。従って日本が先行公開とされているものだが、
一部に見られるポール・ウォーカーの死去で緊急公開という
紹介は誤りで、公開日は事故以前に発表されていた。
今後にアメリカでの公開が行われるときは、正にそうなって
しまいそうだが…。因にウォーカーの遺作では、もう1本の
“Brick Mansions”という作品が完成済みとのこと。ただし
“Fast & Furious 7”の去就は不明のようだ。


『僕は友達が少ない』
シリーズ累計発行部数が622万部と言われ、すでにアニメ、
コミックス、ドラマCD、ゲーム、WEBラジオなどにも展開
されている平坂読原作ライトノヴェルの実写映画化。
主人公は、父親は日本人、母親がイギリス人で、自毛が金髪
という高校生男子。その金髪故に常に苛めの対象で転校を繰
り返している。そんな主人公が新たな学校にやってくるとこ
ろから物語は始まる。
ところが彼が教室に忘れたケータイを取りに戻った時、彼は
教室にいた女子が誰もいない方に向ってしきりと話し掛けて
いるのを目撃してしまう。そして彼女に向って自分もいつも
友達がいなかったと心情を吐露した主人公だったが…
その女子は隣人部なる部活を発足。主人公を勝手に第1号部
員にしてしまう。そんな隣人部には、いつも男子にチヤホヤ
されているが友達はいないというお嬢様や、メイド服の似合
う美少年、天才発明家の女子などが集まり始める。
そして発明家の女子が部室に持ち込んだ装置が、飛んでもな
い騒動を引き起こす。そんな中で、「友達とは何か」という
青春の究極の命題が問われて行く。

出演は、2011年1月紹介『ランウェイ☆ビート』などの瀬戸
康史、今年9月紹介『ケンとメリー』などの北乃きい。共演
は、5月紹介『ジェリーフィッシュ』などの大谷澪、2012年
『ジョーカーゲーム』などの高月彩良、2011年「ミスマガジ
ン」コンテストでセミファイナリストの神定まお。
さらにCM「第11代早稲田塾ガール」の久保田紗友、2008年
3月紹介『僕の彼女はサイボーグ』に出ていたという子役の
山田萌々香。他に、栗原類、渡辺大、石原良純らが脇を固め
ている。
映画の物語は、平坂読が新たに書き下ろした原案に基づくも
ので、脚本と監督は、今年3月紹介『監禁探偵』などの及川
拓郎が担当。因に監督は、原作ライトノヴェルの愛読者なの
だそうだ。
タイトルを見て、青春のウジウジした話だと嫌だなと思いな
がら観に行ったが、北乃演じる女子生徒がいきなり、いるか
いないか判らないイマジナリー・フレンドを、「エア友達」
と紹介したのに飛ばされてしまった。
そして後半の展開は、正直に言ってこれは一昔前なら小説の
セオリーではないと思うものだが、これが認められて、且つ
ベストセラーになる評価なのだから。これこそSFの拡散と
浸透なのだろう。

なお撮影には、人気アニメ「けいおん!」のモデルにもなっ
たという滋賀県豊郷町に建つ小学校のレトロな旧校舎が使用
され、物語の雰囲気を盛り上げている。また撮影は地元彦根
市の商店街などの全面協力で行われたようだ。
公開は、2月1日からのロードショウが予定されている。

『猫侍』
全国のローカル局やBSフジなどで放送されている北村一輝
主演ドラマの映画版。
時は幕末。かつては百人斬りと言われて恐れられたものの、
今では長屋暮らしの貧乏浪人という主人公の許に暗殺の依頼
が舞い込む。そのターゲットは、依頼者に敵対する組の親分
…ではなくてその飼い猫。
実はその時代は社会が猫派と犬派に2分され、折しも奉行は
猫派。その愛猫と親分の猫の縁談が進められ、もしそれが成
立すると勢力図が一気に猫派の組に傾く可能性があった。そ
こでその猫の暗殺が依頼されたのだ。
その依頼に最初は渋ったものの、背に腹は変えられず金のた
め引き受けた主人公は親分の屋敷に潜入。用心棒に守られた
猫の部屋にも到達して、いざ猫に一撃を加えんとする。とこ
ろがそれはあまりにも愛らしい牝猫で…。
物語はドラマ版とは少し違うようだが、主人公が猫侍になる
までを事の発端から説き直し、映画だけの観客にも判り易く
描かれている。

出演は、ドラマ版と同じく主人公を北村一輝、彼が故郷に残
した妻子を横山めぐみと岩田月花が演じる他、猫の玉乃丞も
同じ白猫が演じているようだ。
そして映画版には、蓮佛美沙子、浅利陽介、戸次重幸、洞口
依子、温水洋一、津田寛治、斉藤洋介、小野寺昭、寺脇康文
らが登場して、それなりスケールで物語が描かれている。
脚本はドラマ版も手掛ける永森裕二、2011年8月紹介『タナ
トス』などの城定秀夫、それに本作の監督も務める今年8月
紹介『アルカナ』などの山口義高。監督は第2作ということ
になる。
また主題歌は、真心ブラザースが書き下ろしで提供している
ようだ。
制作配給のAMGエンターテインメント株式会社は、2012年
9月紹介『くろねこルーシー』なども手掛けた会社で、その
路線での新作と言えるものだ。それを日光江戸村の全面協力
を得て時代劇にしたというもの。
つまり時代劇とは言っても、舞台背景は江戸村がしっかりと
ある訳で、その中で今までと同様のシリーズが作られている
という感じかな。それは作り手たちも手馴れたものになって
いるようだ。

公開は3月1日から、東京はシネマート新宿の他、全国ロー
ドショウとなる。
なお本作の公開は3月1日からだが、実は主演の北村一輝に
はちょうどその1ヶ月前の2月1日にも『KILLERS/キラー
ズ』という主演作の公開がある。その試写は未見だが、本作
の試写の直前に『KILLERS/キラーズ』の記者会見があり、
その強烈な内容に驚かされた。
正しく1ヶ月の差で北村一輝の異なる2面が観られそうで、
それも面白いところだ。


『ハロー!純一』
2011年9月紹介『スマグラー〜おまえの未来を運べ』などの
石井克人監督が、子供たちに映画を観てもらいたいという意
図で、小学生以下は入場料0円で公開する作品。
主人公はちょっと内気な小学生の男子。ガキ大将のいる仲間
とはいつも皆のランドセルを運ばされているが、特にいじめ
という風ではなさそうだ。そして主人公は、憧れの女子から
借りた消しゴムを返せないるのが気掛かりだった。
そんな主人公たちのクラスに、教育実習生だが巻き髪にミニ
スカート、ピンヒールという出で立ちのアンナ先生がやって
くる。その先生は着任早々生徒の前で男のことを延々愚痴る
など、飛んでもない行動で生徒たちを驚かせる。
ところがある日、仲間の1人が万引きを見つかり、怒る店員
をアンナ先生が一緒に謝って収めてくれる。そして万引きの
理由が苦労しているお母さんのためと聞いた先生は、「何か
別の方法でお母さんを喜ばせたら?」と提案する。
そこで知恵を絞った仲間たちは、近所のガレージでバンドを
練習してパーティを開き、お母さんを招待して演奏をプレゼ
ントしようとを考えるが…。

出演は、アンナ先生役に2011年7月紹介『一命』などの満島
ひかり。生徒役を2010年12月紹介『まほろ駅前多田便利軒』
に出ていたという加部亜門、2009年6月紹介『のんちゃんの
り弁』などの佐々木りお、『八重の桜』に出演の大嶋康太、
劇団ひまわりの堀田耀平。
他に、森下能幸、我修院達也、池脇千鶴、津田寛治らが脇を
固めている。なお監督と脚本は、石井克人の他に石井が主宰
する役者養成ワークショップで学んだ芳岡篤史、川口花乃子
が共同て担当している。
映画の始まりに登場する子供たちの口喧嘩のシーンが、大人
の目ではかなりうるさくて参ってしまった。しかし最近試写
の間の移動で地下鉄に乗ると下校の子供たちの会話が正しく
この通りで、これはかなりリアルなものと言える。
そんなリアルさの中に、ある種の子供たちの夢かもしれない
理想の先生と、バンド演奏を成功させるという夢の実現が描
かれ、そこには苦労している母親の喜ぶ姿もあって、これは
理想的な児童映画が描かれている作品だった。
なお満島には、映画の途中で明らかに感動で声を詰まらせて
いるシーンがあって、それだけこの作品に対する思い入れも
感じられたが、さらに「アンナ先生」名義でエンディングの
主題歌まで自分で吹き込んでいる。
実は満島は、元はアイドルグループ「Folder5」の一員で、
2008年11月紹介『プライド』の記者会見では、僕がした質問
に「人前で歌うのは無理」と答えていたものだが、今回主題
歌を歌っているのも作品に対する気持ちなのだろう。

公開は2月15日から、東京は新宿バルト9他、全国のイオン
シネマ、ティ・ジョイ系列ほかの映画館で、小学生以下0円
ロードショウされる。ただし0円は大人同伴の時に限られる
ようだ。
        *         *
年の最後に、僕のベスト10を選んでおきます。
対象は、2013年に日本で公開されたSF/ファンタシー作品
で、一般映画については割愛します。
1.オブリビオン(4月30日及び5月10日紹介)
2.クラウド・アトラス(2012年12月9日紹介)
3.ブランカニエベス(11月3日紹介)
4.エリジウム(8月20日紹介)
5.サカサマのパテマ(8月30日紹介)
6.グランド・イリュージョン(10月6日紹介)
7.パシフィック・リム(7月10日紹介)
8.オーガストウォーズ(5月30日紹介)
9.ウォーム・ボディーズ(6月10日紹介)
10.メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー(10月20日紹介)
番外 ダ・ヴィンチ・デーモン(12月1日紹介)
2013年は東京国際映画祭で鑑賞した30作品を含め、試写会で
561作品を鑑賞、その内の332作品を曲がりなりにもサイトで
紹介した。上記のベスト10は、多分その中で100本以上ある
と思われるSF/ファンタシー作品の中から選んだものだ。
第1位は、監督の『2001年宇宙の旅』への傾倒ぶりも嬉しか
ったもので、そのオマージュ的な内容も含め文句無かった。
第2位も、監督の記者会見で「トム・ハンクスの家に挨拶に
行ったら、壁に『2001年宇宙の旅』のポスターが貼ってあっ
た」などの証言があって嬉しかったものだ。
第3位は、モノクロ・サイレントの映像はそれなりのものだ
ったが、『白雪姫』を換骨奪胎した物語が気に入った。
第4位は、シド・ミードの宇宙ステーションが映像で観られ
たことに感激した。
第5位は、先に同趣のハリウッド製の実写作品もあったが、
SFとしての整合性が日本のアニメ作品の方がしっかりして
いた。
第6位は、実は飛んでもない裏が潜んでいる感じの物語で、
それを意識した字幕の翻訳も気に入った。
第7位は、怪獣や巨大ロボットなど、オタク作品の頂点とし
て長く記憶に留められる作品になりそうだ。
第8位は、悲劇性の高い実際の戦争を、こんな風にSFにし
てしまう勇気というか、心情が素晴らしく感じられた。
第9位は、他にも何本かあったゾンビ物の中で、この作品が
1番気に入ったものだ。なお、テレビシリーズの『ウォーキ
ング・デッド:シーズン3』(9月29日紹介)も相変わらず
見事だった。
第10位は、コンサートの記録作品も何本か観たが、その中で
の出色の作品だった。3D映画としても素晴らしかった。
番外は、テレビシリーズのまだシーズン1のみの鑑賞だった
が、展開の面白さやこれから先の壮大なヴィジョンが楽しみ
になる作品だった。



2013年12月22日(日) なんちゃって家族、ウォルト・ディズニーの約束、大捜査の女/ジ・エレクション、ゲームセンターCX、ホビット2、ゲノムハザード

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『なんちゃって家族』“We're the Millers”
『ハリー・ポッター』シリーズの製作者デイヴィッド・ヘイ
マンと、『ハングオーバー!』シリーズの製作者クリス・ベ
ンダーが手を組んだかなり危ないハリウッド・コメディ。
主人公は、学生時代の生活から抜け出せないまま、お気楽な
マリファナの売人として生きてきた男。ところが元締めへの
支払金を奪われ、その返済にメキシコからの運び屋を命じら
れる。しかしそれは見付かれば死刑もある重罪だ。
そこで彼が考えたのは、独立記念日のバカンスでメキシコ旅
行を楽しんだ家族という設定。そのため彼は、仕事にあぶれ
たストリッパーとホームレスの若い女、それに家族に捨てら
れた少年に話を持ち掛け、応急の家族を仕立てる。
こうしてメキシコのマリファナ工場に到着した主人公たちは
約束の荷物を受け取るが、それは2tはあろうかという大量
のもの。その荷物を積んだ大型キャンピングカーで国境に向
かうが…。そこには元締めの悪企みも絡んでいた。
これに仮の家族の中のドタバタや、麻薬捜査官なども登場し
てかなり危ないロードムーヴィ風コメディが展開される。

出演は、2011年9月紹介『モンスター上司』などのジェイス
ン・サダイキスと、『モンスター上司』でも共演のジェニフ
ァー・アニストン、さらに2011年9月紹介『スクリーム4』
などのエマ・ロバーツ、2010年8月紹介『リトル・ランボー
ズ』などのウィル・ポールター。
他に『ハングオーバー』シリーズのエド・エルムズ、2005年
7月紹介『シン・シティ』に出演のニック・オファーマン、
2003年6月紹介『10日間で男を上手にフル方法』に出演のキ
ャスリン・ハーン、2009年11月紹介『Disney's クリスマス
・キャロル』に出演のモリー・クインらが脇を固めている。
監督は、2004年『ドッジボール』を全米No.1ヒットに導いた
ローソン・マーシャル・サーバー。
原案と脚本は2005年のヒットコメディ“Wedding Crashers”
を手掛けたボブ・フィッシャーとスティーヴ・フェイバー。
さらに脚本には、2012年7月紹介『空飛ぶペンギン』のショ
ーン・アンダース&ジョン・モリスが参加している。
日本でのレーティングはR-15になるようだが、理由は麻薬の
扱いのせいなのかな? それ以外には特に問題になるような
シーンはなかったと思う。アニストンのストリップシーンは
あるが…。
ところで最近のアメリカ映画のコメディは、バカバカしさの
スケールが大きくなった反面、何故それをするかという理由
付が希薄で理解不能になることが多い。その点で『ハングオ
ーバー』の第1作、第2作では、先に結果を提示することで
納得できるシステムが構築されていた。
しかし第3作はそのシステムが蔑ろにされ、再び意味不明の
コメディになっていたもので、本作はその点が不安だった。
しかし本作は、ある意味古き良き時代のコメディにも通じる
オーソドックスなもので、その点は安心して観ていられる作
品だった。テーマは麻薬ではあるが…

公開は1月25日から、全国一斉のロードショウとなる。

『ウォルト・ディズニーの約束』“Saving Mr.Banks”
アカデミー賞の最多受賞者であるウォルト・ディズニーが、
1965年米アカデミー賞で主演女優賞他5部門の受賞作を製作
した際の秘話を描いた作品。
映画は2つの物語を並行に進めて行く。その1つ目は20世紀
初頭のオーストラリアが舞台。イギリスからの移住者の一家
に生まれた少女は父親に愛されて育つが、銀行に勤めるその
父親はアルコール依存症で生活は苦しかった。
そしてもう1つの物語は、1961年ロンドンに始まる。作家の
P.L.トラヴァースは自作の映画化の許諾に迷い、その視察で
ハリウッドに赴く。そこには運転手付きリムジンとビバリー
ヒルズホテルのスウィートルームが用意されていた。
こうして作家は自作『メアリー・ポピンズ』の映画化に携わ
ることになるが…。それは彼女自身が物語に込めた思いと、
ウォルト・ディズニーの映画化に掛ける思いのぶつかり合い
になってしまう。
そんな自作の映画化に拒否反応を示す作家を、ディズニーは
如何にして説得したか。映画はその点を中心に描いて行く。
しかしそこには作家の過去に纏わる厳しい現実の物語が隠さ
れていた。

出演は、2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』などのエマ
・トムプスンと、2012年12月紹介『クラウド・アトラス』な
どのトム・ハンクス。他に、ポール・ジアマッティ、コリン
・ファレル、ジェイスン・シュワルツマン、キャシー・ベイ
カーらが脇を固めている。
監督は、2010年1月紹介『しあわせの隠れ場所』などのジョ
ン・リー・ハンコック。
脚本は、本作の製作も務めるイアン・コリーが2002年に発表
したドキュメンタリー“The Shadow of Mary Poppins”を基
に、オーストラリア人のテレビ脚本家スー・スミスと、SF
テレビドラマ『Terra Nova』などのケリー・マーセルが担当
している。
ディズニー映画の『メリー・ポピンズ』は、子供の頃に観て
当時の配給会社に手紙を書いたらプレスブックが送られてき
た。そのプレスは今でも大事に取ってある。そんな個人的な
思い出もある作品だが、その製作にこのような秘話があった
とは思ってもみなかった。
そんな秘話を引き出すウォルト・ディズニーは、ハンクスの
演じる姿が子供の頃に観ていたテレビ『ディズニーランド』
そのままで、特に顔が似ている訳でもないのに、その見事な
演技には驚かされた。
しかもそのディズニーはかなり気まぐれで、ちょっと嫌味な
部分も描かれている。さらにその中では一瞬タバコを吸って
いるシーンが登場してこれは何かとも思わされた。だが実は
ディズニーは、この2年後の1966年に肺癌で死去しており、
タバコのシーンにはその意味も込められていたようだ。
そんな事実もしっかりと描かれた作品になっていた。

公開は3月21日から、全国一斉のロードショウとなる。
本作を観終った時に『メリー・ポピンズ』をたまらなく観た
くなった。でもいま観たら多分映画の後半は涙で画面が見え
なくなってしまうだろう。それは間違いないと思われる作品
だった。


『大捜査の女』“大搜查之女”
『ジ・エレクション仁義なき黒社会』“飛砂風中轉”
2011年12月紹介『三国志英傑伝・関羽』や2002年『インファ
ナル・アフェア』などの脚本・監督を手掛けたアラン・マッ
ク、フェリックス・チョンによる2008年と2010年の作品。
1本目は、香港在住で非合法の石油密輸で財を成していた男
の一人息子が何者かに誘拐されるお話。
それに対して男は配下の組織を使い自力で解決しようとする
が、この機に組織の解明を狙う香港警察も乗り出してくる。
その陣頭指揮を執るのは、香港警察一の敏腕と言われる女性
主任警部。しかし彼女は妊娠3ヶ月の身重だった。
ハリウッドリメイクもされた『インファナル・アフェア』は
香港ノアールの集大成とも言われる作品だが、本作は同じく
香港の裏社会を描いてはいるものの、味付けにはユーモアも
あって、どちらかと言うと少し軽めのエンターテインメント
に仕上げられている。しかもそのユーモアのバランスが巧み
で心地よく楽しめる作品になっていた。

出演は、2005年9月紹介『イエスタデイ、ワンスモア』など
のサミー・チェン。実は前作の後で長期の病気療養中だった
女優の主演復帰作とのことだ。共演は2011年4月紹介『ドリ
ーム・ホーム』などのイーソン・チャン。
他に、2012年12月紹介『奪命金』などのリッチー・レン、同
11月紹介『ブラッド・ウェポン』などのリウ・カイチー、さ
らに2010年3月紹介『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』など
のミシェル・イエらが脇を固めている。
2本目は、2006年9月紹介『エレクション“黒社會”』と同
じく香港・黒社会のトップの座を巡る抗争を描くお話。
主人公は家計を助けるために黒社会に入った青年。それから
20年が経ち彼は組織の会長の右腕となっていた。ところがそ
の会長が引退することになり、会長は主人公を後釜に推薦す
る。しかし本人には全くその気がない。
一方、黒社会の名家と言われる一家の息子が20年の刑期を終
えて出所してくる。その一家の母親は息子に会長選挙出馬を
願うが、その息子は刑務所での勉学を踏まえて大学進学を希
望していた。
これに会長職の象徴である「竜頭棍」の行方なども絡んで、
過去の作品へのオマージュやパロディもある物語が展開され
る。このユーモアのバランスも巧みで心地よく楽しめる作品
になっていた。

出演は、1990年代香港ノアールの大ヒット作『欲望の街』以
来の再共演となる今年11月紹介『楊家将』などのイーキン・
チェンと、2005年6月紹介『頭文字D』などのジョーダン・
チャン。
他に、2010年12月紹介『カンフーサイボーグ』などのアレッ
クス・フォン、今年日本公開された『李小龍マイブラザー』
などのキャンディス・ユー、さらにミシェル・イエらが脇を
固めている。
公開は1月11日から、東京はシネマート六本木での独占ロー
ドショウとなる。なお2本同時公開だが、2本立てではない
ようだ。


『ゲームセンターCX THE MOVIE』
2003年からフジテレビCS放送でオンエアされているゲーム
ヴァラエティ番組の10周年記念映画版。
番組は、1980年代のファミコンゲームをお笑い芸人<よゐこ>
の有野晋哉が番組収録の12時間でクリアするというもの。そ
の中で番組中では2度の挑戦に失敗し、最後は2006年に東京
の一ツ橋ホールで公開収録が行われたという超難易度ゲーム
「マイティボンジャック」攻略が映画の中心となる。
従って作品は、裏テクなども駆使したゲーム攻略のドキュメ
ンタリーという感じのものだが、それだけでは成立しないと
考えたのか、映画ではその1986年当時を再現した少年ドラマ
が添えられている。そのドラマでは当時の人気漫画や社会風
俗なども再現され、それに少し仕掛けも設けられている。

出演は、ドキュメンタリーの部分では有野の他に番組のAD
らが助っ人として登場する。それは当然2006年に収録のもの
なので、当時の番組を見ていた人には懐かしい顔にもなって
いるものだ。
そして少年ドラマ部分では、
2011年3月紹介『エクレール・
お菓子放浪記』などの吉井一肇、2012年『貞子3D』などの
平祐奈。他にゲームメーカーのナムコやセガなどの関係者の
特別出演もあったようだ。
脚本はテレビ版も手掛けていた酒井健作。監督は2011年9月
紹介『RAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ』な
どの蔵方政俊が担当している。
という本作だが、メインのゲーム攻略の部分は、昔はゲーム
愛好者でもあった自分には面白く、また懐かしくも感じられ
た。ただしこの部分は、当時の放送体制の関係なのか4:3
の標準画質で画像は芳しくなかった。
そのこともあってのドラマ部分の挿入とも思われるが、実は
これが少し物足りない。物語は「マイティボンジャック」の
カセットを巡る子供間のトラブルなどだが、これが当たり前
すぎる感じなのだ。
それは当時は確かに社会問題化したものでもあって、それを
描くことの意味は判るが、正直には今さらそれを蒸し返され
てもとも思ってしまう。それよりもっとゲームに密着した物
語を描けなかったかと思うところだ。
特に後半の仕掛けは、このため有野も7kgのダイエットをす
るなど頑張ったようだが、ここにもう少し膨らみがあっても
良かったのではないか。あるいはゲームとの絡みをもっと強
く描いて欲しかった。
具体的には、有野がプレイしているゲームとドラマとのシン
クロで、それは多分ドラマ後半での子供同士の遭遇やワープ
ゾーンの状況などがそのつもりなのだろうが、もっとリアル
にその興奮を伝えて欲しかった。
勿論、これ以上やるとドキュメンタリーとのバランスが悪く
なると危惧したのだろうが、現状ではあまりに付け足し感が
強い。その割には長く感じられもして、結局バランスが悪い
ように感じられた。
アイデアはこれで良いと思うが、もう少し工夫が欲しかった
ところだ。

公開は、来年2月に全国ロードショウと紹介されていた。

『ホビット・竜に奪われた王国』
        “The Hobbit: The Desolation of Smaug”
ピーター・ジャクスン監督による昨年12月紹介『ホビット・
思いがけない冒険』の続き。
3部作が予定されているシリーズの第2作では、前作に続く
冒険の中での熊人ビヨルンとの邂逅や闇の森、湖の町エスガ
ロス、さらに竜の巣でのビルボの活躍などが描かれる。その
物語はほぼ原作に沿っているが、前作と同様に本作でも色々
と原作にはないサブストーリーが展開される。
その中でも今回の目玉は『LOTR』の主要人物の1人レゴ
ラスの登場で、闇の森での大活躍はアクション映画としての
本作をかなりの部分で支えている。実際に本作は、前作の展
開が『LOTR』に似すぎている感じだったのを脱却して、
特に個人戦のアクションが見事に描かれるものだ。
そして中つ国を舞台に、ホビット、ドワーフ、エルフ、トロ
ル、ゴブリンたちと人間、魔法使いらが繰り広げる物語の中
に、顕れ始めるネクロマンサーの影が後の『LOTR』への
繋がりを強めて行く。

出演は、イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、リ
チャード・アーミティッジ、ジェイムズ・ネスビットらが前
作に引き続いて登場の他に、オーランド・ブルームが『LO
TR』から参加。
さらに2011年10月紹介『リアル・スティール』などのエヴァ
ンジェリン・リリー、同年11月紹介『インモータルズ−神々
の闘い−』などのルーク・エヴァンス、2012年1月紹介『シ
ャーロック・ホームズ:シャドウ・ゲーム』などのスティー
ヴン・フライらが脇を固めている。
そして2012年5月紹介『SHERLOCK』や今年6月紹介『スター
・トレック イントゥ・ダークネス』などのベネディクト・
カンバーバッチが2つの重要な役柄で、本作と次回の第3作
にも登場するようだ。
原作は児童文学として書かれたものだが、今回の映画化では
先の『LOTR』を堪能した観客が存分に楽しめるように作
られている。それは別段児童が観ても害のあるものではない
が、成人が観ればさらに深く楽しめるというところだ。
ただし上にも書いたように、映像などの面で『LOTR』に
似通ってしまうのは否めないが、本作では湖の町エスガロス
など新たに登場する風景もあり、それは中つ国を主人公たち
と共に旅する仲間として楽しめるものだ。
それに個人戦のアクションは前作以上にスピード感のあるも
のだった。

公開は来年2月22日から、前作同様2D/3D、Imaxで行われ、
3D上映の一部ではハイフレームレート(HFR)の上映も
実施される。
そして第3作は2014年12月17日から、日米を含め世界同日公
開が予定されている。カンバーバッチの役柄がどうなるか、
それが興味津々だ。


『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』“無名人”
1998年の第15回サントリー・ミステリー大賞で読者賞を受賞
した司城志朗原作小説を、韓国のキム・ソンス監督が舞台を
日本に置いたままで脚色、映画化した作品。
石神武人はデザイン会社に勤めるごく普通の会社員。ところ
がある日、彼が自宅のマンションに帰宅すると妻が何者かに
惨殺されており、さらにそこに架かってきた電話の声は妻の
ものだった。
しかもその直後に玄関のチャイムが鳴り、その玄関口にいた
のは警察を名告る2人の黒スーツの男。そして石神が事情を
説明しようとすると…、室内にあったはずの妻の死体と血痕
が消えていた。
それでも男たちは石神を連行するとして車に乗せるが、そこ
で彼らは警察でないことが判明、石神は間一髪脱出する。さ
らに通りかかった車の女性に助けを求めた石神は、放送記者
だというその韓国人女性と事件の解明に乗り出す。
だが、解明をするにも石神自身の記憶が極めた曖昧だという
事実に突き当たる。その一方で石神の口からはデザイナーが
知るはずのない特殊な医薬品の名前などが飛び出してくる。
果たして石神は何者か? そして事件の真相は…

出演は、2011年10月紹介『カット』などの西島秀俊、2004年
10月紹介『誰にでも秘密がある』などのキム・ヒョンジン。
さらに2006年4月紹介『ゆれる』などの真木よう子、2012年
1月紹介『マイウェイ』などの浜田学、2009年11月紹介『パ
レード』などの中村ゆり、Eテレ「ハングル講座」でMCを
務めるパク・トンハ。それに伊武雅刀らが脇を固めている。
題名から判るように物語は先端科学を背景に置いたもので、
その意味ではSFの範疇に入る作品と言える。しかし一方で
原作はミステリーの賞を受賞した作品であり、物語はSFの
興味よりは謎解きが主眼となっているものだ。
で、まあ以下はそこに対する論評というか注文になってしま
うのだが…。この映画を観ていて、少なくとも最初の部分で
は主人公である石神に対する思い入れが、途中で全く消えて
しまうのが、衝撃というか恐ろしく感じられた。
SFファンの立場で言うと、本作のテーマは『アルジャーノ
ンに花束を』に通じるものだと思う。従ってその中での主人
公の精神的な葛藤は、ちゃんと描けば素晴らしい物語になる
はずのものだ。
しかし本作ではそのテーマは謎解きの道具立ての1つでしか
なく、当然その状況になっても主人公には葛藤などもなく、
ただ運命として受け入れられてしまう。それがSFファンと
しては物足りなく感じられた。
しかし作品の成立から見ればそれは致し方ないものであり、
まあSF作家が先にこのアイデアに思い至らなかったことを
残念とするしかない。

公開は1月24日から、東京はTOHOシネマズ六本木の他、全国
ロードショウとなる。



2013年12月15日(日) ハル・ハートリー、黒執事、神奈川芸術大学映像科研究室、ゼウスの法廷、マイティ・ソー2、トップ・オブ・ザ・レイク、オッド・トーマス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ハル・ハートリー』
アメリカインディペンデンス映画の雄とも呼ばれる映画監督
ハル・ハートリーの作品4本が特集上映されることになり、
各作品の試写が行われた。
『はなしかわって』“Meanwhile”
2011年の作品で上映時間は59分。
監督の第11作だが、前作からは5年ぶりの作品とのこと。舞
台はNY。主人公は何やら素性がよくわからない男性。その
主人公がブルックリン橋から身を投げたかもしれない女性を
助けようと奔走するなど様々なエピソードが語られる。中編
だが、それを感じさせない見事な内容の作品だった。

『アンビリーバブル・トゥルース』
              “The Unbelievable Truth”
1989年の長編監督デビュー作。
NY郊外の町を舞台に、刑期を終えて故郷に帰ってきた青年
と周囲の人々との確執が描かれる。青年は車の整備工場に職
を得るが、そこには原発の危険やオゾン層破壊の危険を訴え
る少女などもいて…。オフビートな感覚だが、青年が犯した
罪の真相など、謎解きの構成も巧みな作品だった。

『シンプルメン』“Simple Men”
1992年作品。
日本でも劇場公開された作品で、その広告には故淀川長治氏
の推薦文があったそうだ。兄は犯罪者、弟は実直という兄弟
が、テロ犯として服役中だった父が脱獄したとの知らせに、
潜伏先と思われる町に向かうが…。その旅での出来事を描く
ロードムーヴィ風の作品。

『愛・アマチュア』“Amateur”
1994年の東京国際映画祭でヤングシネマ部門のシルバー賞を
受賞した作品。
舞台はNY。主人公は尼僧からポルノ作家に転職したという
女性。その女性が仕事場にしている酒場に、殺されかけて記
憶を失った男が現れる。そして主人公は男を保護するが…。
そこに国際犯罪組織や、ポルノ映画のディーヴァなどが絡ん
で、かなり尋常でない物語が展開される。

それぞれの作品は、フランス・ヌーヴェルヴァーグにも通じ
る見るからに低予算で、内容はオフビート。しかし登場人物
たちは、本当は悪人かもしれないが観客にはどこか愛すべき
連中で、その人物たちが懸命に生きている姿が描かれる。そ
れは観ていて心地よさに溢れる4作品だった。
公開は1月18日から、東京は新宿K's Cinemaにて。なお上映
は4作品が入れ替えで行われるので、上映時間等は映画館に
問い合わせて欲しい。2月15日から横浜ニューテアトルでも
上映が予定されている。

『黒執事』
枢やなの原作で2006年に連載開始され、すでに2度のテレビ
アニメ化も行われて、17巻出版されている単行本では海外を
含む発行累計が1600万部に達するという大人気コミックスの
実写映画化。
物語の舞台は、世界の主権が東西2つの陣営に分裂している
近未来。その西側陣営は女王が支配し、世界征服を目論む女
王は東側に「女王の番犬」と揶揄される諜報組織を送り込ん
でいる。
そして物語の主人公は、東陣営で巨大企業を営む名門貴族の
当主。と言ってもまだ幼い風貌の少年だが、彼には黒装束の
執事が常に付き従い、その執事は身をもって主人の命を守り
通していた。
そんな彼らに「女王の番犬」が次々怪死を遂げる事件が報告
される。その事件の真相を探るため彼らはとある秘密クラブ
に潜入を試みるが…。そこには東西陣営を揺るがす巨大な陰
謀が潜んでいた。

出演は、剛力彩芽、水嶋ヒロ。共演は優香、志垣太郎、山本
美月。さらに岸谷五朗、伊武雅刀、宮川一朗太らが脇を固め
ている。
脚本は、2011年のテレビ『謎解きはディナーのあとで』など
の黒岩勉。監督は2005年『NANA』などの大谷健太郎と、
今年8月紹介『アシュラ』などのさいとうけいいちが共同で
担当している。
僕は原作は見ていないが、元の物語は19世紀のイギリスが舞
台なのだそうだ。しかし日本人の俳優による映画化では無理
があるということで、近未来に変更されたとのこと。そして
ストーリー自体もオリジナルのものが創作されている。
とは言え、物語は現実というより元から魔界を舞台にしてい
るもののようで、それはかなり荒唐無稽でも許容されるもの
だろう。ただテロの手段が毒ガスもしくはそれに類似の手段
というのは、オウムサリン事件のトラウマかもしれないが、
何か別の捻りも欲しくは感じられたところだ。
因に、本作の製作はワーナー映画社の日本法人だが、同社の
日本漫画の映画化では、2012年6月紹介『るろうに剣心』は
続編が2本公開されるほどの評判になっているようで、今後
もこの路線は継続されるのかな。

公開は1月18日から、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。
なお本作の試写の前に、来年2月28日公開『ホビット/竜に
奪われた王国』の日本版予告編の初号試写が行われた。昨年
12月紹介作品の続編だが、いよいよ後の『LOTR』に繋が
る登場人物も次々登場するようで、近日行われる本編の完成
披露試写が楽しみになったものだ。


『神奈川芸術大学映像科研究室』
大阪芸術大学で大森一樹監督に師事した後に東京藝術大学大
学院に進み、そこでは黒沢清監督に学んだという坂下雄一郎
監督による大学院修了制作作品。
主人公は芸術大学映像科に勤務する助手。彼の本来の仕事は
学生からの提出書類の受付や教授会議のセッティングなど、
学校業務の円滑な運営だ。しかしその仕事は、保身しか考え
ない教授陣と問題児ばかりの学生の板挟みになっている。
そしてついに事件が起きる。それは卒業制作を進める学生が
起こした機材破損事件。実は、制作期日に間に合わない学生
が無断で保管庫から機材を持ち出そうとして発見され、慌て
た学生が機材を落として破損したのだが…。
事なかれ主義の教授陣はその事件をただの事故として隠蔽を
図り、そのため主人公には大学庶務課への嘘の報告書の提出
が指示される。しかしそれは次々に最悪の事態を引き起こす
ことになってしまう。
監督は、大阪芸術大学時代に実際に助手の立場だったことも
あるようで、本編のエピソードの中には実話に基づく部分も
多々あるようだ。しかし物語は楽屋落ちに終始するものでは
なく、現実社会にありそうな出来事が描かれている。
それは、例えば権威に囚われる上司と我が儘な部下の板挟み
になっている中間管理職の悲哀といった感じでもあり、そん
な物語が芸術大学映像科という一風変わった舞台の中で巧み
に表現されていた。

出演は、多摩美術大学映像演劇科出身で、2011年『ニュータ
ウンの青春』や、今年8月紹介『Miss ZOMBIE』にも出てい
たという飯田芳、2012年の主演デビュー作『彩〜aja〜』で
モナコ国際映画祭最優秀新人賞受賞の安藤千春。
また大阪芸術大学出身で、今月紹介『大人ドロップ』などの
前野朋哉。さらにテレビ『鬼平犯科帳』などの宮川不二夫、
今年9月紹介『ルームメイト』に出ていたという高須和彦ら
が脇を固めている。
他にも日芸、多摩美、京都造形など各大学の映像学科出身と
なる中村有、嶺豪一、中本章太といった若手俳優が学生役で
出演している。
なお本作は、2012年12月紹介『チチを撮りに』などと同じく
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にエントリーされ、その支援
の許で一般公開されるSKIPシティDシネマプロジェクトの第
4弾となるものだ。
公開は1月25日から、東京では新宿武蔵野館で2週間限定の
レイトショウとなる。
因に「神奈川芸術大学」というのは架空だが、撮影協力には
横浜芸術大学という名称が挙がっていた。特に神奈川・横浜
らしい風景が出てくるものではないが、その辺が監督の拘り
かもしれない。そんな拘りも重要だと思える作品だった。


『ゼウスの法廷』
2008年11月紹介『ポチの告白』などの高橋玄監督の新作。前
の作品では警察行政の腐敗を真っ向から描いた監督が、今回
は司法(裁判)の現実を暴き立てる。
主人公は婚約者が裁判所判事という女性。それは周囲からは
憧れの目で見られるが、現実は常時300件もの訴訟を抱えて
逢瀬の場にも仕事を持込み、一般社会からは隔絶した生活を
送る婚約者の姿だった。
そんな主人公が大学サークルの同窓会に出席し、そこで大学
時代に付き合っていた男性と再会する。そして奔放に生きる
男の姿に憧れも再燃させてしまう。こうして男との関係を続
けた彼女は判事との婚約解消も考え始めるが…
雨の日、男の住まいのアパートの階段上でもみ合いになった
彼女は、誤って男を転落・死亡させてしまう。こうして彼女
は重過失致死罪で起訴されるが、その裁判の判事は元婚約者
が希望して担当することになる。
本来、被告人の親族または元親族が裁判の判事を務めること
はできないが、本件の場合はまだ婚姻届を出していないため
に可能なのだそうだ。そんな法律の穴を突いたようなドラマ
が展開される。
勿論これは現実には有り得ない展開だが、脚本も執筆の高橋
監督が描くのは司法の矛盾であり、そこには矛盾を受け入れ
る元同僚の検察官や、矛盾を追求する恩師の弁護士なども配
されて実に見事なドラマが描かれている。

出演は、今月紹介『御手洗薫の愛と死』などの小島聖、昨年
4月紹介『道−白磁の人−』などの塩谷瞬(ただし台詞は、
全編で声優の椙本滋が吹き替えている)。
他に、野村宏伸、川本淳市、出光元、風祭ゆき、吉野紗香、
速水今日子。さらに冤罪被害救済活動を行っている元警察官
で評論家の仙波敏郎、三池崇史らを輩出したプロデューサー
の伊藤秀裕らが脇を固めている。
日本の刑事裁判では有罪判決が99.9%なのだそうで、裁判官
(判事)はほぼ検察の言いなりの裁判判決を繰り返している
そうだ。その矛盾を追求するのが本作の目的となっている。
しかしドラマは基本的に、裁判官と被告という立場になった
男女のラヴストーリーであり、そのオブラートも実に巧みに
機能した作品。そこには主演した小島聖の魅力も存分に発揮
されていた。
それにしても刑事事件で起訴されたらほぼ100%有罪という
恐怖政治が施行されている現実は、今まで考えていた以上に
恐ろしい状況で、それは今までにもいくつかの映画作品で描
かれたいたものではあるが、今回はそれが最も明白かつ強力
に提示された作品と言えそうだ。

公開は3月8日から、東京はシネマート六本木でロードショ
ウが予定されている。

『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』
               “Thor: The Dark World”
2011年5月紹介『マイティー・ソー』の続編。ソーは2012年
6月紹介『アベンジャーズ』にも登場したが、マーヴェル・
コミックスのヒーローたちが勢揃いする作品は本作から見る
と傍系で、本作は本来の続編となるものだ。
その物語は太古に始まる。ソーの父王オーディンは闇世界の
支配者マレキスを打ち倒し、闇の基となるダーク・エルフを
封印して宇宙に光をもたらした。そしてその封印場所は極秘
とされていた。
一方、ソーが去り失意の恋人ジェーンは天文物理学の研究に
没頭していた。その彼女は地球規模の重力異常を検知し、原
因を調査する内に彼女が辿り着いたのは次元の狭間の洞窟。
そこで何かが彼女の身体に取り込まれる。
その危機を救ったのはまたしてもソーだった。彼はジェーン
を救うため彼女をアスガルドに伴う。しかしそれは宇宙に最
大の危機をもたらす。復活したマレキスがジェーンに宿った
ダーク・エルフを追って来たのだ。
数万年に1度の宇宙を構成する7つの世界が直線に並ぶ時。
その時にダーク・エルフを開放すれば宇宙は再び闇に閉ざさ
れる。この危機にオーディンとソーが立ち向かう。そしてそ
こにはソーの弟ロキも関っていた。

出演は、2011年作、2012年作に続いてソーを演じるクリス・
へムスワースと、ロキを演じるトム・ヒドルストン。そして
ナタリー・ポートマン、アンソニー・ホプキンス、ステラン
・スカルスガルド、レネ・ロッソ、浅野忠信らが2011年作と
同じ役で再登場している。
さらにマレキス役で、テレビ『ドクター・フー』のクリスト
ファー・エクルストンが新登場する。
脚本は、2006年2月紹介作など『ナルニア国物語』の3部作
を手掛けたクリストファー・マルクス、スティーヴン・マク
フィーリーのコンビ。監督はテレビ『SEX AND THE CITY』な
どを手掛けた新鋭アラン・テイラーが担当した。
公開は3Dでも行われるが、今回の試写は2Dのみ。従って
3Dの効果などは確認できないが、映画の後半にはグリニッ
ジを舞台にしたかなり派手な破壊シーンが登場していた。ま
たエンディングロールのアニメーションはかなり凝ったもの
になっているようだった。
そのエンディングロールにはいつものようにいろいろ仕掛け
があったが、特に今回は最後に「ソーは戻ってくる」という
テロップが登場。それが2015年公開予定『アベンジャーズ』
のことなのか、単独シリーズの第3作なのかは謎というとこ
ろだ。

公開は2月1日から、全国一斉の2D/3Dロードショウと
なる。

『トップ・オブ・ザ・レイク』“Top of the Lake”
2010年4月紹介『ブライト・スター』などのジェーン・カン
ピオン監督が手掛ける母国ニュージーランドを舞台にした全
6回、総時間5時間50分に達するテレビドラマ。
物語の発端は湖畔の田舎町で起きた少女の入水事件。幸い発
見が早く少女の命は助かるが、少女の身体からは妊娠と麻薬
の跡が見つかる。そしてその事件の調査のために児童専門の
女性捜査官が町を訪れる。
しかし少女は口を閉ざし、しかも身重の身体で姿を消してし
まう。この事態に捜査官は町に留まり調査を継続することに
なるが…。湖畔の空き地には謎めいた女性の集団が駐留し、
また町は1人の男に支配されているようだった。
湖と森に囲まれ本来なら美しい自然、しかし荒涼とした印象
を与える風景の中でサスペンスに満ちた物語が展開される。
そしてそれはその町と主人公自身の尋常ではない過去を暴き
立てて行く。
物語の雰囲気は、デイヴィッド・リンチ監督『ツイン・ピー
クス』に似通ったところもあるが、実際に作品の中でも同じ
リンチ監督の同傾向の作品『ブルー・ベルベット』が言及さ
れるから、意識はしているのだろう。
とは言うものの、本作は正しく女性の感覚で作られており、
主人公や事件の中心となる少女の行動、また湖畔に駐留する
女性集団の様子などは、男性では到底描けなかったであろう
ドラマになっている。

出演は、テレビの“The West Wing”や今年5月紹介『オン
・ザ・ロード』に出ていたというエリザベス・モス、2008年
3月紹介『ブルー・ブルー・ブルー』に出ていたというトマ
ス・M・ライト。
また、1998年に“My Name Is Joe”でカンヌ国際映画祭主演
男優賞受賞のピーター・ミュラン、1993年カンピオン監督の
『ピアノ・レッスン』でオスカー受賞のホリー・ハンターら
が脇を固めている。
原作と脚本はカンピオンと、1995年“All Men Are Liars”
というオーストラリア映画を脚本監督しているジェラルド・
リー。監督はカンピオンと、まだ作品数は少ないものの製作
ニュースで何度か紹介した“Shantaram”の脚本にも参加が
発表されているガース・デイヴィスが担当した。
ところでこの作品は、海外のデータベースで見るとそれぞれ
略50分のエピソードで全7回となっているが、今回提供され
たサンプルは全6回、しかもエピソード1〜5はそれぞれが
略60分でエピソード6だけ略50分となっている。
つまり時間の合計は共に約350分で同じなのだが、その切れ
目が違っているようなのだ。
ただし、データベースのシノプシスを読む限り物語に過不足
は無いようで、何故こういう事になっているのか理由は不明
だが、僕の観たサンプルでは各エピソードごとに新たな展開
が待ち受けて、それは見事なドラマだった。

本作は1月10日に、DVDのセル&レンタルでリリースされ
る。

『オッド・トーマス』“Odd Thomas”
アメリカのSF/ホラー作家ディーン・クーンツが2003年か
ら発表している「オッド・トーマス」シリーズの第1作を、
『ハムナプトラ』シリーズ第1作、第2作や2004年『ヴァン
・ヘルシング』などを手掛けたスティーヴン・ソマーズ監督
が映画化した作品。
主人公は霊魂が見えてしまう青年。その霊魂は声を発するこ
とはできないが、彼を殺人の現場やその犯人の許に導くこと
ができる。そして彼はその犯人を警察に通報し、彼の能力を
信じる署長は何度も手柄を挙げていた。
そんな彼はまた別の存在も見ることができる。それは人の死
が近い時にその人物の傍に屯して、その苦痛を糧にしている
悪霊だ。ところがその悪霊が彼に住む街に大量に集結してく
る。これは最大級の災害の予兆だった。
しかしその場所や手段が判らない。このため彼は恋人や予知
夢を見る友人の助けを借りて、災害を未然に防ぐべく奔走を
始めるが…。次々に集結する悪霊の数はどんどんその数を増
していた。

出演は、『スター・トレック』の新シリーズでチェコフ役の
アントン・イェルチン、今年9月紹介『ミッドナイト・ガイ
ズ』などのアディソン・ティムリン、サム・ライミ版『スパ
イダーマン』などのウィレム・デフォー。
他に、2002年6月紹介『ブレイド2』に出ていたというレオ
ノラ・ヴァレラ、テレビドラマ『ドクター・フー』にレギュ
ラー出演のググ・バサ=ローらが脇を固める。
なおソマーズの映画監督は、2009年『G.I.ジョー』以来とな
るもので、本作では脚本、製作も担当している。
また本作を彩るVFXは、2012年12月紹介『ライフ・オブ・
パイ』なども手掛けたBUFが担当しており、かなりの物量
の映像を披露しているものだ。
死が近い人の傍に現れる悪霊ということでは、今年11月紹介
『赤々煉恋』を思い出したが内容的にはかなり異なる。でも
まあこういう発想は人間の精神の根底にあるものなのかな。
ただしその悪霊の出現から想起される死の状況は、日米では
かなり違う発想で、その辺には興味深いものがあった。

因にクーンツはかなり多作の作家だが、本作の原作シリーズ
では映画化された第1作に続く5作がすでに発表され、第7
作も予告されているとのことで、作者最大のヒットシリーズ
のようだ。映画の続編にも期待したい。
公開は1月10日から、東京は新宿バルト9、大阪は梅田ブル
ク7他にて全国ロードショウとなる。
なお今回データベースを調べたら、ソマーズ監督には2005年
9月15日付で紹介した“When the Worlds Collide”(地球
最後の日)のリメイクがまだアナウンスされていた。その他
の計画は掲載されていなかったが、一時消滅していた計画が
復活しているようで、地球最大の災厄を描くリメイク作品に
も期待したいものだ。



2013年12月08日(日) エンダーのゲーム、リディック/GB、仮面ティーチャー、大人ドロップ、ハンガーゲーム2、神さまがくれた娘、くもりときどきミートB

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『エンダーのゲーム』“Ender's Game”
1985年のヒューゴー/ネビュラW受賞を果たしたオースン・
スコット・カード原作SF小説の映画化。
物語の背景は、異星からの侵略を何とか撃退した後の地球。
世界政府は次の侵略に備えて軍備を強化しており、徴兵の対
象は幼い子供にまで及んでいる。そして主人公は、産児制限
されている中で許可されて誕生した3番目の子供。
彼の兄と姉も兵士としては優れていたようだが、その他の問
題で採用されなかった。そんな主人公に入隊の令状が届き、
彼は宇宙空間に浮かぶ訓練施設へと運ばれる。そこでは厳し
い訓練や古参兵からの苛めなどが待ち受けていた。
映画の前半は過去にいくらでもある新兵もので、見るからに
後で掌を返すであろう古参兵や、掛け声を歌いながらの駆け
足など、正直に言ってその手の新兵ものを見飽きている僕に
は、呆れて笑いも出てこない場面の連続だった。
ただしその中では、無重力の戦闘訓練など地上戦では有り得
ない場面の新規性は用意されているし、訓練の様子は1997年
『スターシップ・トゥルーパーズ』よりはちゃんとしていた
かな。その辺は現実の反映のようだ。
そしてその訓練の中で、最初は厭戦的だった主人公がめきめ
きと実力を発揮し、やがて部下を持ち訓練は終盤へと向かっ
て行くが…。訓練の最後に主人公に与えられた課題は、全軍
を率いて敵の母星を攻撃することだった。

出演は、2009年5月紹介『縞模様のパジャマの少年』などの
エイサ・バターフィールド、2011年1月紹介『トゥルー・グ
リット』でオスカー助演賞候補になったヘイリー・スタイン
フェルド。さらにハリスン・フォード。
他に、2012年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストーリー』で
オスカー候補になったヴィオラ・デイヴィス、今年10月紹介
『ザ・コール 緊急通報指令室』などのアビゲイル・ブレス
リン、2011年12月紹介『ヒューゴの不思議な発明』などのベ
ン・キングズレーらが脇を固めている。
脚本と監督は、南アフリカ出身で2009年『ウルヴァリン』な
どのギャヴィン・フッド。なお本作の製作者には、原作者の
カードも名を連ねている。
以前に翻訳された原作本は、3/11で崩れた書棚の何処かに
埋もれたままで、今回は新訳本を本屋でめくってみた。映画
の結末は小説版と同じようだが、印象としてはさらに思想が
明確になっている感じかな。
物語の大筋は、現実のアメリカが過去にヴェトナムや、今も
中東などで行っていることそのままだが、映画ではそれに対
する反省のようなものも明確にされている感じで、何かホッ
とする気分にもなれる作品だった。

公開は1月18日から、全国一斉のロードショウとなる。

『リディック/ギャラクシー・バトル』“Riddick”
2000年公開『ピッチ・ブラック』、2004年7月紹介『リディ
ック』に続く、デイヴィッド・トゥーイ脚本・監督、ヴィン
・ディーゼル主演によるアクションシリーズ第3弾。
物語の舞台は荒涼とした風景が続く惑星。そこには嘗て人類
のいた痕跡はあるが、今は荒野を駆け回る凶暴な肉食獣や、
地中に潜んで毒針を振りかざす巨大な蠍など、様々な形態の
危険な生物が跋扈している。そんな世界でリディックは今日
もサヴァイヴァルを続けていた。
そして彼はついに避難小屋を発見して救難信号を発信する。
しかしその信号は彼の首を狙うバウンティハンターを呼び寄
せる。しかもそれに続いて現れたのは、リディックを息子の
仇と狙う富豪の父親だった。そんな2チームは互いに協定を
結んでリディックを追い始める。
これに対してリディックは巧みに彼らの追撃をかわし、逆に
彼らを追い詰めて行く。果たしてリディックは、バウティー
ハンターたちを打ち倒し、その凶暴な惑星を脱出することが
できるのか…。
前作では共演者にジュディ・デンチなど大物俳優も招いて、
人間ドラマも描いて相応の大作に仕上げられていた。しかし
それは多少シリーズ本来の魅力も削ぐ結果にもなった。その
反省なのか本作では、正に第1作に立ち返ったような究極の
サヴァイヴァル劇が描かれている。
そこにはリディックがこの惑星に至った経緯や、彼と富豪の
息子との関係など、前作に繋がる話も多少はあるが、物語の
本質はサヴァイヴァルであり、過去の経緯などは知らなくて
も充分に楽しめる作品になっている。単純には凶暴な惑星の
姿が見事なCGI−VFXで繰り広げられるものだ。

共演は、2012年6月紹介『コロンビアーナ』のジョルディ・
モリャ、3月紹介『キラー・エリート』に出ていたというマ
ット・ネイブル、テレビ『バトルスター・ギャラクティカ』
にレギュラー出演のケイティ・サッコフ。
さらに今年4月紹介『アイアン・フィスト』などのデイヴ・
バウティスタ。そして6月紹介『スター・トレック イント
ゥ・ダークネス』などのカール・アーバンが前作に続いて登
場している。
本作でも暗視の目の効果は希薄で、その点は多少残念なとこ
ろではある。でもそれはトゥーイがまだその特性を活かし切
れる題材を見つけていないという観測も成り立つもので、本
作でリディックの物語が終る訳でもなく、また今後の展開に
期待したいものだ。
それに対して本作の見所であるディーゼルが演じるサヴァイ
ヴァル劇は、それはもう存分に描かれている。それを楽しむ
のが本質と言える作品なのだ。

公開は3月8日から、全国一斉のロードショウとなる。

『仮面ティーチャー』
今年7−9月にテレビの深夜枠で放送された藤沢とおる原作
ドラマの劇場版。
物語の背景は、教師による一切の体罰が禁止され、その結果
として非行やいじめが横行、教育現場が崩壊寸前となった近
未来。その世界で仮面を付けることで唯一力による指導を認
められた政府派遣の「特別教師」が主人公となる。
そしてテレビシリーズでは、1人の「特別教師」が荒廃した
区立高校に赴任し、彼はある体験から最初は非暴力の教育を
目指すが徐々に力での制圧も止むなしとなる。しかし最後は
教育の本質に目覚め、愛を武器に生徒の信頼を取り戻そうと
する姿が描かれたようだ。
まあ正直に言って物語は、書いていて恥ずかしくなるような
内容だが、作品としては仮面を付けたヒーローが戦いを繰り
広げることで、そこにはスタントマンによる吹き替えが可能
となり、作品の売りになるそれなりのアクションシーンが展
開できる仕組みになっているものだ。
そして本作は、テレビシリーズが一応の決着をした後の物語
となっているものだが、映画のプロローグでは本作の設定も
含めてテレビシリーズの概要が紹介され、映画だけの観客に
も経緯が判るように描かれていた。
その本作のお話は、主人公の成果により「特別教師」にも力
だけではない対応が求められるとする法律改正が進められる
中で、力を至上の対策とする勢力が主人公に新たな試練をも
たらすという展開が描かれる。
そこで主人公のいる区立高校に新たに2人の教師が赴任し、
彼らは政府の意向で暴力による統制を開始するが…

出演は、テレビシリーズからジャニーズKis-My-Ft2の藤ヶ谷
太輔、Sexy Zoneの菊池風磨、Jr.のジェシー、ABC-Zの塚田
僚一、関西Jr.の小瀧望。さらに大政絢、斎藤工らが登場。
そして本作では、新たに遠藤憲一、原幹恵、萩原聖人らが脇
を固めている。
脚本はテレビシリーズも手掛けた山岡潤平、監督はシリーズ
の総監督で2010年4月紹介『シーサイド・モーテル』などの
守屋健太郎が担当した。
藤沢とおるの原作コミックスは2006年から07年に発表された
もので、当時は教育現場の荒廃が問題になっていたのかな。
何れにしてもそれなりの社会的な問題は反映されていたのか
もしれない。
その状況は今もそれほど変わっていないとも言えそうだし、
そんな問題意識は何となく汲み取れる作品だ。もっともその
解決策はあまりに短絡的で、それがどうこうと言えるほどの
ものではないが。
ジャニーズマニアの観客層には、これで充分と言える作品だ
ろう。

公開は2月22日から全国ロードショウとなるようだ。

『大人ドロップ』
2005年のデビュー作「さよなら アメリカ」で芥川賞候補に
なった樋口直哉が、2007年に発表した同名小説の映画化。
主人公は夏休みを控えた男子の高校3年生。彼は教室ではす
ぐ前に座る女子に何かとちょっかいを出されているが、そん
な彼が親友に頼まれ、すぐ前に座る女子の親友であるクラス
メートとのデートをセッティングする。
ところがWデートになるはずだったその休日は、彼の親友の
いらぬ作戦で失敗に終ってしまう。実は主人公と級友の女子
は転校生同士で、以前は親しかったが最近は疎遠だった。そ
の関係がこれで決定的になってしまう。
そしてそのまま夏休みに突入してしまうのだが、突然主人公
に級友の女子が学校を辞め、急遽遠くに引っ越すという情報
がもたらされる。その話に突然胸にモヤモヤの立ち上がる主
人公だったが…
大人の階段の一歩手前。しかもその階段を登ってしまって良
いか逡巡している若者の姿が、暖かく、優しく、柔らかく描
かれている。そしてそれは、すでに大人になってしまった自
分には何とも懐かしく感じられる作品だった。

出演は、2010年9月紹介『信さん』や2012年10月紹介『横道
世之介』などの池松壮亮、2012年12月紹介『さよならドビュ
ッシー』やテレビ『あまちゃん』などの橋本愛。
それに2005年2月紹介『ZOO/カザリとヨーコ』に主演の
小林涼子、2010年1月紹介『桃まつり−うそ/カノジョは大
丈夫』に主演の前野朋哉。さらに諏訪太朗、香椎由宇らが脇
を固めている。
脚本と監督は、今年9月紹介『ケンとメリー・雨上がりの星
空に』と同時公開された『風俗行ったら人生変わったwww』
などの飯塚健。先の作品も暖かく、優しく、柔らかい感じだ
ったが、本作もその色調は変わっていない。
本作は一般的にはファンタシーとは呼ばないだろう。ただし
これは映画だけのものかもしれないが、どことなくファンタ
スティックなムードも感じられ、それは好ましくも感じられ
る作品だった。
因に原作者のデビュー作は、安部公房の「箱男」へのオマー
ジュ作品だそうで、本作の原作にも同じようなムードは漂っ
ているのかもしれない。だとしたらこの映画化の演出は見事
としか言いようのないものになっている。
それに若い4人の俳優と、ベテラン俳優たちの演技の噛み合
わせも上手く演出されている作品だった。
それにしても、最近の学園ものは何かと殺伐とした作品が多
い中で、このような作品を観せて貰えるのは本当にホッとし
て嬉しく感じられたものだ。

なお公開は4月4日からと紹介されたが、まだ劇場などは決
まっていないようで、それが報告されたら追加情報として掲
載することにしたい。

『ハンガーゲーム2』
          “The Hunger Games: Catching Fire”
アメリカでは『トゥワイライト』サーガを上回るヒットとさ
れる2012年7月紹介作品の続編。
圧政を敷く執権者が民衆の不満を逸らす目的で実施するハン
ガーゲーム。前作で第12居住区からそのゲームの代表に選ば
れた妹に代って志願出場し、見事にゲームに勝利した主人公
は、今や民衆のアイドルとなっている。
しかし主人公の勝利はゲームの欠陥も露呈し、このため主人
公は民衆の叛旗のシンボルにもなり始める。そこで執政者に
は主人公を公然と抹殺する必要が生じていた。その方策とし
て執政者が目論んだのは…
第75回を迎える大会を25回ごとの記念大会とし、過去の勝者
たちを集めた特別ゲームを実施すること。それは新たに作ら
れた競技場で行われ、そこには以前とは異なる死の罠が仕掛
けられている。
そして主人公を抹殺するための陰謀も張り巡らされていた。

出演は、前作に引き続いてヒロインを演じるジェニファー・
ローレンスと、相手役にはジョッシュ・ハッチャースン、リ
アム・ヘムズワース。さらにウッディ・ハレルスン、エリザ
ベス・バンクス、ドナルド・サザーランド、スタンリー・ト
ゥッチらも引き続き登場する。
そして本作からは、昨年12月紹介『ザ・マスター』などのフ
ィリップ・シーモア・ホフマン、昨年6月紹介『スノーホワ
イト』などのサム・フランクリン、2011年4月紹介『エンジ
ェル・ウォーズ』などのジェナ・マローン、2009年4月紹介
『ブッシュ』などのジェフリー・ライトらが新登場で脇を固
めている。
監督は、前作のゲイリー・ロスに代って2005年2月紹介『コ
ンスタンティン』や2011年12月紹介『恋人たちのパレード』
などのフランシス・ローレンス。スーザン・コリンズ原作か
らの脚色は、2009年1月紹介『スラムドッグ$ミリオネア』
でオスカー受賞のサイモン・ボーフォイが担当している。
正直な感想を言うと、物語の展開は前作のものと同じように
見える。もちろん用意された舞台は異なるし、死の罠などの
スケールもアップしているものだが、全体的な流れは同じよ
うに見えてしまう。
でもそれがこの映画を観るファンの期待なのだし、その期待
に沿っているからこそ、アメリカでは前作を上回る爆発的な
ヒットに繋がったのは間違いないところだ。そこにこの作品
の価値は認めなくてはならない。
ただし、次回作でも同じことを繰り返すのは許されないもの
だが、物語はちゃんと新たな局面を迎えるように進行される
ようだ。そのための伏線というか、かなり明白な準備が本作
には数多く設けられている。
役者も揃った次回作に、大きな期待が向けられるように作ら
れた作品なのだ。

公開は12月27日から、全国一斉ロードショウとなる。

『神さまがくれた娘』“தெய்வத்திருமகள்”
2012年の第7回大阪アジアン映画祭でグランプリとABC賞
をW受賞した2011年製作のインド・タミル語映画。
主人公のクリシュナは、大人の身体なのに知能は6歳児とさ
れる男性。彼は南インドの避暑地ウッディーで、同じ障害を
持つ仲間たちとチョコレート工場で働いていたが、真面目で
絶対に嘘はつかず誰からも愛されていた。
そんな彼も結婚して女の子を授かるが、妻は出産の時に亡く
なってしまう。そのため赤ん坊を1人で育てることになった
クリシュナは、最初は混乱もするが娘をニラー(お月様)と
名付けて、周囲の協力もあって大切に育てる。
そして時が経ち、5歳になったニラーは小学校に通うことに
なる。しかしそこには運命的な出会いが待っていた。それは
その学校を運営する一族がニラーの母親の実家であり、母親
は長く音信不通だったのだ。
そのため実家の一族は、忘れ形見であるニラーを取り戻すこ
とを画策し始める。しかもそれはクリシュナが知恵遅れであ
り、彼には娘の養育能力がないと訴えることだった。

出演は、タミル語映画の最高の人気スターと言われるヴィク
ラムと、インドで数多くのCMに出演しているという子役の
サーラー。サーラーはムンバイ生まれでヒンディー語映画に
出演はあるが、本格主演作は初めてとのことだ。
他に、テグル語映画で活躍のアヌシュカー、マラヤーラム語
映画出身のアマラー・ポール、タミル語映画のナーセル、サ
ンダーナムらが脇を固めている。
脚本と監督は、インドで150本を超えるCMを監督したとい
うA.L.ヴィジャイ。音楽を2009年1月紹介『スラムドッグ
$ミリオネア』で米アカデミー賞を受賞したG.V.プラカー
シュ・クマールが担当している。
物語は、真正直に言って2001年にショーン・ペン、ダコタ・
ファニングの主演で映画化された『アイ・アム・サム』と同
じものだ。実際にヴィクラムの演技にはその模倣に見えると
ころもあるし、物語も後半は養育権を巡る裁判になるなど、
極めて似ているものだ。
でもこういう物語は何度見ても心が洗われるし、展開には多
少はインド特有の部分もあったりして、結局のところは許し
てしまえる作品になっているとも言える。
それに、ニラー役の2006年生まれサーラー(配役表ではベイ
ビー・サーラーとあるが、インド映画では子役にベイビーと
付けるのが通常なのだそうだ)の演技は、正にベテランも子
役には勝てないという感じだった。未来のダコタ、あるいは
エル・ファニングの誕生を見られた感じだ。

公開は、2月15日から東京は渋谷ユーロスペースとシネマー
ト六本木にて。大阪は3月にシネマート心斎橋で予定され、
以後全国順次ロードショウとなる。

『くもりときどきミートボール2
            〜フード・アニマル誕生の秘密』
        “Cloudy with a Chance of Meatballs 2”
2009年公開の前作の時は、試写の案内が来なくて紹介ができ
なかった。しかし後日に東京銀座のソニービルに寄ったら、
上層階のハイビジョンシアターで3D上映が行われており、
そこで鑑賞できたものだ。その作品の続編。
物語の舞台は、昔はオイルサーディンの缶詰で栄えたとされ
るスワロー・フォール島。しかし今はその面影もなく、島民
たちは倒産した缶詰会社が遺したサーディンを食べて処理す
る毎日だった。
そんな島で暮らす主人公は幼い頃から発明家を夢見ていた。
でも彼の発明品は皆に迷惑を掛けるばかり。しかし新発明は
水から食べ物を合成するマシンで、それはサーディンを食べ
飽きた島民に最高の贈り物になるはずだった。
ところがそのマシンが暴走して島を大混乱に陥れる。そして
その混乱を何とか修復したのが前作でのお話。その功績で、
主人公が世界の発明家を集めた企業に招かれるところから続
編は始まる。
一方、企業は島民を退去させて島の復旧も進めていた。こう
して主人公にも島にも平穏が訪れたかに見えたが…。実は、
主人公が止めたはずのマシンが再稼働し、島に新たな脅威が
訪れる。
その脅威を調査し食い止めるため、主人公と前作の仲間たち
は再び島に向かうことになる。

監督は、前作や、2012年9月紹介『モンスター・ホテル』の
ストーリーボードを担当したクリス・パーンと、2001年11月
紹介『シュレック』などシリーズ最初の3部作のストーリー
に参加していたコディ・キャメロン。
また脚本は、前作の脚本・監督を務めたフィル・ロードとク
リス・ミラー、それにテレビ『サウスパーク』などのエリカ
・リヴィノヤの原案に基づき、リヴィノヤと2011年9月紹介
『モンスター上司』などのジョン・フランシス・デイリー、
ジョナサン・M・ゴールドスタインが執筆している。
因に本作の元々のお話はジュディ・バーレット(文)とロン
・バーレット(絵)の絵本に基づくが、映画のストーリーは
独自のものになっている。
前作では食べ物が巨大化して、それは夢のような世界が繰り
広げられたが、本作ではその食べ物が動物となって、さらに
魅力的な夢の世界が展開される。
食べ物を擬人化するというのは、結局食べ物ということで、
まあ大人の目から見るといろいろ問題はあるが、お子様向け
には正に夢の物語だ。そんな夢の世界で主人公たちの冒険が
繰り広げられる。

公開は12月28日から、全国一斉の2D/3Dロードショウと
なる。



2013年12月01日(日) ダ・ヴィンチ・デーモン、ミトン+こねこのミーシャ、御手洗薫の愛と死、小さいおうち、ノー・ヴォイス

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ダ・ヴィンチ・デーモン』“Da Vinci's Demons”
2005年5月紹介『バットマン・ビギンズ』以降の『ダークナ
イト』3部作や、2005年2月紹介『ブレイド3』などの人気
シリーズを手掛けた脚本家デイヴィッド・S・ゴイヤーが描
く、若き日のレオナルド・ダ・ヴィンチの冒険物語。
イギリスBBCの製作で、本国では今年4月から放送され、
日本でも7月に放送されたテレビシリーズの第1シーズン・
8話が12月6日にDVDリリースされることになり、最初の
2話の試写と8話までのサンプルDVDを鑑賞した。
ダ・ヴィンチは1452年、メディチ家が支配するフィレンツェ
共和国トスカーナ・ヴィンチの生まれ。父親はフィレンツェ
の公証人だったが彼自身は非嫡出子とされ、5歳までは母親
の許で暮らした。
しかしその後は父親の家に引き取られ、14歳で当時の「フィ
レンツェで最も優れた」工房を主宰するヴェロッキオの許に
弟子入り。その後の約10年間を過ごしたこの工房での時代が
物語の背景になっている。
そのフィレンツェは、物語ではバチカンが権力を握るローマ
と敵対しており、そのローマとの外交や武力での衝突。そし
てフィレンツェの内情を探るスパイの暗躍などが、主人公の
冒険を彩って行く。
一方、ダ・ヴィンチは幼少期の神秘体験として、寝ていた子
供用ベッドの手摺に舞い降りたハゲワシが、尾で彼の口元を
叩いた記憶と、謎めいた洞窟に入ろうとした記憶を書き残し
ており、それらも物語の背景とされている。
そしてここは史実と異なるが、主人公は幼い頃に母親と生き
別れ、その母親の所在を突き止める目的が、彼を様々な冒険
に導いて行く。その中ではスペインのイザベラ女王やルーマ
ニアの串刺し王ブラド・ツェペシュも登場する。
なおイサベル女王は1451年生まれ、串刺し公は1431年生まれ
で、いずれもダ・ヴィンチと同時代の人たちだ。
さらにはダ・ヴィンチが発明したとされる凧に乗って上空を
飛ぶ様子や色々な絡繰、また機関砲、クラスター弾といった
兵器など、様々な事物が物語を彩る。それは正に大冒険活劇
という感じのシリーズになっているものだ。
ついでに言うと、何故か毎回のように映像に暈かしの掛けら
れたベッドシーンも登場する作品だ。

出演は、2009年“Happy Ever Afters”という作品に主演が
記録されているトム・ライリーと、2011年8月紹介『キャプ
テン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』に出てい
たというローラ・ハドック。
さらに2008年1月紹介『ライラの冒険・黄金の羅針盤』に出
ていたというエリック・コーワン、2009年1月紹介『ロック
ンローラ』に出ていたというブレイク・リットン等。つまり
これからブレイクしそうな若手俳優たちが活躍している。
脚本と監督は、第1話、第2話はゴイヤーが自ら担当。その
第2話の脚本から今年9月紹介『ウォーキング・デッド』も
手掛けるスコット・M・ギムプルらが参加。また監督では、
第3話以降はテレビドラマ『ドクター・フー』なども手掛け
るジェイミー・ペインらが担当している。
なお今回はシーズン1の8話を観させて貰ったが、実は物語
は終っていない。因にデータベースによると、2014年にシー
ズン2の予定も発表されていた。
実際に第8話までの物語では、当時は未発見の南米大陸の存
在なども示唆されており、今後の展開では1492年にアメリカ
大陸に到達するコロンブスなども絡んでくるかもしれない。
壮大なスケールが予想される以後の物語にも期待したい。


『ミトン+こねこのミーシャ』
『チェブラーシカ』などの作品が日本でも人気の高いロシア
のアニメーション作家ロマン・カチャーノフの作品4本が、
カチャーノフの没後20周年を期して劇場公開される。その内
の2本は日本初公開の作品だ。
『こねこのミーシャ』“Как котёнку построили дом”
1963年制作。日本初公開。ある日、野良猫のミーシャの暮ら
していた居心地の良い家が取り壊される。そこに現れたトラ
クターは新しい家が建つと説明するが、ミーシャや小鳥たち
は心配そうだ。そして家の建設が始まる。

『迷子のブヌーチカ』“Потерялась внучка”
1966年制作。日本初公開。お祖父ちゃんがちょっと目を離し
た隙にヌブーチカがいなくなる。心配なお祖父ちゃんは警察
に届けるが、警察は泥棒捜査の真っ最中。そしてヌブーチカ
は街でいろいろな人に出会って大冒険中だった。

『ミトン』“Варежка”
1967年制作。主人公は仔犬を飼いたいが母親に許して貰えな
い少女。そんな少女が雪の日に外で赤いミトンの手袋を仔犬
に見立てて遊んでいると、何とそのミトンが赤い仔犬になっ
てしまう。

『レター』“Письмо”
1970年制作。海軍に勤務する夫からの手紙を待つ妻と息子。
しかしその手紙が何日も届かなくなる。不安で悲しみにくれ
る母親を心配する息子は、ベランダを船に見立てて夜の街に
冒険の旅を始める。
日本でも先に公開されている後の2本は純粋にファンタシー
として素晴らしい。それに比べると前の2本は、新しい住居
の建設だったり、警察の活躍などちょっとプロパガンダの匂
いがする。多分それはソ連時代の反映なのだろう。
とは言え1967年、70年もソ連体制下に変わりはないが、監督
の業績が認められて、それだけ創作の自由も与えられたとい
うことなのかな。より自然にファンタシーが描かれているの
も素晴らしいところだ。
また、今回公開される作品は4本とも人形アニメーションだ
が、『迷子のブヌーチカ』では一部に線画のアニメーション
が使われるなど斬新な試みも行われている。そのテクニック
も面白い作品だった。

公開は、「ロシア文化フェスティバル2014」の一環とし
て、東京では12月21日からヒューマントラストシネマ渋谷、
大阪は1月4日からテアトル梅田にてロードショウされる。
なお上映時間は4本合わせて51分と短いもので、入場料は均
一の1000円、大人が小学生以下の子供同伴の場合には、子供
は1人当り500円になるとのことだ。

『御手洗薫の愛と死』
テレビで評判になった『ナースのお仕事』シリーズなどを手
掛ける大賀文子プロデューサーと両沢和幸監督が、人気女流
小説家と新人小説家が足を踏み入れてしまった特殊な関係を
描いたオリジナル作品。
主人公は著名な小説家。常にベストセラーになる人気作家だ
が、実は最近の自分仕事には満足感が得られていない。それ
が高じたのかパーティの席で長年の秘書で運転手だった男性
を馘にしてしまったようだ。
そんな女流作家の許に1人の若者が訪ねてくる。実は作家は
パーティの帰路に自ら運転していた車で事故を起こし、その
若者の母親を跳ねてしまったのだ。しかし飲酒運転だったこ
ともあり、作家はその事故を隠すように頼んでいた。
ところがその若者は、自らも作家の端くれと称し、ある提案
を女流作家に申し出る。それは彼女の原稿を若者の名前で発
表しろというものだった。つまり彼女に若者のゴーストライ
ターになれという…。
ゴーストライターという言葉には、最近では2011年7月に紹
介したロマン・ポランスキー監督の作品なども思い出すが、
そんな政治的な陰謀は絡まないものの、本作でも色々な人間
の葛藤やそこから見出される展望などが描かれる。
その人間ドラマはかなり巧みに描かれたもので、脚本も手掛
けた監督には長年テレビの人気シリーズを支えた実力が感じ
られた。正直には、最近テレビ出身監督のいい加減な作品に
辟易していた自分には刮目の作品だった。
もっとも監督は、元々が日活撮影所で助監督の出身だそうだ
から、この映画に対する真面目さはその所以なのだろう。さ
らに映画でも、すでに国際映画祭の正式招待など実績を挙げ
ている監督でもあった。

出演は、吉行和子とロックバンドSOPHIAの人気ヴォーカリス
ト松岡充。他に小島聖、松重豊。さらに益岡徹、松下由樹ら
が脇を固めている。
吉行は今年9月紹介『燦燦』も良かったが、周囲に参考が多
かったかもしれない本作の役柄も巧みに演じている。さらに
本作では、女流作家がゴーストライターになる心理も巧みに
表現しており、特に仕事に行き詰まった作家が、他人名義で
復活する心理は納得できる感じに描かれていた。
また最後に女流作家が新人作家を諭すシーンは、ある意味で
最近の日本文学の傾向に危惧を述べている感じでもあり、こ
れは脚本も執筆した監督の日本文学及び日本映画に対する警
鐘のようにも感じられた。これは僕も同意見なので特に納得
したものだ。

公開は1月18日から、東京は有楽町スバル座ほかにてロード
ショウされる。

『小さいおうち』
2010年、第143回直木賞の受賞作でベストセラーにもなった
中島京子原作の映画化。『男はつらいよ』シリーズなどを手
掛け、家族映画の名手とも言われる山田洋次監督が、初めて
家族の秘密を描いたと言われる作品。
物語は、1人の女性が大学ノートに書き残した自叙伝の形で
語られる。
昭和10年、当時は花嫁修業ともされた女中奉公で彼女は山形
から東京に出てくる。そして最初の1年は小説家の家に奉公
し、そこからの推薦で東京郊外の丘の上に建つ赤い屋根の家
にやって来る。
その家はまだ若い主人が建てたもので、家には若く美しい妻
と、小児麻痺に罹りリハビリのマッサージを続けている幼い
息子が暮らしていた。そんな彼女の日課の一つは、その子を
神田の治療院まで連れて行くことだった。
そんな暮らしの中で主人の妻からマナーや言葉遣いも学び、
一家の信頼も得るようになった彼女だったが、その一家に波
風が立ち始める。それは主人の会社の新年会で、部下の男性
が家を訪れたことから始まる。
丙種合格で徴兵を免れている男性は、美術学校出で戦意高揚
の周囲の男性たちと異なる優しい心の持ち主だった。そして
闘病を続ける息子も気遣ってくれる男性に女主人の心が揺ら
いで行く。その姿を見ても何もできない女中だったが…。

出演は、松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆。さらに
妻夫木聡、倍賞千恵子。また、橋爪功、吉行和子、室井滋、
中嶋朋子、ラサール石井、林家正蔵、米倉斉加年らが脇を固
めている。
この原作本には何とも複雑な気分が付き纏う。バージニア・
リー・バートンの絵本『ちいさいおうち』は、1952年のディ
ズニー短編アニメーション“The Little House”も含めて僕
は大好きな物語だし、その名作と同じ題名はいかがなものか
と思ったものだ。
従って原作本は手に取ることもなかったが、今回映画化を観
ていると成程という感じになってきた。その絵本はあくまで
も家の話で、絵自体が家の外観とその周囲の様子を描き続け
ているものだが、中島京子の作品はその家の中で起こってい
たことを描いている。
しかもこれは、視点は違いこそすれ、やはり「ちいさなおう
ち」そのものの話であって、これが絵本の題名を借りてでも
原作者が描きたかったものだと納得できる物語だった。そし
て映画では、昭和10年から戦争に向かう日本人の暮らしぶり
が見事に再現されていた。

公開は1月25日から、全国一斉ロードショウされる。

『ノー・ヴォイス』
2012年12月紹介『ひまわりと子犬の7日間』と同じ飼い主に
捨てられたペットの状況を描いた作品。
主人公はそれなりの顔立ちだが、手に職もなく、彼女もいな
い、はっきり言えばいい加減な男。そんな彼がある日、草む
らに捨てられた仔犬を拾う。そして住まいのアパートに連れ
帰るが、隣人からペット禁止と言われてしまう。
彼はその仔犬を換金しようと考えていたが、思惑通りには行
かず、彼は仔犬を保健所の前に捨ててしまう。しかし不思議
な縁が再び彼を仔犬に引き合わせ、その縁で彼は捨てられた
ペットの保護団体で働き始めるが…
昨年紹介の作品と同じで、仔犬が可愛ければそれだけで成立
してしまうような作品だが、その描いている現実はかなり厳
しいものだ。そんな厳しい物語を、本作では主人公の呆れた
行状などを緩衝材にして柔らかく描いている。
その描き方は甘すぎると考える向きもあろうと思うが、そこ
で監督はドラマの物語の後にドキュメンタリーを付けること
で問題点を浮き彫りにする。このドラマとドキュメンタリー
の2本立ては、映画界初と称されているものだ。

出演は、2001年テレビ『ウルトラマンコスモス』や、2009年
7月紹介『TAJOMARU』にも出ていたという市瀬秀和、2006年
『呪怨〜パンデミック〜』や舞台『銀河英雄伝説』などに出
ている樋口夢祈。イケメン2人の共演という作品だ。
脚本と監督は、今までに手掛けた短編作品で世界の20以上の
映画祭で受賞を果たしているという古新舜。なお脚本は「ド
ッグ・シェルター」などの著作のある児童文学者・今西乃子
の監修によっている。
また併映のドキュメンタリーのナレーションは、最近テレビ
のペット番組などにコメンテーターとして活躍の浅田美代子
が担当している。
なお本作はすでに単館公開が終了しているものだが、その前
には試写が行われず、今回は年末からの再公開を控えて特別
上映会で観せて貰った。その際には監督とのQ&Aも行われ
たが、ドラマの撮影は5日間で行われたとのこと。その割に
は出演した仔犬の名演に感心したものだ。
また監督の発言では、「飼い主に捨てられたペットの問題は
犬だけでなく、実際に保健所で処分される数は、猫の方が犬
の3倍近くある」とのことで、次回は猫をテーマにした作品
を考えているそうだ。
猫の問題は、野良猫への餌やりなど描くべき内容は多岐に亙
るから、その次回作にも期待したいものだ
再公開は12月21日から、東京はオーディトリアム渋谷にて、
その後は全国順次ロードショウとなる。また各地の映画祭や
映画館以外での上映ツアーも計画されているようだ。


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井口健二